第13話 コラボ配信・教えてステラ先生!⑤ 戦闘講義

「さて、というわけで皆様お待ちかねの実戦訓練をやってまいりますわよ~~~~~~~~~!!!!」


『ひゅーひゅー!』

『どんどんパフパフ』

『ついにAランク探索者の戦い方講座が始まる……!』

『楽しみ』

『いやまあ言うて新人向けだからそこまで深いことはしないだろうけど、それでもどんな話するのか気になる』


 ステラの言葉に、コメント欄が盛り上がる。それも当然と言えば当然なのかもしれない。最高ランクの探索者が、初心者向けとはいえ戦い方を教える場面を見ることができるというのはやはり貴重な機会であるのだ。

 そして楽しみにしているのは教わる三人、特にステラのようになりたいと言っているヒナにとっても同じことだ。


「それでそれで、どんなことをするんですか?」


 そう言って目を輝かせるヒナに、ステラは「そうですわね……」と少し考えるそぶりをみせる。


「とりあえずパーティー単位での戦闘における動き方の基礎の話と、それから模擬戦闘をやりましょうか」


 そして出てきたのは、とても無難な案。しかし無難というのは、言い換えれば基本的なことをやるということでもある。こういった授業のような場で基本をやるのは大事なことと言えるのだから、あえてそこを外す理由はステラにはなかった。

 だが無難ということはインパクトのあるものではないともいえる。だからだろう、彼の言葉にハルカが「えー」と不満そうな声を上げる。


「こう……なんか手っ取り早く強くなれますみたいなテクとか教えてくれへん?」

「レベルアップしなさい」

「うわめちゃくちゃバッサリやん」


『一言で終わらせてて草』

『まあそれはそう、それはそうなんだけど』

『答えがあっさりすぎる』


 そんな甘えたようなことを言ったハルカをステラはバッサリと一言で切って捨てて、「当たり前でしょう」と呆れたように言いながらため息をつく。


「代償も無しに簡単に強くなる方法などそうありません。アホなこと言ってないで真面目にやってまいりますわよ」

「はぁ~い」


 叱られたハルカは、しかしおそらく本気で言っていたわけでもないのだろう。間延びしたような声でそう答えるとあっさりと納得したようだった。


「さて、それでは早速やってまいりますが……とりあえず、始める前に改めて皆様の戦闘における役割と主に使用する武装を教えていただいてもよろしくて?」


 そして続いたその言葉に、「はい! それじゃあ私から!」と前に出て元気よく答えたのはヒナ。

 彼女は、腰に佩いている刃渡り90センチほどの剣を鞘から抜くと、それを両手で構えるように持ってステラに見せる。


「私は、この剣を使って前に出て戦う役割です! えっと、前衛戦士って言えばいいんでしたっけ? そんな感じです!」


 彼女がそう言って答えた役割は、その言葉通りに戦闘時主に前線に出てモンスターとの直接戦闘を引き受けるものだ。

 その立ち位置の関係上、最もモンスターからの攻撃を受けることになるため、怖気づかずに踏み込んでいける性格でなければこの役割を担うのは難しい。だが、だからこそこの三人の中では、押せ押せいけいけの推定アホの子であるヒナに向いた役割だったのだろう。


 次に前に出たのはリリ。彼女は先ほどの魔法の話の時に使っていた杖を構えている。


「わ、私は戦うときは後ろで魔法を使って能力を上げたり、あとは魔法攻撃したりしてみんなの援護をしてるよ。武器として使ってるのはこの杖……っていうかデバイスだけど、あんまりこれで叩いたりとかそういうのはしないかな……?」


 あまりぐいぐい前に出るタイプではない……というかはっきりと一歩引いたタイプである彼女は、前で戦うよりも後ろから援護する役割らしい。先ほどは『火炎』の魔法を使っていたが、魔法専門の役割であること、そして携行型としては大型のデバイスを持っていることから、本人も言っている通りの能力上昇バフの魔法を始めとしてそれなりの数の魔法をインストールしているはずだ。


 最後はハルカの番である。彼女は短剣で手遊びをしながら前に一歩出てきた。


「ウチはこうなんていうか、前で戦っとるヒナが戦いやすいように敵を撹乱したり、後ろのリリに攻撃がいかんように妨害したり、そんな感じやね。武器はこの通り、短剣や」


 彼女の役割は、遊撃……と言えばいいだろうか。その場その場に応じて立ち位置を変え、攻撃する相手を変え、ヒナとリリの間を埋めるように立ち回るポジション。冷静さと視野の広さを求められる役回りであり、かなり難易度が高いと言えるものだ。だがおそらく、それをこなす自信がハルカにあったのだろう。あるいは向いていたか。実際、ステラは前回の探索配信に少し目を通したがこの役割分担でちゃんと回っていたようだったので、自信か向いていたのかのどちらかはわからないがそれは事実なのだろう。


「なるほど……バランスの良いパーティーですわね。

 ちなみにですがリリさんはともかく、ヒナさんとハルカさんは魔法はどの程度お使いに? あと、皆様シールドのデバイスはどのようなものを使っておりまして?」


 彼女らの役割紹介に一つ頷いて、ステラは次いでそのような質問をした。

 通常のデバイスと魔術障壁マギテクスシールド用のデバイス。二つを分けて問うたその言葉は、事実としてその二つは基本的に別々に分けて持つものであるから出た質問なのである。魔術障壁マギテクスシールドは術式が複雑かつ必要容量が大きいため、普通のデバイスとは分けて専用のデバイスを用いるのが常識なのだ。

 そして彼の言葉を受け、最初に動いたのはリリ。彼女は、自らの服の中に手を入れると、おそらく内ポケットからカード型の薄いデバイスを取り出す。

 これが、彼女の使っているシールド用のデバイスだ。


「えっと、シールドのデバイスはこれ。事務所支給で、全員同じの使ってるよ」

「ふむ……なるほど、ミミル社のASオートシールドサティスファクションシリーズの……第七世代ですか。最新式の、ミドルレンジモデルとしてはそこそこいいヤツですわね。普段使いにちょっと欲しいですわ……わたくしが今使ってるの、ハイエンドで性能は良いのですけれども、Aランク以外のダンジョン行くときに持ち歩くのちょっと怖いんですもの。失くしたら一か月くらい立ち直れない自信ありますわ」


『本音漏れてて草』

『ハイエンドモデル、一番安くてもお値段が普通に億超えてきてびっくりしちゃうもんね……』

『ミミルのデバイスはいいぞ』

『あそこ、全部価格の割に性能良くて結構お世話になってるな』

『ハイエンドモデルには敵わないけど、そんな高いランクでもなきゃ十分すぎる性能なんだよな』


 真剣かつ欲望に満ちたステラの視線に少し引いた様子を見せるリリ。彼女はとりあえずその視線から逃れようとカード型デバイスをしまい込みながら「ほら、ヒナちゃん!」と話題をヒナの方に押し付ける。

 突然押し付けられたヒナは、「えっ!?」と一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに気を取り直すと、気まずそうに苦笑いしながら、ステラに見せるように右手を差し出す。

 その右手の中指には、指輪型の機械が付けられていた。彼女のデバイスだ。


「え、ええっと……デバイス自体は持ってるんですけど、実はあんまり使わないです……なんか、戦ってるとわちゃわちゃーってなっちゃって魔法まで気が回らなくって」

「ウチはまあ、遠くて間に合えへん時とかにちょこちょこ使うかなーって感じかな。まあデバイスも容量あんま大きくないやつやし魔法は今んとこ『射出』くらいしか入れてへんけど」


 自身の現状を少し恥ずかしがっているようなヒナの言葉。それに続けて言ったハルカは、右足にアンクレット型のデバイスを付けていた。

 その二人の言葉を聞いたステラは、特になにかコメントをするでもなく「ふむふむ」と頷きながらなにやら考え事をするように顎に手を当てていた。だがすぐに、何か決めたのかにこりと笑う。


「おーけー、整いましてよ。……それでは皆様、とりあえず一度戦ってみましょうか!

 こちらのモンスターの方々と!!!!」

「うえっ!!?」


 そして彼が言ったと同時、彼の後ろに突如としてモンスターの群れが現れた。

 先日のダンジョンで見たようなゴブリンや、狼のような獣のモンスター、骨だけになった人の姿のものや動く草のような植物であったり、他にも様々なモンスターがいるその群れに、三人は驚きの声を上げてしまう。


「お~~~っほっほっほ!!!

 シミュレーションルームの利点がこれ! 実はなんとここ、こうやってめちゃくちゃいろんな種類のモンスターを呼び出して模擬戦闘ができるのですわよね~~~~~~!!!!! だから皆様もシミュレーションルーム使いましょ!」


 そんな彼女らに、得意げに胸を張って笑うステラ。

 彼の様子をよく確認してみると、何やら手元に浮かぶコンソールのようなものを操作していることがわかるだろう。これは、このシミュレーションルームでの設定を変更するためのインターフェースだ。

 先ほどのステラが言った言葉の通り、このシミュレーションルームでは多数の種のモンスターを呼び出す……というより、魔法でもって仮想生命として再現し、そうして再現したモンスターを用いた戦闘訓練を行うことができる。

 この際、呼び出すモンスターであったり、他にも魔術障壁マギテクスシールドをどの程度の強度にするかなどの設定をこのコンソールで変更することができるのだ。先ほど彼女らにシールド用のデバイスについて聞いたのはこれも理由に含まれていたりする。

 ちなみにステラの言葉にヒナとリリはとても素直にすごいと言いながら拍手をしていたが、ハルカは「でも金かかるしなぁ」と渋い顔をしているしコメントの方も『タダなら使うんだけど』『っていうかそんなたくさん戦いたくはないな……』と芳しくない反応をしていた。なぜかはわからないがシミュレーションルームの布教をしているステラの目論見は、今のところあまりうまくいっていないようだ。

 それはそれとして。


「それで、あんま考えたくないんやけど……もしかしてこれ全部と一気に戦うん?」

「いえ。あなた方にはこちらのモンスターと戦ってもらうのですが、同時に相手取ってもらうのは最初は一匹から。そこから勝つたびに徐々に一度に戦う増やしていって立ち回り方を見ながら修正点を指摘していきますわ」

「そっか。いやまあそうやんな、うん。そらそうや」


 モンスターの多さに怖気づいた様子だったハルカは、返ってきたステラの言葉にホッと胸をなでおろす。まあ考えてみればこれは訓練であっていじめではないのだから、いきなりこんな多数のモンスターと一気に戦わせるような真似はしないだろう。それならなんでこんないっぱい出現させたのかという疑問は残るが。しかしおそらくそれも先ほどの様子を見る限り大した理由ではなさそうだな、とハルカは思ったようで、そちらにツッコむようなことはしなかった。


「それでは、質問などなければ早速始めてまいりますが……皆様、準備はよろしくて?」


 モンスターとヒナたち三人の間から退くように後ろに下がりながら、ステラは彼女たちに問いかける。

 その言葉に、前衛にヒナ、後ろに守られるようにリリ、そしてそのすぐ近くで守れるように控えるハルカという陣形を取った彼女たちは、それぞれの武器を構えながら頷く。


「はい! 私は大丈夫です!」

「ウチもオッケーや。いつでも始めてええで」

「わ、私も準備できてるよ……!」


 やる気に満ちた彼女たちの表情に、ステラはよろしいと一つ頷いた。コメントの方を見ると『がんばえー!』『いよいよだな!』『三人ともダンジョンでは順調だったけこれだとどのくらいいけるのか楽しみ』と、どうやらこちらの方も準備はできているらしい。


「それでは」


 そしてステラが教鞭を掲げるように腕を上げる。

 チャキリという金属音。彼のその動きに、構えていた三人が改めて臨戦態勢を取った身じろぎの音だ。

 緊張感の漂う彼女らに、少し楽し気に笑ったステラは掲げた教鞭を振り下ろして。


「戦闘開始、ですわ!」


 そう宣言した。

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