第5話 お買い物

「先生、朝食はどうしましょうか?」

 寝不足の眠たい目を擦りながらそう問う。平手打ちされた左頬がジンジンと痛む。

「ビール。あと焼き鳥の缶詰がどっかあっただろ。」

 タバコを吹かしながらそう下着姿のまま言う先生。この人はいつちゃんと服を着るのだろう?

「私のご飯は?」

「知ってるか?酒は炭水化物から出来てんだ。立派な食事だぜ。」

 そう言いながら一升瓶の栓を開ける先生。

「日本なんか分かりやすいよな。米から出来てんだ。要は米食ってんのと同じだ。」

 そう言って酒瓶に口をつけている。

「私未成年です。あと、人としてそれはダメだと思います。」

 酷い先生だ。ビンタして酒飲んで、弟子の食事は用意しないのだから。

「最近のガキは酒離れまでしてんのか…しょうがねぇなぁ…」

 一升瓶の半分程を飲み干し、先生は溜息混じりに言う。


「買い物行くぞ。」

 ボリボリとお腹を掻きながら玄関に向かう先生。

「先生、服を着て下さい。ただの痴女です。」

 下着姿のまま外に出ようとした先生を呼び止める。

 本当に大丈夫なのだろうかこの人…いや、そもそも、私が来る以前、どんな生活をしていたのだろう…

 

 先生にその辺に落ちていたTシャツ被せ、ジーパン生地のホットパンツを履かせて一緒に外に出る。

「おい、そんな上ばっか見んな。お上りさん全開だぞ。」

 高い建物ばっかりの街でキョロキョロする私に、ヨレヨレのTシャツと際どい角度のホットパンツで隣を歩く先生は注意する。

「先生に羞恥心ってあるんですか?私だったらそんな格好では外を歩けないんですけど。」

「オメェが着せたんだろうが!!…ったく。いいか、教えといてやる、私みてぇな絶世の美女はな、何着ても美人なんだよ。」

「なるほど…そんな考えだからゴミ屋敷になるんですよ。」

 バシーン、とまた平手打ちをお見舞いされた。解せぬ。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「(酒の)肴、肴、肴〜。」

 スーパーに入ると、某お魚のテーマを口ずさみながら、上機嫌におつまみになるお菓子やお惣菜をカゴに放り込んでいく先生。

「朝食ですよね?」

「もう昼だけどな。」

 なんの躊躇いもなくビールを箱買いする先生。

「私のご飯は?」

「テメェで選べよ。私は私が必要な物を買ってるだけだ。」

 この先生はダメ人間だ。しかし言質はとった。

 都会は物価が高い。私の実家近辺では想像も出来ない程高価な品(質も量も悪い癖に)に尻込みしていたが…

 仕方なく、そして遠慮なく、お野菜売り場からお魚売り場、お肉売り場で金額を気にせずカゴに放り込む。

 それにこれは絶対必要だ。

 お米。

 これがなければ生きていけない。

 糖質オフだ、糖質抜きだと言われるが、結局私たちはお米の民。これお米がなければ生きていけない。あと醤油。

 調味料も容赦なくカゴに放り込んで思った。

「これ持って帰るの無理ですよね?」

 カート2台分、山盛りになったそれを見て私は先生に言う。

「それは大丈夫だ。心配すんな。」

 ケラケラと笑いながら先生は私の肩を叩く。

 なるほど、ワインの試飲(販売員が泣く程飲んだ)をして上機嫌の様だ。


「あばば…」

 会計の金額に思わず泡を吹きそうになる。

「カード、一括でいいや。」

 そう言ってポケットからカードを出した先生は、

「んじゃ、袋詰めよろしく〜。」

 そう私を残しスーパーを出ていく。

 理由もわからず、大量の戦利品を袋に詰めていく私。こんなことなら、マイバックを持って来ておくべきだった。

 私はエコな魔女だから…


「先生?」

 袋詰めを終え。周囲を見る。

「お、ちょうどいい頃に来れたな~。」

 ヘラヘラと笑いながら現れた先生の後ろには、複数の男たち。

「んじゃ、家まで頼むぜ~。」

 ケラケラと笑う先生の声と同時に、男たちが買い物袋を奪い合う。

「先生…これは…」

 悍ましい光景に私はそう問う。

「ありゃぁ、私のファンだ。まあ、私超絶美女だからな!!ちょっとか弱いアピールして、ちらっと谷間見せりゃこんなもんよ!!」

 ダルダルになったTシャツの襟を摘みながらそう言って笑う。


「先生、歳を考えて下さい。」

 何故かまたビンタされた。

 正直に言っただけなのに…








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