浮気サレ妻、離婚でキレる…これで良いなら一緒に居れば良いわ

石のやっさん

浮気サレ妻、離婚でキレる…これで良いなら一緒にいれば


私の名前は裕子。


今の旦那と22歳の時に結婚して今32歳、結婚10年目の主婦だ。


夫の和也に過去に2回浮気された。


そして今、和也に3回目の浮気をされ、離婚を申し込まれました。


此処暫く残業が多かったり、出張が多いと思ったら、まさかまた浮気したなんて信じられないわ。


今現在だって、完全に許したわけじゃない。


泣いて謝るから、再構築を選んだのに、久々に会話をしたらこれな訳?



「頼む、陽子との間に子供が出来た、済まないが離婚してくれないか?」


陽子というのは、一番最初の浮気相手だ。


もう会わないと約束したのに…


「そう、あの女とまだ続いていたんだ」


あの時、許すべきじゃ無かったのかも知れない。


ふふふ…流石にキレて良いわよね。


◆◆◆


陽子と言うのは夫の会社の部下で26歳のOL。


夫の最初の浮気相手で、その時は陽子も既婚者でお互いに家族を持っていたのよ。


向こうの旦那は優しそうな気の弱い旦那だった。


3年にも及ぶ不倫で、私の旦那は随分と私の悪口を陽子に吹き込んでいたみたいだった。


探偵を雇ったら、昼間からラブホテルに腕を組んで入る写真や『妻とは別れるから』とか『もう妻は愛していない』そんな会話の録音。陽子からは『旦那を捨てる』『和也を愛している』そんな録音ややラブホに入る時の動画等、これでもかって位の数の証拠が見つかったわ。


探偵が「今迄の尾行でこんな簡単なのは初めてでした」そういう位よ。


此処迄の事をしたし、どう考えてももう『愛なんて無い』


そう思っていたんだけど、いざ離婚の話が進んだら、和也は「陽子とは遊びだったんだ、本当に愛しているのはお前だけだ!」と言い出すし、陽子は陽子で「嫌だ別れたくない(自分の旦那と)」言い出す始末。


「遊びって何かしら?」


子供が出来るような関係をしかも3年も続けて置いて、遊びって信じられないわ。


私は正直言って浮気には寛容な方だと思うの。


キャバクラや風俗で遊ぶ分には文句を言わないわ。


それが同じ会社の人間で部下。


どう考えても時間から考えて会社をサボってホテルに行っている写真迄…真面目だと思っていたのにガッカリだわ。


正直、腸が煮えくり返ったわ。


だけど、相手の陽子には子供が居たせいもあって相手側の家族が再構築を選んだのよ。


こちらも和也が「二度としない、許してくれ」と土下座までするから、結局お互いに再構築を目指すという話でまとまり、向こうの旦那が夫に慰謝料を請求しない代わりに私も陽子に慰謝料を請求しないという『お互い様』という事で話が纏まったの。


しかも、お互いに問題が起きると困るから会社への報告もしなかったのよ。


ハァ~今、思うと甘かったわ。


此処で離婚して慰謝料を請求して終わりにすれば、良かったのよね。


そして2回目の浮気相手はよりによって未成年に手を出したのよ。


この話を聞いた時、顔が真っ青になったわ。


しかも、相手の年齢は此処では書かないけど『同意があってもしてはいけない年齢だったのよ』


警察沙汰になったらもうおしまい。


青少年育成条例違反で、前科は確実につくわ。


罰金刑で済むかも知れないけど、会社に知られたら確実にクビ。


しかも、近所に知れたら生活すら困ってしまうわ。


先方から怒りの電話が掛ってきて『話し合い』になったんだけど、怒鳴り散らす相手に和也は怖がって逃げたの。


なんで和也の不倫の後始末を私がしないといけないのかしら…


腹が立つわね。


だけど、この頃はまだ愛情があったから…


ハァ~仕方なく私が対処しに行ってきたのよ。


白馬という喫茶店で待ち合わせをしたのだけど…


相手が来た時には久々に怖さを感じたわ


筋肉隆々の金髪鼻ピアスの旦那にヒョウ柄の服にミニスカートの母親。


もしかして…そっち系の人なのかしら。


合う場所が喫茶店で良かったわ。


流石にこれだけ沢山の人が居れば暴れたりしないわよね…


「あんたが、あの男の奥さんか?」


「…はい」


「まぁ、あんたには恨みは無いんだけどさぁ、うちの子まだ子供だよ?いい歳した大人が未成年に手を出してどうするのさぁ…そう思わない」


「思います…」


明らかに向こうが正しい。


この状況で、言い訳なんて出来る訳がない。


「幸い、子供も出来なかったから良かったけどよぉ! あんたの旦那、気持ち良くないからって理由でゴムもつけなかったそうだぜ」


「学校もあるのに妊娠させたら、どう責任とるつもりだったんだろうね?」


「すいません…」


謝るしかない。


「俺も嫁もこんな感じだし、昔は結構ヤンチャもした! 正直言えば若い頃の出来ちゃった婚だ! だから未成年に手を出した事は咎める気は実は無いんだ! もし、結婚なんかして無くてよ、真剣に付き合うっていうんなら、歳食った親父でもワンパンかまして『認めてやるから責任とれよ』で終わる話だったんだぜ! だがよ、娘はガキだが本気で考えていたのに「これは遊びだ! 俺には妻がいる」これどういう事だよ!しかも「不倫なんてしていたのがバレたら学生のお前の方が困るんじゃないのか?」そう言ったそうだぜ…娘は妻帯者なんて最近まで知らなかったのによ…クズだろうが?」


「ごめんなさい…」


本当に何も反論できないわ。


和也の奴…事情も詳しく話してくれないんだから…


これじゃ、ただ謝るだけだわ。


しかも、当人が居ないんじゃ、誠意の見せようも無いわね。


ハァ~どうすれば良いのよ。


「ねぇ、あんたその辺で良いんじゃない? 奥さん怒鳴っても仕方ないし、ある意味この奥さんも被害者じゃないか? だけど奥さんさぁ、娘に酷い事をした事を許せない…それは解るよね?」


「解ります」


その後「誠意を見せろ」って話になって示談で済む事になったのよ。


慰謝料を払えという話だった。


ほっとした反面、果たして慰謝料を幾ら払えば良いのか困ってしまった。


「あの、スイマセン幾ら払えば良いんでしょうか? こう言う事は初めての経験なのでスミマセン…」


夫の前科に会社をクビ…そう考えたら数百万払っても回避しなくちゃならない。


相手は未成年だ。


普通に考えて100万単位の話になる…そう覚悟したわ。


「そうね…少しは痛い目を見て貰わないとな…30万でどうだ!」


「30万円ですか」


「うちの子も、まぁ夜遊びしている様な子だから、それで良いわ」


『良かった』本当にそう思ったの。


「ちょっと連絡させて下さい!」


スマホですぐに片端から弁護士事務所を調べた。


弁護士事務所に電話を掛け、すぐに来てもらえる方を探した。


「お前、どこ連絡しているんだ! こちらは示談で良いって言っただろうが! 舐めているのか?」


「弁護士?まさか警察にも! 示談で済ませてやるんだから大事にすんじゃねーよ」


強面夫婦が怒鳴ってテーブルを叩いた。


「あの、ちゃんと払いますよ安心して下さい! ただ、払って解決したと言う証明をする為の書類を作る人を探しているんです」


そう伝えると、急に怖い顔が笑顔になった。


「なら良いや、金は貰えるんだな」


「約束します」


「そう、騙したら只じゃ済まさないけど、払う物払うなら待っててあげる…だけど腹がすいたわ」


私は近くにあるメニューを渡した。


「好きな物食べて下さい…こちらで払いますから」


「そうか…悪いな」


「あんた苦労しているんだね…まぁ良いわ、飯まで奢ってくれたんだ、待っててあげるわよ」


「そうだな、どうせ暇だから良いぜ」


この2人危ない人間に見えて、意外に優しい。


結局、若い弁護士の先生が来てくれて、話は終わった。


相手は30万円と言っていたが『口外しない』『訴えない』『もう会わない』その3つを強調した文面で、もし約束を破った場合は、私に1回につき30万払うという内容にして貰った。


凄く、そこで渋られたので『慰謝料50万円にしますから』そう話すと喜んでサインしてくれた。


「なんだか悪いな」


「これで話は終わり、もう安心して良いわ」


良かった、相手の子が結構遊んでいる子だった為、話は直ぐについて50万の慰謝料で話が済んだ。


写真を見せて貰ったが、女の子もピアスを沢山つけ、ミニスカートを履いていて如何にも遊び人にしか見えなかった。


だから、これで済んだのかも知れない。


相手が真面目な子だったら、絶対にこんな簡単には済まなかったわ。



そうは言うが、相手は少し危なそうな人だ、一推しした方が良いだろう。


サインして貰い、安心した私は、弁護士を含む三人の前で袖を捲った。


「「「なっ…それ」」」


「私も、貴方達や娘さんと同じで『昔は結構やんちゃしていたんですよ』そのつけがこれです…子供が産めて家族が居るって幸せでしょう? 私みたいにならないようにした方が良いですよ…」


そうちょっと脅しておいた。


私の体には、沢山の火傷や斬られた傷がある…まぁ見方によればかなり危ない人間に見える。


2人は「肝に銘じます」そう言うと帰っていった。


弁護士の支払いと慰謝料で80万円近くになったが…これで終わって良かった。


『未成年の価値』が解る前に話がついたから。


例え同意があっても未成年に手を出せば『青少年育成条例違反』で簡単に言えばレイプ扱いになる。


旦那は固い所に勤めているから人生は終わる。


その事をあの2人が知っていたら、恐らくこの金額じゃ収まらなかった可能性もある。


これで済んで本当に良かったわ。


この時も旦那は土下座を私にした。


二回目の土下座だ。




私の体には火傷の様な物や切傷がある…普通に考えてみれば完全に傷物だ。


それを知っても好きになってくれた和也。


それでも愛してくれると言った和也だから、此処迄されてもまだ愛情は残っていた。


傷物女、その負い目もあり…この時も再構築を選んだ。


◆◆◆


それから、暫くは本当に真面目だったのよね。


そこからは金遣いは少し荒いが真面になったと思っていたのよ。


流石に三度目は無い。


そう思って安心しきっていたら…まさかのこれよ!


「流石にこれはないわね、普通の浮気なら兎も角、まさか相手があの陽子さん!しかも子供まで作るだなんて!まさかと思うけど続いていたわけ? 二人目の時も続いていて三股だったって事なの?」


一応は顔を青くして俯いて反省した顔をしているけど、これは嘘ついている時の顔だわ。


そんなの付き合いが長いからお見通しよ。


「それは違う…ちゃんと別れたし、最近まで会っていなかったんだ。ただ陽子が旦那と別れたと聞いて…親権をとられていて泣いていたんだ! それで慰めているうちに…そのな、最初は裏切る気なんて無かったんだ…本当だ…信じて欲しい」


本当に馬鹿な男。


慰めているうちに再燃しちゃったんだ。


お互いに接近しない約束があった筈なのに『連絡を取っていた』そういう事じゃ無い。


この時点で裏切りだわ。


「へぇ~陽子さん離婚しちゃったんだ!まぁ浮気女だから仕方ないわよね!旦那さんやさしくて良い人そうだったのに、もしかして慰謝料請求されていたりして」


「ああっ、その通りだ、陽子の所だけじゃなく、俺の所にも慰謝料の請求が来ている」


馬鹿だわね。


前回の教訓がなにも染みついてないのね。


2人でくっつきたいなら、ちゃんと筋を通して離婚してから付き合えば良いのに…


「それでどうするのよこれ? 前回、折角会社には報告しなかったのに、馬鹿みたいに後輩に自慢して、不倫がばれて会社で部署移動になったのよ! 2回目だから下手したらクビ、良くて左遷されるんじゃない? 2人して、そんな中で私に対して慰謝料払えるわけ! しかも通帳みたら定期も解約しているし、消費者金融のレシートまで出てきた、財産分与どころじゃなくて借金でマイナスじゃない、ほぼ一文無しじゃない?ねぇ、どうする気なの? 慰謝料に共有財産の使い込み、払える訳? 払えないよね!」


流石に愛想も尽きたわ。


この怒りをどうぶつけて良いかわからないわ。


「ああっ裕子の言う通りだ…金は無い、出来たら俺だけじゃなく陽子にも慰謝料を請求するのを止めて欲しい…無理なら減額、もしくは分割にして欲しい」


「あのね…今回で3回目なのよ、しかも相手は最初の相手、どの面下げてそんな事言う訳? 悪いけど慰謝料300万で請求するわ、勿論陽子さんにもね…悪いけど、これ本当に相場の金額なのよ払って貰うわよ、他にも夫婦の共有貯金、使い込んだお金500万円の半分250万円も請求するわよ」


「そんな、子供も生まれるのに酷いだろう! 大体お前がそんな体だから、他の女に目が行くんだよ!そんな体じゃ出来ないからな、俺もある意味被害者じゃないか!」


そうは言ってもね。


結婚前にちゃんと納得して結婚したわ。


この人は何処まで私を傷つけたら気が済むのだろうか...


「それは結婚前に見せて、それでも結婚してくれって貴方が言ったんでしょう? しかも10年前の話だわ、今更何を言うのかしら?それにこの体が嫌なら、再構築なんて選ばないで最初の時に離婚すれば良かった話じゃない? 違うかな?」


「あの時は陽子が再構築を選んで、それで、今とは事情が違う…なぁ頼むから、土下座でも何でもするから、許して貰えないか?頼むよ…」


『何でもするね』


その言葉の重み解っているのかな…


誠意も無い。


慰謝料も払えない。


使い込んだお金も返せない。


それなら、他の物で返して貰わないとね…


「もう良いわ!土下座されても意味無いもの!とりあえず、1度、陽子さんも連れてきなさい、別に怒ったりしないから、今後どうするか話会わないといけないでしょう? お金が払えないなら他に何か考えるから…まぁもう、離婚は確実にしてあげるから安心して良いわ」


「ゴメン、本当に悪かった…許してくれてありがとう…」


これで許されたと思ったのかしら?


甘いわね…


和也は慌ててスマホで陽子に連絡した。


話し合いの結果、1週間後の夕方6時に家に来るという事が決まった。


「それじゃ、話し合いも決まったし、貴方はどうするの? 此処に居るのかな?」


「流石に、それは悪いから、出て行くよ」


旦那の和也は簡単に荷物を纏めると家から出ていった。


一応は駅前のビジネスホテルに泊まる。


そう言っていたけど、まぁ陽子の所に行ったんだと思う。


もう、どうでも良いけどね…


◆◆◆


これで、実質離婚は確定したので、今住んでいるこの部屋を引き払う準備を始める事にした。


この部屋は私が住んでいた部屋に旦那の和也が転がり込んできたから賃貸名義人は私…だから簡単に解約できる。


独身時代から住んでいた部屋で感慨深いけど、もう此処を離れた方が良いわね。


これが終わったら…新しい事を始めよう。


此処の部屋の思い出はすっかりと忘れてしまえば良いわ。


旦那だった和也の荷物は全て荷造りして実家に送ってやった。


私は元から物を余り持たない主義なので最低限生活に必要な物以外は思い切って全部処分した。


部屋も来月頭で退去する、その旨を伝え不動産屋で解約手続きした。


多少の違約金が掛かるみたいだけど、未練を残さない為、解約手続きをした。


電気、ガス、水道、電話も連絡してその日で止まるように手続きをして終わり。


結婚なんて始める時は大変だけど、終わる時はあっさりしているわね。


◆◆◆


さてと、これで離婚に向けての手続きは終わったわ。


此処からはささやかな復讐の準備をしなくちゃね…


「まずは、ヤスゾンであれを買わないとね」


私はヤスゾンにある機械の注文を入れた。


久しぶりだけど、上手く使えるかしら?


まぁ上手く使えなくても、どうでもいいや。


商売じゃ無いしね。


次に、私は行政書士の先生の所に行き離婚同意書の作成をお願いした。


「多分、この内容なら問題なさそうね」


「随分と変わった内容ですね?こんな内容初めて見ました。」


「ええっまぁ、どうせお金も取れそうもないですし…これで良いわ」


この同意書は昔の知り合いに教わった書き方で書いてある。


まぁ書いて置く事に越したことはないわ。


これで準備は十分、あとは当日を待つだけね。


◆◆◆


いよいよ離婚についての話し合いの当日。


当日、約束の時間の30分前に二人は部屋を訪ねてきた。


二人はかなり緊張しているみたいね。


これから、離婚の話をするんだから当たり前だわ。


「そんな緊張すること無いわ…さっ上がって頂戴」


「ああっ…」


「ええっ…」


少し前まで和也は此処に住んでいたのに…


厚顔な性格の癖に良く、そんな、すまなそうな顔が出来るわね。


もう騙されないわ。


「それでね、よく考えた末、離婚には素直に応じる事にしたのよ!だから安心して良いわ、お金も請求はしないわよ!」


「本当か、助かるよ、本当にありがとう!」


「あの、本当にごめんなさい…まさか許して貰えるなんて、ありがとうございます!」


馬鹿ね、無料ほど高い物は無いのに…


「そうね、だけどお金は要らないけど?それなりに償って貰うわよ?悪いけど幾つか、いう事を聞いて貰うわ」


「ちょっと待ってくれ、変な事させるんじゃないんだろうな?」


「なにするつもりんですか? まさか暴力を振るう気ですか!」


「あのね…私はそんな警察に捕まる事はしないわ…まぁ土下座した状態で頭を踏む位は考えたけど、今更よね…まぁ一つは身重の陽子さんには悪いけど、明日の朝までお酒に付き合う事、こんな洒落にもならない事したんだから、愚痴位付き合いなさい」


思ったほどの事でなく、今日で終わると考えたのでしょうね。


2人ともホットした顔になったわ。


「それでお前が気が済むなら、それで良いよ」


「そうね…略奪したようなものですから、それ位はさせて頂きます」


あっさりと了承したわね。


私の願いはまだあるのに。


相変わらず、話を聞かないタイプね。


「それじゃ、書類にお互いにサインしましょう? 全部で2枚、離婚届け入れて3枚あるわ、ちゃんと慰謝料の請求もしない事も書いてあるわ!安心して頂戴! 離婚届は明日、私が出しに行くから後は2人で自由にして良いからね」


「ああっ、すまない、ありがとう」


「はい、これで良いですか?」


二人して書類に簡単に目を通してサインした。


こういう書類は小さい文字まで目を通した方が良いわよ。


サインしたわね。


意味が解っていないのね。


「これで良いのか?」


「本当に慰謝料を請求しないと書いてありました…子供も生まれるし…助かりました」



「そう、それじゃ約束よ!お酒を飲もうか? 結構良いお酒を用意したのよ、飲もう!」


「ドンペリ…凄いな!」


「キャビアにフォアグラですか?」


そうお酒もおつまみも最高の物を用意したわ。


「お酒も、おつまみも最高の物を用意したわ、どうせ貧乏な貴方達にはそう味わえないだろうからね、一応二人の新しい門出に乾杯!…あはははっ私も同じかぁ~」


「酷いな…その言い方」


「それモラハラですよ…」


「馬鹿じゃない? 二人して600万の慰謝料に共有貯金の使い込みをチャラにするんですからモラハラ、セクハラのオンパレード当たり前じゃない? 600万よ600万…にひひひっ、我慢してね」


「お前その笑い気持ち悪いよ」


「何をさせようって言うんですか?」


わざとおどけて見せる。


やりすぎもやらなすぎも駄目…


今の私は2人にはさぞかし滑稽に見えているんでしょうね。


「そうね、まずは陽子ちゃん、下着姿でお酌でもして貰おうかしら」


「ふぅ、女の裸見て面白いんですか…まぁ、慰謝料免除ですから、仕方ないからしますけど」


あらっ抵抗しないのね…


「うん、私は解らない、だけど和也さん、私に内緒で『おっパブ』に行ってたみたいなのよ…だから経験したくてね」


「和也さん…そんな所に行っていたんですか」


「違うっ…行ってない」


「だ~め、ちゃんとカードの明細先にあったわよ」


「和也さん、後でお話しましょうね…まぁ良いわ、約束ですから」


なかなか思い切りが良いわね。


「若いって良いわね、私もこの位大きな胸だったら捨てられなかったのかな?」


「あの同性に言われても…あのなんで触ろうとしているんですか?」


「言ったじゃない? 今日はセクハラ、モラハラオンパレードだって言ったじゃない…300万払うんだからこの位はね」


「目がすわってますよ…まさか裕子さん、女もいけるとか言わないですよね…ちょっと止めてくださいよ、そんな…ああっ」


「冗談よ、冗談…もう服を着ても良いわ…うんうん凄く良い体しているわね、これじゃ和也が寝取られちゃうのも仕方ないわ、そういう趣味は無いから安心して…可愛いしスタイル抜群、感度も良い、まぁ負けて当たり前、諦めもつくわ」


「…」


「なんだか、ごめんなさい」


「良いから、良いから飲もう、今日はトコトン突き合わせるわよ…ほら」


「仕方ないな」


「ハァ~仕方ありませんね」


アルコールは度が高くて口当たりの良い物を選んだ。


睡眠薬も結構入れたから…すぐに眠くなるでしょう。


馬鹿ね…私達はもう敵でしょう?


敵の前で油断するから悪いのよ…覚えておくと良いよ。


◆◆◆


私には和也に黙っていた事がある。


私の体の火傷や傷は…刺青を消した物だ。


事故に遭った怪我とかじゃない。


私は若い頃、本当にやんちゃしていた。


実家が特殊な事もあり、普通の恋愛は出来なかった。


当時付き合っていた彼氏は、ヤクザ者で刺青ジャンキーだった。


体中刺青だらけで、自分でも機械を買って彫るような人物だった。


彼と付き合う事で刺青をカッコ良いと思っていた私は彼に彫って貰い、彼に彫る為に彫り方を覚えた。


その頃の私の夢はTATOOショップを開く事だった。


お父さんにも認めて貰い、折角お金を貯めていたのに、ヤクザ者だったからか、ある日彼は刺殺されて死んじゃったのよ。


彼が死んだ事で真面目になろうと決意した私は刺青を消して、普通の女になった。


その刺青を消した代償がこの体中の火傷や傷なのよ。


◆◆◆


しかし、今のネットショッピングは凄いわね。


ヤスゾンで普通に刺青機が売っているんだから。


昔凄く苦労して買ったのにね…


今は簡単…


まずは陽子さんから…


背中に大きく『蛸に犯される弁天』を彫ろうかしら?


この刺青を見た時は驚いたわ、歌舞伎町の風俗嬢が彫っていたのよね。


なんでこんなのを彫るのか解らないけど。


その横に大きく『淫乱女、誰とでも寝ますの文字』うん良いわね。


それに股には洋風の猫の顔を彫って、穴が丁度口になる様に…ああっこれじゃ可愛すぎ、やっぱりエイリアンにしよう。


お尻に蝶を彫って、面白いから男性器も彫って置こうか2本くらい。


胸が寂しいから此処には髑髏を入れようと…


手足にも入れても良いけど、子供が入るからせめてもの情けを掛ける必要もないわね。


肩に『和也命』 反対側には『不倫上等』を花札みたいにしていれてみたわ。


こんな感じでどうかしら?


あらっ太腿があるわね。


太腿には可愛らしく『バラ』を入れて、そこにも同じく『男好き』と入れて…


時間が無いからこんな物かしらね。


1週間 時間があったのだから…もっと図柄を考えておくんだったな。


元旦那の和也は


背中はやはり『女幽霊、しかも顔が潰れて怖い奴とそれを犯す男』


かなりヤバい図柄だわ。


胸はうん陽子と同じ髑髏にして肩には…


『陽子命』 『クズ男参上』 勿論、花札みたいに拘っていれるわ。


太腿には『遊び人孕ませます』 と陽子とお揃いで薔薇を入れてあげようかな?


股は…うんこれは、象さんで決まり。


お尻にはめんどくさいから蝶々で良いかな…


さぁ、久々の刺青だから腕がかなり鈍ったわね。(笑)


まぁ、彼氏でも何でもないし…離婚すれば只の他人だから失敗しても問題ないから気軽に彫れるわね。


真剣に彫る時は時間を掛けて彫るけど…別に真剣に彫る必要は無いから、失敗しても構わず彫れば良いわ。


何年も針を握ってないから…余り上手くいかないわね。


機械もなんだかチャッチイ気がする。


もうどうでも良いわ…他は兎も角、女の表情が、随分下手だな。


妖艶な感じが出ないで、陶器の置物みたいな顔だわ。


蝶々もなんだか今一な気がするけど…仕方ないブランクがあったんだから。


世の中には振られた腹いせに女に『うんこと蠅を彫った人』もいるし、顔にまで刺青を入れた人がいるんだから、真面な物を彫ろうとしているだけ、私の方が優しいわよね。


大体プロに頼んだらこんなに沢山刺青をいれたら結構な値段するわよ。


それなのに、お金もとらずに1人300万円、二人で600万の慰謝料も払わないで済ましてあげるんだから…うんうん、私って優しいわよ。


慰謝料無しで…高額な入れ墨をプレゼント。


うん、凄く優しいでしょう?


しかし、久しぶりだから結構な時間が掛かるわね。


手も疲れてきたけど…まぁ流石に未完成は可哀そうだから、頑張るわよ。


本当に疲れる。


起きてきたら怖いからさっき追加で睡眠薬飲ませたし、浣腸器でアルコールを肛門から注入したからまだ大丈夫よね。


睡眠薬とアルコールでも結構起きてこないものね。


結局此処迄頑張って、丸二日間掛ったわ。


出来は今一で細部は酷い物、特に女性の顔は最悪な位下手だわ。


だけど、落書きじゃなくて一応はちゃんとした彫り物に見えるレベルには仕上げたわ。


「約束だからこれで離婚で良いわ、慰謝料も請求しないし、共有財産も諦めたわ!だけど、そんな状態でお互いに愛し合えるかしら、普通の人なら抱きたくないと思うわよ…頑張って乗り越えてね」


酒瓶やその他のゴミを捨て、その足で部屋を後にした。


一応は訴えても無駄な様に書類は作ってサインはさせていたけど…


面倒事は嫌だから遠くに行こう…二人と会わない位遠くに。


私は爽快な気分で役所に離婚届けを出しに行くのであった。


◆◆◆


「これ完全に二日酔いだな…あたたたっ頭が妙に痛い」


酒を飲んで寝てしまったようだ。


裕子は居ない?


出て行ったのかどうか解らないがこれで約束は守った。


俺はホッとした気分の中、少し寂しさを感じた。


彼奴とは長い付き合いだ、他に好きな相手が出来たとはいえ愛情が全部無くなったわけじゃ無い。


陽子を見ると毛布が掛かっている。


『相変わらず優しいな』


そう思い部屋を眺めた。


もう整理されていて家具も無い。


兎に角終わったんだ…これで。


後は陽子との生活を考えれば良いだけだ。


「う~ん、おはよう和也、あれ裕子さんは?」


「もう居ないよ」


「そう、結構悪い事しちゃったな」


「だが仕方ないだろう」


「こんな事で許してくれて…あれっ、ああっこれが裕子さんの最後のいたずらか、体中に落書きがされているよ…あたたた、かなり痛い」


「俺もだ!酷い事書かれているな」


「まぁ仕方ないんじゃない」


「そうだな」


周りを見ると机に手紙があった。


『私の二つ目のお願いは貴方達に刺青をする事でした これで全部終わりで良いです…さようなら』


「嘘、これ消えないよ」


「真面目に消えない、冗談だよな」


「痛いのは、書いたんじゃなくて刺青だから? 嘘、そこにあるの刺青の機械じゃない」


「本当だ」


「これじゃプールも行けないし、子供と遊ぶ時に制限が掛かるよ…どうしよう」


「俺だって刺青がばれたらクビになるかもしれない」


「「うわぁぁぁぁぁー-っ」」


二人の悲鳴がこだました。


◆◆◆


「父ちゃん久しぶり…」


「裕子、お前、結婚して堅気になったんじゃないのか?」


「あはは、そのつもりだったけど、堅気も碌なもん居ないよ…あれならヤクザの方がマシだよ」


私が普通の人と付き合えない理由、それは実家がヤクザだからだ。


「それで、お前これからどうするんだ?」


「そうさね~堅気になろうと思ったんだけどね…堅気には碌な奴いないから、この際、ビシッと筋が通ったヤクザもんでも良いかなって思って…それでさぁ、ヒロ坊ってまだ私の事好きだったりして…」


「馬鹿野郎、もう何年経っていると思っているんだ、今やあいつもうちの若頭で良いかみさんが…だと良かったんだが。若頭は本当だがこと女になると『お嬢』『お嬢』とからっきし駄目だ」


「いまだに彼奴私が好きなんだ…まぁそこ迄想われているんなら、飲み友達からスタートしようかな?」


「お前、此処に帰ってきてくれるのか?」


「父ちゃんが良ければだけど?」


「そうか、それじゃ今日は赤飯だ! 夜には帰って来るから、ヒロもきっと驚くぞ」


「そう? それじゃいっちょ、化粧でもしてやるかな」


もう堅気はこりごり。


こっちの方が私の性分にあっているわ。





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