吸血鬼になった錬金術師と異世界の森人 ーオストの風 外伝ー

笹原 篝火

メリッタとしての最後 そして始まり

 ── 焼ける・・腕が・・・喉が・・・

 

 ・・ただ無心に・・痛みをこらえ・・夜の森の中を宛てもなく・・あたしはなくさまよう。

 師匠の敵を取るためはにあたしは師匠の転送陣を使い、敵国へやってきた。

 この国には幾多の冒険者がいて活動をしている。あたしの国とは違って多方面の活動の範囲は広い。あたしの国は錬金術を主に研究しているが敵国は魔法も研究していた。

 隣国で冒険者として有名・有力な「グレイ」という女性がいた。

 彼女は敵国での特殊軍の隊長も務めており、かつあたしの国ではまだ未研究である魔法をつかった多彩な戦術を使い、あたしの国の軍を圧倒していた。

 それに煮え湯を飲まされている国の王が国家錬金術師の権威をもった師匠に彼女の捕縛・そして魔法の研究と彼女を複製し、ホムンクルスの部隊を作れという指示をいただいたのだ。

 しかし、師匠はそのグレイの捕縛に失敗し、体を血で真っ赤にそめて帰ってきた。それを見たあたしは師匠を打ち負かしたそのグレイに猛烈な敵意を覚えた。

 まぁ、あたしも錬金術師としての力は師匠ほどではないがそこそこの力はあった。  師匠の見様見真似で使役できるようになった魔法金属の友達・・「ミスリル」をつれて隣の国にへ向かった。

 師匠の事で頭がいっぱいだったため・・悪手を使ってしまった・・。グレイの妹を殺してしまったのだ・・。

 その報いで腕を奪われ、友達のミスリルも奪われた。

 錬金術を行使するための腕輪も壊され、転移術を再度使うこともできなくなった。

 それよりも切れた腕からポタポタとあたしの魂が流れ落ちている。いずれこれが尽きればあたしの命も終わる。

 「・・師匠・・死にたくないよう・・ぐす・・」

 命が尽きる前の為か痛みは感じにくくなった。焼けるような喉の痛みも・・朦朧とした意識の中、脳裏に浮かぶのはやさしかった時の師匠の笑顔・・泣いているときに抱擁してくれた体のぬくもり。

 体から熱が奪われ、寒気が止まらない。また師匠に抱いて貰いたい。体を温めて貰いたい。


 ゆっくりと夜空を眺めると月が眩く光っている。故郷と同じ月。この月を師匠と一緒にずっとながめたかった。


 ・・の瞬間、がさっと音がした。ゆっくりと音のする方を見た。衛兵だろうか・・敵国の兵にあたしは捕まって殺されるんだ。・・人の手にかかって苦痛を与えられて殺されるならこのまま森で死にたかった。

 木の上に人がいた。赤い瞳が二つ・・いや・・四つ・・人間・・じゃないような気がする。

 

 「・・ふぅ・・あなたが主を殺した・・って子ね・・」

 「・・あちゃー本当に子供なんだ・・」


 ひゅんと木から飛び降りてきた二人。あたしと同じ銀色の髪の毛の黒い服をまとった女の子・・身の丈に合わない大きな禍々しい大きい鎌を持っている。

 同い年ぐらいだろうか・・。

 そしてもう一人は栗色の髪の毛をしたかわった服をきた女性・・すこし年上のような気がする。

 ・・二人は独特な装備をそれぞれ持っている。あたしを殺しにきた刺客なのだろうか。

 尋常なない二人の気配にあたしは死の間際だというのに恐怖を感じた。

 (・・たぶん・・殺される・・あの大鎌で・・お腹を切り裂かれる・・いや・・痛いのはもういや・・)

 あたしは、出せるだけの力を絞って命乞いをした。

 「・・ごめんなさい・・もうしません・・見逃して下さい・・」

 銀髪の子はふんと鼻で笑う。

 「・・見逃せ・・よくいうわ・・あれだけ人を殺しておいて・・この国の決まりでは二人以上殺害すれば斬首刑は免れない・・冒険者同士の争いであってもそうよ・・」

 「ゆ・・るして・・おねがい・・します・・」

 「・・許す・・あなたは私達の主も手にかけた・・許せるはずがないわね・・けど・・復讐は主が生きてたら望まないこと・・やられたらやり返すをやっていたら永遠に終わらない・・ずっと互いに・・永遠に怨み続けるもの・・」

 栗毛の娘が大剣を肩にかけ、銀髪の娘に声をかける。

 「・・で、どうするの?この子、いわれた通りで本当にいいの?」

 銀髪の娘がふわっと後ろを向いた。

 「・・どうぞ・・お腹空いていたでしょ?」

 「・・マジ?・・おほん・・んーしゃーないか・・」

 栗毛の娘が剣を投げ捨て、ゆっくり

とあたしに近づいてきた。

 おそるおそる顔を見上げる。

 ・・赤く光った瞳・・あたしに歯をだして笑顔で微笑む・・。

 ・・・。

 ・・鋭く尖った牙が・・生えている・・人間じゃない・・ば・・化け物・・。

 「!?いやぁぁぁ!!」

 あたしは身を引いてすかさずその場から逃げようとする・・が、ずしっとお腹にのしかかられた。

 涎がぽたぽたとあたしの顔を濡らす・・。

 血走った目・・もうそれは人間の顔じゃない。

 「・・ふふ・・はじめて・・彼女以外の血が飲めるなんて・・って・・ホントは飲んじゃダメなんだけどね!めっちゃ痛いけどごめんね!?」

 ものすごい怪力であたしの顔を地面に押さえつけると、栗毛の娘はあたしの首にかじりついた。

 「あ!! ああああああ!!!!」

 鋭い牙が首に深く食い込んでく。メリメリと音がする。あたしの首の骨が砕ける音なのだろうか。

 それよりも気管まで牙が刺さったのか血が喉を沸き上がり呼吸が出来なくなる。

 「が・・あ・・こぷ!!ふ・・あああ・・や・・だ・・あああ」

 耳元であたしの血をすする音が生々しく聞こえる。

 体は動けない・・それよりも一気に血を奪われ・・さらに意識がもうろうとしてさらに体から痛みがなくなってきた・・。

 ・・目が見えない・・音だけが聞こえる・・森のせせらぎ・・彼女の荒々しい呼吸と、血を貪るように吸う音・・。


 ・

 ・・

 ・・・


 ***


 「・・月・・」

 綺麗に輝く満月が見えた。

 ここは死後の世界なんだろうか、ざぁ・・っと葉のすれる音と頬を撫でる涼しい風。

 風も感じる・・感覚がある・・死後の世界は・・こんな心地よいものなのだろうか・・。

 すでになくなった手が草を掴むのを感じた。ユックリと腕をあげると切り落とされた手が元に戻っていた。

 (・・あたし・・死んだのかな・・でも・・地獄じゃないなんて・・地獄じゃこんなに綺麗なお月様・・見られないと思うし・・)

 「・・あら・・目が覚めたのね・・」

 近くで女性の声がして、あたしは意識が一気に鮮明になる。

 ゆっくりと顔をうごかして声のほうを見た。

 あたしを殺した二人・・銀髪の少女と、栗毛の娘がそろってあたしを見下ろしてた。

 「・・事実、あなたはもう死んでいる。・・まぁ、人間じゃなくなった・・って感じかしら・・」

 人間じゃなくなった・・?ではあたしな何に・・。

 「ごめんね。痛くして!グレイの作戦でこんな方法でしかあなたを助ける方法がなかったんだ・・」

 「・・そう、あなたは『吸血鬼』になったの。あなたぐらいの年齢で男性経験は多分あり得ないと思ったけど・・最近の子ははやい人もいるって聞くし・・ちょっと賭けではあったけど・・」

 吸血鬼・・聞いたことがある。おとぎ話の話だとは思ったけど、本当にいたんだ・・。

 「さぁ・・おきて、あなたはもういつも通りの体にもどっているわ・・でも吸血鬼独特の不自由はあるかしら・・食事は血液しかないし・・太陽もまともに拝めないわ・・夜を生きることになる・・」

 「んーまぁ!なれっしょ!あたしもなんとかやっているし!」

 「切断された手も回復力が異常に高くなるから元通りよ・・ただあなたの使えた力はもうつかえるかわからないけど・・」

 元通り・・はたしてそうなのだろうか・・体の重みは消え・・痛みもない・・ただあるのは猛烈な喉の渇き・・。

 ふと、あたしの髪の毛が視界にはいった。綺麗な灰色の髪だったのに血のように赤く染まっている。まるであたし自身じゃないないといっているかのように。

 銀髪の女の子にうながされるように起き上がる。体が軽い・・まるで綿のになったようだ・・。

 「・・もうあなたは故郷にはもどれない・・かも・・しれない・・けどやるべきことはあるわ・・」

 「・・あたしの・・やるべきこと・・」

 「私達と長い旅にでるの。苦しんでいる人を助けて・・命をすくって・・。あなたがうばってしまった倍以上の人をたすけなさい・・今のあなたには力があるのだから・・」

 「・・力・・」

 影をみたらチラチラと銀色の液体が波打っているのが見えた。

 (・・ミスリル・・まだいたんだ・・)

 と、心で思った瞬間、液体は舞い上がり羽のように広がった。月の明かりに照らされ輝く・・。

 「へぇ・・アレも錬金術なんだ・・すごーい」

 栗毛の娘がまじまじと眺めている。

 「あなたは私達と永遠に生きる。そして、償う・・終わりじゃないわ・・始まりなの」

 ・・もう師匠の元に帰る事ができないあたしにグレイは道をつないでくれたのだろうか・・けど・・いつまで続くかわからないあたしの新しい闇に生きる人生が、あたしのえた師匠の知識と技術を伝えていく・・それがあたしにやさしさをくれた師匠への恩返しなのかもしれない・・。

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