第14話 魔法祭
「想像よりも……アレでしたね」
ビビアンが言わんとしていることはわかる。
魔法祭というから、それこそ幻想的なものを想像していた。例えば、火魔法で不死鳥を飛ばしたり、芸術的な氷の彫刻を一瞬で作ったり、一面を花畑にしたり……等など。魔法祭のコンセプトが、「芸術的な作品を魔法で作る」なのだから、華やかなものを多少期待したとしてもおかしくはないだろう。
しかし、今まで終わった一年の作品は、扇子の先から水が吹き出す水芸……もとい水魔法や、ステッキの先から花を出す魔法かマジックかわからないもの、口から火を吐いたのは驚いたが、芸術というよりもビックリ大賞ではないかと思わなくもない。
「お嬢様、私の番ですから行ってまいります」
ビビアンが会場に下りていくのを見送り、リリベラは斜め後ろにチラリと目をやった。
そこには、同じチームの三人の女子にベッタリ貼り付かれたスチュワートがいる。学生の分際で破廉恥な……とは思わない。どうか、スチュワートを押さえ込んでおいてくださいと、お願いしたいくらいだ。
ビビアンのチームは、今までのビックリ大賞とは違い、多少見れる構成になっていた。土魔法が得意なビビアンが、会場一面に花を出現させ、その他の五人が一斉に風魔法で花を吹き上げたのだ。五人合わせて、なんとか渦巻きを作り、花をらせん状に舞わせ、一分程で全てがかき消えた。最後に小さな旋風が会場の真ん中で消えると、会場中に拍手が轟いた。
「さすがビビアン、見せ所をわかっているな」
いつの間にかリリベラの隣に来ていたクリフォードが、拍手をしながら話しかけてきた。
「そうですわね。メンバーの魔力が消える一瞬前に、花を消したのね」
「一年の優秀賞は決定だな」
「あら、最優秀賞は?」
「もちろん僕達だ。行こうか」
クリフォードのエスコートで、リリベラは会場に下りて行き、その後ろから女子三人をくっつけたスチュワートも続いて会場へ下りた。
チームの紹介がされ、クリフォードの合図と共にリリベラは水魔法を展開させ、それを凍らせて大きな氷の結晶を作る。スチュワートが風魔法でその氷の結晶を空中に漂わせると、光が氷の結晶に反射して幻想的な光の空間が出来上がった。これだけでも十分見応えはあるが、本番はこれからだ。氷の結晶による光のベールの中に、クリフォードが氷の大きな塊を作り出した。それを風魔法で形成していき、美しい曲線美の女神像を作り上げる。氷の結晶が溶けて小さくなり、光の乱反射が落ち着いてくると、観客である生徒や教職員達の前に、巨大な女神像が現れ、キラキラと女神像が輝き出す。
「女神降臨」
モブ三人娘が、ヒラヒラした衣装で女神像の周りを踊りだした。ちなみに、彼女達の唯一の見せ場がここだ。魔法は使っていないが。
クリフォードがリリベラの手を取り、跪いて口づけを落とすふりをすると、会場中に大きな悲鳴と拍手が鳴り響く。
「ほら、女神様。笑顔、笑顔」
クリフォードがニヤリと笑いながら、リリベラを女神像の前に連れていき、大袈裟にお辞儀をした。
「クリフ!勝手に人をモチーフにしないでくださらない?!」
「アハハ、リリの裸は見たことないから想像だけど、かなり出来はいいだろ」
「クリフ!!」
「冗談、冗談。ランディに丸焦げにされたくないから、早々に女神像には退場願おう」
クリフォードが女神像に一歩近づき、女神像に手をかざすと、女神像の形を留めたまま氷の彫像は溶け始めた。氷の彫像は、水の彫像へと変化を遂げる。この状態で形を維持しておくのは至難の業だった。
「へえ、リリベラちゃんの素っ裸はあんな感じか。残念、もう少ししっかり目に焼き付けておきたかったぜ」
いつの間にかリリベラの後ろにきていたスチュワートが、ニヤニヤと笑いながら彫像を間近から見上げていた。
「ちょっ……、真下から見上げないでくださらない?!」
この後、クリフォードの合図でモブ三人娘が魔導具でスモークを作り、会場がモヤで見えない間に女神像もリリベラ達も舞台から消える……というのがフィナーレとなるのだが……。
モブ三人娘達の魔力量が思っていたよりも多かったのか、魔導具の不調かはわからないが、凄まじい量のスモークが何故かリリベラ目掛けて噴出され、リリベラは一瞬にして目潰しを受けたかのようになり、視界が完全に見えなくなってしまった。
下手に動いて舞台から落ちたら……と動けずにいたリリベラだったが、リリベラの右手を引き、走り出した人物がいた。保護魔法は発動していないから、この手はクリフォードなんだろうが、あまりの力強さに疑問が生じた。クリフォードはリリベラの左側にいなかっただろうか?
「クリフ、目が痛くて開かないんですの」
スモークの直撃をうけたせいで、リリベラはまだ目を開けることができなかった。すると、目の上に何か温かい感触がして、リリベラの目から痛みが消え、ボンヤリと視界が戻ってきた。
「なるほどな。無心でやれば魔導具は発動しないのか」
聞き慣れたクリフォードの声ではない声に、リリベラは目を凝らして目の前の人物を見る。
目の前には、不遜な様子で佇むスチュワートが立っていた。
リリベラは慌ててスチュワートの手を振り払った。
「あなたは、他の女子生徒を誘導する筈では?!というか、さっき私に何を……」
「何って、目が痛いっつうから治療をな」
「治療……?」
リリベラはスチュワートが治癒魔法を使えるのを思い出した。しかし、あの感触は指とかではないような……。
「目だしな、失明とかしてたら大変だと思って、ちょっと一舐め」
「一舐め?!」
スチュワートからしたら善意なんだろうが、あまりの嫌悪感に一気に鳥肌が立つ。
「治療だと思えば、あの激痛には襲われないんだな。けどさ、健全な男子がだ、綺麗な女の子と接触して、変な気を起こすなって言うのが、まず無茶振りだと思わねえ?そもそも、エッチな三択が目の前に表れたら、そりゃできるだけエッチなの選びたくなるじゃん。そこを、そこそこのやつで我慢してるってのに、ビリビリマシーンの最高バージョンみたいなのでお仕置きされるこの辛さ……。あんたにはわかんねぇだろうな」
「な……何を言っているのかわかりませんわ」
スチュワートはガリガリと黒髪をかきまぜる。
「まぁそうだよな」
「全く理解できません」
「だよな。あんたは普通にこの世界の人間ってこった。ウワッ、じゃあどう理解してもらえばいいんだよ。これから四年間、あんな激痛に合うなんて洒落になんねぇ」
スチュワートは、しゃがみこんでブツブツ言いだした。
(私は普通にこの世界の人間?それではあなたは違うということですの?)
スチュワートは「ヨシッ!」と叫んで立ち上がると、リリベラの横の壁に手をついて顔を近づけてきた。後ろには壁、前側はスチュワート、リリベラは身動きがとれなくなってしまう。
「な……なにを?!」
「今まであったラッキースケベ、あれに故意はないってわかるよな?」
「偶然……の産物でしたわね?」
「そう!どういう訳か、俺とリリベラちゃんはラッキースケベで繋がった関係なんだよ。これは決定だから、何でとか嫌だとか言っても無意味だから。俺だって、好きでリリベラちゃんのスカートの中に顔突っ込んだり、手を突っ込んだりしているんじゃない。そういう星回りっつうか、運命?なんだよ」
「そんな運命、ごめんこうむりますわ!!」
「だから、嫌だは意味ないんだって。運命だから、こればっかは回避できねぇんだよな。ゲーム補正っつうか……」
(ゲーム補正?ゲーム……エロゲーの話をしていますの?!)
スチュワートも、ビビアンと同じ転生者とやらかもしれないという疑惑が浮上し、リリベラはプチパニックに陥る。
「ちょっと理解してもらうのは難しいかもなんだが、卒業までリリベラちゃんとのラッキースケベイベントは続く筈なんだよ。で、毎回あんな痛い思いをするのは、こっちもごめんこうむりたいわけ」
スチュワートの言う痛い思いとは、ランドルフがくれたお守りのペンダントの防御魔法のことだろう。
「残念ですが、これはランディが私の為に作ってくれたペンダントですから、何があっても外すつもりはありませんわ」
リリベラが胸元のペンダントを取り出して言うと、スチュワートは壁ドンの格好のままそのペンダントを覗き込む。ついでにリリベラの豊満な胸元もガッツリ見えてしまうが、触れていないのでセーフである。
「ランディ……ああ、あんたの本物の王子様な。そのペンダントに防御魔法がかかってんのか。まぁ、好きな奴から貰ったんじゃ外したくはねぇよな。でも、俺の身にもなってくれ。頼む!」
リリベラの胸元に顔を突っ込むんじゃないかという勢いで、スチュワートは頭を下げた。
「ちょっと……少し離れて」
リリベラがスチュワートの肩を押して離れて貰おうとした時、舞台とは逆側にある出入り口の扉が吹き飛び、その扉はそのままスチュワートを襲った。
「リリベラから離れろ!」
背中に扉が激突したスチュワートは、リリベラの胸の谷間に顔を突っ込むことになり……。
「イッテェ!!!」
防御魔法は正しく発動したようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます