第6話 出会い頭イベント

「お嬢様、気をしっかりと!」

「ウーッ!出会い頭イベントが立て続けに起こるなんて聞いてませんわ!!」


 お昼休み、校舎から見えない奥まった中庭のベンチに座ったリリベラは、両手で顔を覆い隠して震えていた。何故かその姿は体操服だ。


「そうですねぇ……、でも今日だけで二回。あと一回で一年生分は終わる!……かもしれないって考えれば先は見えましたよ」


 あくまでも楽天的に!とビビアンは励ましてくれるが、それでなくても男性との接触に嫌悪感のあるリリベラには、やった!あと一回我慢すれば終わりだ!などと喜べる心境にはらない。

 しかも、リリベラにしたら予知者と言っても過言ではないビビアンに、「かもしれない」なんて言われた日には、あんな破廉恥なことが何度も起こるのでは……?と、恐怖しか感じない。


 ★★★


 時間はやや遡り、あれは三時間目が終わった後のこと。四時間目の体育の為、クラスの生徒達はすでに教室には残っておらず、リリベラは日直の仕事をしていたらすっかり遅れてしまい、かなり慌てて教室を出たのだった。小走りで更衣室へ向かっていたところ、リリベラは階段の半分程のところで足を踏み外してしまったのだ。


 慌てて風魔法を展開したものの、リリベラの魔力量では自分を浮かすことなどできず、しかし自由落下よりはゆっくりと階段を落ちて行った。

 そこに階段を登ってきた人物がいた。リリベラはその人物に向かって落ち、その人物も慌てたのか魔法を展開……。


 風魔法がぶつかり合い、風は渦を巻きリリベラを包み……。結果リリベラのスカートは巻き上がり、パンティー丸出しでその人物の顔面に飛び込む形になり、その人物を押し倒して着地した。

 衝撃で魔法は消え、スカートはその人物の顔面を隠すようにパサリと落ちて……。


「☆♡♤△◁☆♡!!!」


 リリベラが声にならない悲鳴を上げたのは、その人物の手がリリベラの太腿をガッチリ掴むように回され、あらぬ所に思い切り鼻を押し当てられたからだ。


 リリベラが考えられないような勢いで飛び退り、階段の一段目に腰をかけるような体勢で、その人物を睨みつけた。


 悪いのは階段から落ちたリリベラで、被害者はその人物だとはわかっているが、鼻が……鼻が……、しかも思い切り匂いを嗅がれた気がする!


(へ……変態!!!)


 その人物は黒髪をかき上げながら、手をついて上半身を起こした。


 スチュワート・シモンズ!


 一回目の出会い頭イベントが起こったのだ。しかも、リリベラが想像していた出会い頭にぶつかって、抱き締められてしまう……なんていう子供騙しのようなものではなく、さすがエロゲーイベント!


 あまりの精神的ダメージに、リリベラは声もでなかった。


「なんだ、俺に舐めて欲しかったんだろ。さすがに階段じゃちょっとな。いいぜ、空き教室にでも行こうか。イヤッてほどイかせてやるぜ」


(ヒーッ!!気持ち悪い!なんてこと言うんですの?!下品!下劣!卑猥!)


 リリベラは、後ろ手で階段を這い上がるようにスチュワートから距離を取り、半分まで上がったところで身を翻して階段を駆け上がった。パンティーが丸見えになっていたが、今更だろう。


「アハハ、舐めて欲しくなったらいつでもどうぞ。……フッ、怪我はなかったようだな」


 走り去るリリベラのパンティーをしっかりと拝んだスチュワートは、立ち上がって制服についた埃を落とすと、何事もなかったようにゆっくりと階段を上っていった。


 リリベラは遠回りして更衣室へ行った為、体育の授業には遅刻してしまった。


 そして体育が終わり、遅刻した罰として道具の片付けをしてから更衣室へ向かったリリベラは、すっかりイベントは終わったものとして気を抜いていた。地下更衣室に向かう階段を下り、シャワールームの前を通り過ぎようとした時、いきなり扉が開いてシャワールームから出てきた人物と激突した。


「ウワッ!」

「キャッ!」


 ぶつかった反動で後ろに倒れそうになったリリベラに手を伸ばした人物は、勢い余ってリリベラの胸を鷲掴みにしたのだ。


 助けてくれようとして、これは事故で不可抗力だ……というのは最初だけだった。その手は妖しく動き、しっかりとリリベラの胸を揉みしだいたからだ。しかも、着ていたのは体操服。ブレザーみたいに固い生地ならまだしも(それでもダメだけど!)、綿素材の体操服ではなんの防御効果もない。しかも、今日に限ってフルカップのブラをつけておらず、たまたま午後にダンスの授業でドレスを着るから1/2カップのブラジャーで……。


「キ……キャー!」


 リリベラの悲鳴に、その人物が出てきたシャワールームから女子生徒が一人顔を出した。


「なに、なに、何事?やだ、スチューったら、さっき私のおっぱい飽きるくらい触りつくしたのに、もう次?」


 女子生徒のシャツはスカートから出ており、ボタンも半分しかしまっていない。明らかに、二人でシャワールームで至していた後らしく、女子生徒からは気怠い雰囲気が駄々漏れていた。


 スチュワート・シモンズ!


 リリベラは女子生徒の出現に、一瞬そちらに意識を持っていかれていたが、それどころではない状態だということに気が付き、スチュワートを思い切り突き飛ばした。


「いい加減になさって!!」


 リリベラは体操服のままもと来た道を逆走し、そのままビビアンの教室に飛び込み、ビビアンを中庭に連れ出して泣きついたのだった。


 ★★★


「お嬢様、パンツは履いていたんですし、体操服は着ていたんですからセーフですよ。いや、主人公的にはイベント失敗だからアウト?」

「でも!すっごい、すっごい、すっごい、気持ち悪かったのよ!!」


 リリベラは涙ながらに訴える。


 まだ入学して数週間。こんなことが卒業まで続くのかと思うと、恐怖しかない。


「でもですよ、その出会い頭イベントですけど、選択肢は三つあったんです。最初の方の正解は、内心ガッツポーズをしつつ、お嬢様には触れずに下から這い出す。ハズレの一つは、さっきのお嬢様の体験したことですね。もう一つは……ちょっとお嬢様には刺激が強過ぎるから口にはしませんが、いきなりエロムービーに突入します」


(エロ、エロ、エロ、エロ!エロ以外の素敵イベントはないんですの?!)←エロゲーの世界ですから。


 リリベラは地団駄を踏みそうになるのに耐えながら、深呼吸してなんとか平穏を取り戻そうとする。


「もう一つの出会いイベントですが、正解は」

「もう、結構!もう二度と起きないのよね?なら、思い出さないことにするわ」


 リリベラが耳を押さえて聞かないポーズをしたので、ビビアンはしょうがないですねと、言うのを止めた。ちなみに、シャワー室前でのハズレのもう一つは、三人での✕✕✕のエロムービーが流れる。百合要素も入り、なかなか見応えのあるムービーだったなと、ビビアンは一人思い出してムフフ顔になる。


「そうですか……。お嬢様、二年生でのイベントですから、一年の今起こるとも思わないんですが、更衣室イベント、あれって、みんなで着替えてたら起こらない筈なのに、なんで?って思っていたんですけど、今お着替えに行かれたら、一人で更衣室ですよね?」


 リリベラの顔がサーッと蒼白になる。


「更衣室イベントって、どんなだとたかしら」

「お嬢様が、更衣室で下着姿になった時、間違って入ってきた主人公に、アレやコレやされちゃうやつです。この時、初めてポロリしちゃうんですよ。そういえば、あの時のお嬢様の下着、薄紫のレースのやつだったような。今日のお嬢様の下着も確か……」


(薄紫のレースのよ!!!)


 リリベラは両手で胸元を隠す。


「ビビ!お願い、私の代わりに更衣室に行って、私の制服を取ってきてちょうだい!」

「それはよろしいですけれど、どちらでお着替えに?」

「トイレででも着替えるわ」

「承知いたしました。しばらくお待ち下さい」


 ビビアンは走って中庭を抜けて見えなくなった。


「ハァ……」


 リリベラはこれから先のことを思うと、ため息しか出なかった。







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