第29話 深慮遠謀
3人と別れた後、悟は本日のマップ情報を取得して、真莉と天音向けの企画に頭を悩ませていた。
(うーん。どうしよっかな)
真莉と天音が2人ともやる気を出してくれるのはいいことだ。
2人の実力もそれに見合うものになりつつある。
ただこんな時に限って、丁度いいダンジョンが現れなかった。
(どうしたものかな)
そんなことを考えながら悩んでいると、スマホにメール着信の通知がきた。
見慣れないアドレスからのメールだった。
開いてみると、コラボの誘いだった。
――――――――――――――――――――
from:菊花騎士団
――――――――――――――――――――
件名:コラボの問い合わせ
――――――――――――――――――――
雪代様
初めまして。
菊花騎士団というダンジョン配信グループの
村木と申します。
先日の真莉さんの配信を拝見させていただき、
云々。
つきましてはぜひウチとコラボさせていただけ
ないかと思い、メールを送らせていただいてい
ます。
希望する日程としましては、云々。
〜(中略)〜
ぜひご検討のほどよろしくお願いします。
菊花騎士団
村木
――――――――――――――――――――
天音向けの問い合わせ先にも同じアドレスからほぼ同じ内容のメールが届いていた。
(……コラボか)
それも真莉と天音向けのコラボの問い合わせ。
悟も3人のコラボ相手を探してはいた。
ダンジョンの中には、3人のスキルだけでは攻略できないものもある。
すなわちレアスキルがなければ攻略できないダンジョンだ。
悟もレアスキル持ちの配信者とコラボの申し出をしてはいるのだが、大抵の数字を持っている配信者は最初は乗り気でも、悟が3人のマネージャーだとわかった途端、急に態度を変えてコラボをキャンセルしてくるのであった。
Dライブ・ユニットとの間で起こったゴタゴタがまだ尾を引いているのか。
あるいは蓮也に相当悪質な噂を流されているのか。
あるいはその両方かもしれなかった。
とにかく配信者界隈で悟の評判はいまだに悪いようだ。
なので、コラボ先がいつまでも見つからず、半ば諦めていたが、今回、珍しく向こうからコラボしたいというメールが来た。
それも結構登録者数の多い配信グループだ。
悟は今回もどうせ断られるだろうなと思いながら、返事を書いた。
自分が元Dライブ・ユニットの雪代悟だが問題ないか。
すると意外にも先方はすぐに問題ないと返事をかえしてきた。
(ふむ)
悟の悩みはコラボ先が見つからないことばかりではなかった。
蓮也からの榛名への嫌がらせは一線を越えている。
ここいらでそろそろ何か対抗策を考えておかねばならなかった。
それには外との繋がりを作ることは有効な一手に思えた。
蓮也達がこうして悟に嫌がらせを繰り返してくるのは、悟が配信者界隈で孤立しているのもその一因である。
ここいらで外部グループとのコラボを成功させておけば、悟の箱はコラボしても問題ないグループという印象を外部に与えることができ、逆に悟よりも蓮也達の方が悪質な配信者だと界隈に喧伝するきっかけになるかもしれない。
蓮也達も人間関係を気にして攻撃を躊躇してくるかもしれない。
(よし。コラボ、受けてみるか)
悟は先方にコラボ受諾を返信した。
お互いのスケジュールを擦り合わせ、都合のいい日程を決める。
コラボ当日。
悟は真莉と天音を連れて、上野ダンジョンへと向かっていた。
学校から離れる際、榛名が「私も行きたい」と駄々をこねてきたので少々難儀した。
「なんで私より先に外の奴らとコラボさせるんだよ」という榛名に対して「今回のダンジョンは
「悟さん、コラボ先のお相手方、
天音が聞いてきた。
「菊花騎士団は登録者数15万人の中堅配信グループだ。主に上野ダンジョンを拠点にしている。特徴はメンバーの中に
「
真莉が言った。
「うん。レアなジョブだ。主に吸血鬼やゾンビ系モンスターに有効なジョブで、これらのモンスターの中には、
「つまり、今回の上野ダンジョンには
天音が優等生らしく予習の成果を披露する。
「うん。そういうこと。だが、彼らとコラボしたことにはもう一つ狙いがある。なんだと思う?」
2人は首を傾げた。
「うーん。じゃあヒントを出そう。菊花騎士団とコラボすれば、Dライブ・ユニットからリスナーを奪うことに繋がる」
「えっ? そうなんですか?」
「どういうことなんですか、悟さん?」
「うーん。じゃあもう一つヒント。蓮也のジョブは
「
「うーん?
真莉がそう言いながら首を傾げた。
「そう。いいところに気付いたね。そこが重要なヒントだよ。
2人はまだしっくりこないようで考え続ける。
悟はもう少しヒントを出すことにした。
「
「! 蓮也の配信ネタが少なくなる!」
真莉が閃いたように言った。
「なるほど。鈴蘭さんのチャンネルを育てれば、蓮也のリスナーを奪うことができる。そういうことですね?」
「そう。なんやかんや言って、蓮也はディーライの顔。蓮也の人気が落ちれば、ディーライ全体が浮き足立つことになるというわけさ」
「はー。なるほど」
「流石は悟さん。そこまで考えておられたとは」
(すっごい。悟さん、優しそうに見えて、ディーライを倒すための布石を着々と打ってたんだ)
真莉は悟の深慮遠謀に舌を巻くのであった。
「前回の榛名に対する攻撃は一線を越えている。これ以上は流石に見て見ぬフリをしてもいられない。今回のコラボをきっかけに菊花騎士団との仲を深め、ゆくゆくはディーライを脅かすグループになるまで成長してもらう。うまくいけば、ディーライに大打撃を与えることができるし、そこまでいかなくてもかなりの牽制になるはずだ。そのためにも今回のコラボ、絶対成功させるよ」
「はい!」
「蓮也に一泡吹かせるためにも、絶対成功させましょう! 私達に何かできることがあればぜひおっしゃってください」
「とにかく今回のコラボで重要なのは、まずは君達2人が100万再生を達成すること、次に鈴蘭さんおよび菊花騎士団の再生数に貢献して、菊花騎士団のチャンネルを育てること。この2つだ」
「じゃあ、私達はいつも通りやればいいだけですね」
「ああ、2人の狙うべきアイテムは企画書に書いてある。もう企画書には目を通してあるよね? 君達はその目標さえ達成してくれれば、あとはいつも通り自由に楽しくやってくれれば問題ないよ」
「さっすが悟さん」
「いつも的確な〈マッピング〉助かっています」
「ここまでサポートしてくれるなんて。ほんと悟さんにプロデュース頼んでよかった」
2人には伏せているが、悟には更なる深慮遠謀があった。
このコラボを成功させれば、他の外部配信グループにも悟の〈マッピング〉の有用性をアピールできる。
そうなれば、他のグループにも悟の〈マッピング〉を輸出できるし、悟の〈マッピング〉目当てに榛名達3人とコラボを申し込んでくる配信者も増えるだろう。
蓮也の悪質さも広めることができ、間接的に配信界隈全体でのディーライ離れを誘発することにも繋がる。
やがて、公園のすぐそばにある上野ダンジョンの入り口が見えてきた。
駐車場に車を停めて、3人はダンジョンへと向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます