死神は月を抱いて眠りたいーー番外編・イーダの息子達

漂うあまなす

第1話 求めたものは……

※※専門知識の無い者が想像で書いてることで

ふんわりとした空想の世界として見て頂けると

幸いです※※



ちょうどイーダが今の総統の配下についた時、

世の中では心理学の発展や催眠術による

治療などが盛んであった。

イーダはそれらの知識に興味はあったが、

熱心には求めなかった。

彼はそれらを学ばなくても経験で知っていた。


「人を操る為にはどうすればいいか」


それは然程難しい技術ではなかった。

有史以来人々はそれを当たり前に使ってきた。

程度の問題である。


人は元々命令を聞きやすい生き物である。

(集団で生き、序列を作る生き物は大体そう)


目上の者の言う事を聞くことは社会生活の中で

当たり前のこととなり、教育もされる。

そして信用している者の言う事もまた信じやすい。

信用や信頼は、本来じっくり関係を築いていく中で

育まれていくべきだが、周りの情報や状況で

判断してしまうことは少なくないだろう。


逆に周りが「彼は素晴らしい、信頼できる!」

と褒め称えている人物を根拠も無しに否定するのは

難しい。

勘や感覚で反発してもそれを伝えるのは不可能に

近いのである。


人は、自分で思っているよりずっと、優しい言葉が

好きで、見目の良い者に惹かれるようにできている。

見た目と耳に入る音で物事が判断できるなら

こんな楽なことはない。

実際、敵が人間でないのならこの判断で

充分なのである。


イーダはこういった人間の性質をよく知っていた。

信用を得るためなら何でもした。

信用と信頼が金では買えない大きな財産になる

ことを誰よりも分かっていたからである。

自分を信用してくれる者を多く作れば、1人に

「彼のやってることはおかしい」と告発されても

数の力で簡単に排除できる。


こうして自分を優位に立たせるための仕込みと

して、他人の信頼を得るために「いい人間」に

なりきることは、彼にとってコップの水をこぼす

ことより簡単なことであったのだった。


しかし「いい人間」の振りだけでは地位は盤石

とは言えない。それは本当にいい人間よりやや

脆弱な場合がある。

その為に本物の善人や、また別の驚異となる

偽物を廃していかなくてはならない。

彼は自分の言いなりになる部下を欲しがった。


イーダは自分の要望と欲求を叶えるためにまだ

できたばかりであった諜報部に所属し、直ぐに

そこで最高責任者になった。

まだ総統になる前の男と協力し合い、互いの地位を

確かなものにしていき、情報系統を牛耳ると

その時の総統のあらゆる弱点を探り、悪い噂を

広め、そして暗殺した。

暗殺されても仕方ないという空気を充分に作った

上でのことで、何の反対も無しに今の(最後の)

総統がその地位に着くこととなったのだった。


今の総統がその地位に着くと、イーダの地位も

ほぼ盤石となった。

諜報部をより強化し、優秀な人間を集めた。

そして、国内の有力な情報と上層部の人間達

のあらゆる事情を手に入れようとした。


諜報部に集めた人材はとても優秀で忠誠心も高か

ったが、イーダは腹の底からは信用しなかった。

相互監視を徹底したが、やはり弱味を握るか

人質を取るなどしないと安心できなかった。

だがこの方法は反発を生むこともある。


やはり恐怖で押さえつけようと、彼は急ぎ

暗殺部隊を作った。

殺人術をより洗練させていくため、諜報部員より

さらに自分を裏切らないようにした。

暴力を振るわれても逃げない伴侶のように、

理不尽な要求にも反抗できない奴隷のように、

逃げる、拒否するという選択肢を思いつかないほど

精神を支配した。


しかし過度の精神ストレスがかかり、圧をかけ続けることで人としての性能が悪くなってくる。

神を崇拝するように、未定の未来に怯えるように

畏怖させることは中々難しかった。


そこでイーダは家族愛を利用することを

思い付いた。



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