第25話 疑問 ~ソフィアサイド~
しかし毎回毎回あやつはちまちまちまちまと……
多少力はついているようだが、まだまだだのうぅ。
「さてと……」
「おい、シエロとやら」
「なんだ」
「グリズリーはお前が差し向けたのか?」
ちと疑問に感じたからのぅ。
シエロとやらに確認してみた。
「我が差し向けていた」
「村の結界を解くためにな」
「それがどうした」
「そうか……」
「まぁ、それはそれとして……
「お前の恰好だがのう」
どうしても気になってしょうがなかったのじゃ。
「グリズリーは関係なくないか?」
「ウォーウルフは百歩譲って、その顔やら体でだな」
本当は狼と犬で違うのだがのぅ。
「サーペントはその背中におるのでいいとして……」
「やっぱり、グリズリーはどこにもおらんぞ、お前の中に」
「そんなこと、どうでもいいだろう!」
いいや。
ワシにとってはどうでもいいことではないのだがのぅ。
「グリズリーというより、翼があるのだから、なんか鳥かなんかじゃろ」
「そうでなければ、ワシは納得ができーん」
「ゾルダ……」
「そこにこだわるの?」
あやつが何か呆れ顔でこちらを見ている。
いやいや、ここは呆れるところではないぞ。
「ここは凄く大事なことじゃからのぅ」
「だって、普通に考えたら、ここは体の一部は熊じゃろ」
「もっと言ったら、犬ではなく狼じゃろ」
これだけいろいろなものが混ざっておったら、配下が混ざったようになるじゃろ。
それが違うのがどうにも解せん。
「いやー、別にそこはどうでもいいんじゃないかな」
「戦う前に確認が必要な所だった?」
「ワシにとっては重要じゃ」
「戦う前に確認しておかないと、倒してからは確認出来ないからのぅ」
「おい、そこー」
「我を無視して何をごちゃごちゃ話している」
シエロとやらが何かキレておる。
ワシはあやつと大事な話をしておるのに。
「お前もお前じゃ」
「なんで熊を体につけてないのじゃ」
「なんでと言われてもな」
「我の体は昔からこうだ」
「配下がどうなろうと、そんなのは関係ない」
「だったらお前はどうなんだ」
ん?
ワシがどうだというのじゃ。
「前の魔王だったのだから、お前も配下の魔物が全部くっついてないといけないだろ」
はーっ……
ワシも全部つけないといけないだとー。
「ワシにその低俗な理論を押し付けるじゃと」
「ワシはワシじゃぞ」
「何故、魔王になったらうにゃうにゃ全部つけなきゃならんのじゃ」
「お前、自分で『低俗』と言っているぞ」
「お前は我にその低俗な理論を押し付けていたんだぞ」
「わかったかー」
何を訳からんこと言っているんだ、お前は。
ワシに対してそのことを言うこと自体が問題じゃ。
「いや、わからんぞ」
「ワシにとっては低俗じゃが、お前には十分通じる理論じゃ」
「ワシとは身分が違う、身分がのぅ」
お前のような低俗な奴だから話している理論なのにのぅ。
全くもって分かっておらん。
「あのさ、ゾルダ」
「俺が聞いてもそれは納得できる話じゃないと思うんだけど……」
まぁ、ワシのような次元の話にはおぬしもついてこれんじゃろ。
「いいのじゃ」
「ワシはワシに通じる理論で話しているのだから」
「ワシさえ納得できれば、それで問題ないのじゃ」
「相変わらず強引だな、ゾルダは……」
シエロとやらはワシの話がわからんのか、怒り心頭という感じでこちらを睨みつけておる。
やっぱり低俗なものと話すのは疲れるのぅ。
「無茶苦茶いいやがって」
「逃げ出した弱虫の前魔王のくせに」
お前、それをここで言うか。
それはゼドのやつが適当に言い出した理由なのにのぅ。
これが末端まで広がっているのは困ったものじゃ。
「お前はどうやらすぐに死にたいようじゃな」
「その覚悟が出来ているから言っておるんじゃろうな」
もう容赦はしないからのぅ。
グリズリーがくっついていない理由なぞ、どうでもよくなったわ。
「逃げ腰の弱い魔王だったくせに何を言っている」
「そんな奴に我は倒せん」
また『弱い』と言ったな。
それがワシにとってどんな言葉なのか思い知らせてあげるわ。
「言い残すことはそれだか、シエロとやら」
「『弱い』奴の力を思い知れ」
手のひらに力を集め、シエロに向ける。
「氷の矢(ブリザードアロー)」
周りの空気が一瞬で冷え、洞窟内に氷が張り巡らされはじめた。
いい感じで力が出ているのぅ。
シエロとやらの脚も瞬く間に凍り始めている。
「うっ…」
「身動きがとれない」
氷の矢もシエロとやらの翼に刺さっていく。
そして、その矢から翼が凍り始める。
これでシエロとやらも飛べないじゃろぅ。
「これでも『弱い』か」
「『弱い』奴の力で死ぬんだからなのぅ」
「お前はもっと弱いってことじゃからな」
このワシに対して『弱い』って言ったことを後悔させてやるからのぅ。
「えっ……」
「嘘……こんな力が……」
「我が何も出来ない……」
「そうじゃ、お前なんぞ、ワシに対して何も出来んわ」
「おとなしく消えろ」
「闇の炎(ブラックフレイム)」
闇の炎を纏わせた手から黒炎がほとばしる。
そして身動きが取れなくなったシエロとやらに向かっていく。
「つ……強い……」
「勇者が怖くて逃げ出したんじゃないのか……」
「うわーー……」
炎に包まれたシエロとやらは雄叫びを上げながら燃え盛っておる。
「最後に分かってくれたようじゃな」
「ワシは強いぞ」
「でも、もう遅いわ」
しばらくすると雄叫びも消え、真っ黒なシエロとやらが立っていた。
「ワシを『弱い』というからじゃ」
勝ち誇っておると、あやつがワシに話しかけてきた。
「ゾルダ……」
「やっぱりやり過ぎじゃない?」
「もっと聞き出せることがあったと思うけど……」
「あんなやつらのたくらみを聞いたとて、他愛もないことじゃろ」
「ワシがおれば、どうとでもなるわ」
そんなことより、ワシの気持ちの方がよっぽど大事じゃわい。
ワシの気分を害したことは万死に値するのじゃ。
「おぬしも気にし過ぎじゃ」
「まずはシエロとやらを倒したことを喜べ」
「はっはっはっ」
それに、どうせ先に行けばいろいろと分かってくるはずじゃからのぅ。
細かいことはそう気にせんでもいいじゃろ。
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