第23話 改変魔術



『刺し貫けファイヤーアロー!』


 巨大な炎を纏った矢。通常の矢よりも大きなそれはまっすぐ、目標に突き進んでいく。間に居たモンスターたちを物ともせず、威力を減衰させることなく追う。


 目標の個体はレアモンスター。朱莉は他の個体と違う雰囲気に姿を見た瞬間に気が付いた。だから、警戒して広範囲殲滅用の改変魔術ではなく終息型貫通用の改変魔術の使用に踏み切ったのだ。


 レアモンスターはその身を矢で貫かれ、炎に巻かれる。力なく地面へと倒れ伏す。そして、光の粒子へと変換された。咄嗟の判断が功を奏し、危険にさらされることなくレアモンスターの討伐を成功させたのだ。


「改変魔術を複数用意していたのですね。魔術の改変はかなり難しいはずです。下手に実行すれば魔術が爆発する可能性もありますから。まだレベルも100に到達したばかりのシノアさんができるようなことではない。そのはず、なんですが……」


 命知らずだと言われるような無茶をしていた。


 今の朱莉には分不相応であるレベルの魔術改変。成功したのは奇跡だと言えるほどだ。もちろん、実際は奇跡でもなんでもなく朱莉の才能が起こしたこと。しかし、そう言われても可笑しくないレベルのことをやってのけた。


コメント

・魔術改変なんて中層でやるようなことじゃないよな?

・下層に入った人たちでもなかなかできないはず。シノアちゃんどうなってんの? 才能ですか?

・才能、だろうな。流石に。奇跡的にできたなんてことが二度も起こるなんては思えないし

・二個しか改変魔術を作ってないのか? ホントに?

・もっと作ってる疑惑あるよね? 今日の配信初めの時やたらハイテンションだったし。夜更かしして、研究していた可能性は十分にある


 視聴者たちも真那の言葉に驚きを隠せない。視聴者たちとて朱莉の詠唱式から改変魔術である可能性には気が付いていた。流石にそれはないだろう。そう思って、その考えはすぐに放棄していたが。


「まぁ、そちらよりも適切な魔術行使のほうが驚きですね。」


 魔術の改変技術は目を見張るものがある。しかし、それ以上にその場に即した魔術の使用。明らかに以前よりも判断能力が向上している。適当な魔術をがむしゃらに打ち込んでいた人とは思えないほどに。


 魔術の改変技術を得たこと。これにより手札が増えた故の才能の開花なのか? それとも偶然そう見えるようになっているだけなのか? 正直に言って真那は朱莉のことを測り兼ねていた。


「このまま行けば中層はもちろん、下層でも容易にやっていけるでしょう」


コメント

・シノアちゃんも下層に行くのか……

・まぁ、マリナちゃんとシノアちゃんがコラボするなら下層が一番いいんだろうけど

・マリナさんってホントに下層が主な活動場所なの? 未到達階層で活動してますって言われても納得できる

・ホントそれ。聞いても答えてくれないってわかってるから誰も聞かないだけだからな

・シノアちゃんの成長の速さに涙が出そうになる


 このまま順調に経験を重ねていけば、真那の居るところに辿り着ける日はすぐにやって来るだろう。それが楽しみで仕方がない真那だった。


 因みに真那の幼馴染である穂花も同様に真那の居る場所に辿り着ける人間だ。しかし、ダンジョンに対して興味の無さそうな彼女を無理に誘うわけにはいかない。そう考えて真那は何も言っていない。


 穂花自身は真那がいつ誘ってくるかなと待っている。二人は現状、致命的なすれ違いを起こしているのだ。真那が朱莉に目をかけていることを知った穂花が嫉妬に駆られてダンジョンに突撃することになるのはそう先の話ではないだろう。


『ファイヤーソード!』


 朱莉が炎を纏った杖を振る。その動きによって一瞬だけ、炎が薄く広く剣のような形にも見える姿になった。その状態を魔力操作で維持したことで炎の剣を魔術で生み出す。


 杖を芯としているため、大剣ほどの大きさとなっているそれでモンスターを焼き切る。不格好な見た目ではあるものの、十分な威力を誇っていた。


「……あんな魔術ありましたっけ…………? 聞いたことないんですが……」


 明らかに剣なのに使えている。あれは飛んでいかないんだなと思いつつ、その姿を眺めていた真那がポツリと呟いた。


コメント

・改変魔術その3ですね。多分ファイヤーボールの派生

・原型が残ってないんだけど!?

・ファイヤーボールって火の玉だよね? どうやっても火の剣にならないよな?

・そこはほら、魔力を操作して。ね?

・わけわからん


「訳が分かりませんね。オリジナル魔術を作り上げたと言ったがいい気がします。正式な区分では本当に改変魔術なのでしょうけど、理解の範疇にありませんよ。まったく……」


 こめかみを抑える。朱莉の化け物具合に頭が痛くなってきた真那。


 ギルマスなども真那の規格外さで頭を抱えてきた。それを真那が今、味わっているだけである。本人が自分の規格外さにあまり気が付いていないあたり、ギルマスたちはその苦労を上手く隠し通したのだろう。


「このまま行けば、ボス部屋まですぐに着いてしまうではないでしょうか?」

『一掃せよ、ファイヤーアロー!』

「魔術の同時行使まで……。シノアさんはどこまで行ってしまうのでしょう……」


 また新たな技術を披露しているなとぼんやりと考える。


 魔術改変ができる時点で恐らくできるとは思っていた。しかし、安定性に少々難のある改変魔術を二つも同時に行使してしまうとは思わなかった。現状でも朱莉の魔力操作技術はどう考えても上級者レベルだろう。


 もしかしたら、いずれ世界最高峰になるかもしれない。そう真那は思った。

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