BAKU

判家悠久

EP.1 nightmare

 きっかけは間違いなく、SNSに投稿したコメントだった。

 ステージに立つも、全員空席と言う度し難いアウェイ。ただそれはよく見る悪夢だ

 そのお陰で、ガールズアーティーストONE MORE KISS DEARの全国ツアーなのに、オープニングで、舞台袖にいるといつも竦んでしまう。

 観客はいるのか、いないのか、アーティストとして折角認知されているのに、気を使うのはそこでは無い筈。


 深酒をすると、ついウエィでSNSに投稿してしまうのが非常にアレだ。

 マネージャーさんから、しでかすと次は無いからとよく言われる。仮にしでかしても、マネージャーさんが深い溜め息をしながら相槌を打ってくれるので、あるよね菖蒲で、事無きを得ている。ただ。


『会場誰もいないよ。夢でももう嫌、誰か私を助けて。』


 この誰かが、結末から言うと、ど酷い話で、今考えると自業自得に至るのだが、さてと。



 #



 私溝口菖蒲と恋人で俳優穂積肇の仲良し動画が拡散されたのは、7月23日の西武ドームスタジアムの3週間前だ。

 前売チケットはファンクラブで相当数捌けたが、8割しか埋まっていない。小規模事務所なので、どうしても法人窓口は狭くやむ得ない。

 8割でも原価は何とか割らないので、仲良し動画拡散でファン離れは後にあろうと、辛うじてボーダーラインは守っている。


 ただ、その仲良し動画がどうしても奇妙なのだ。クリア過ぎる映像は私の視線で、忍んでのアフェアの品川のホテルでの合流の歓喜は、余人が入れないメンバーフロアなのだ。ホテルのカードキーのセキュリティーから盗撮はあり得ない。


 何よりの奇妙さは、その仲良し動画が記憶にまるで無い。フェイク映像も、その衣装は仕立てたばかりで、追っかけでも知らない筈だ。肇曰く。


「よりによってあの日なんだよ、一番燃焼し尽くした夜を狙うなんて、最低の連中だ。えっつ、菖蒲、覚えていないって。まあ仕事忙しいし、ここ半年は合わない方が無難かな。ごめん、俺も大作映画に入るし、大変申し訳ない」


 燃焼した。私はそこ迄燃える体質では無いので、相当な性欲が溢れていたのかな。全く覚えていない。ただ私は、ついSEXすると寝てしまう様だ。

 肇に諭されて騎乗位にさせられても、眠りながら本能で腰を振っているので、そっちかなは死んでも言えない。

 しかし日記帳には、SEXの回数は7回とは何故か書き残している。この回数確かに燃えてる。感慨深いが、何か違うなが過ぎった。



 #



 親友にして、卒業したガールズグループThunder Boomの出渕勇美子と情報交換に入った。

 SNSでは、視線がリアル過ぎるし、溝口菖蒲のテンションが高過ぎるから、よく出来たディープフェイクで鎮火している。

 何よりは、私が敢えて反応しないから、有名税で収まっている。


「しかし、怖い世の中だよね。菖蒲の楽屋裏のテンションの高さ知ってるなんて。業界怖いね。でもね菖蒲。正直に言いなよ、親友連れて4Pも程々にしないと。女の敵は女。誰に売られたのよ、誰と同伴したのよ。むしろそっちに興味津々、4Pか、スカッとしそう」

「4Pなんて致しません。例え勇美子に誘われてもね」

「おっかしいな。それはじゃあ、誰が売ったのよ。このエンタメ業界、親友程危なっかしいネタ持ちなのにね」

「肇曰く、誰ともハチあっていないから、ただ不思議」


 その後、出渕勇美子とはツアー中での乱行心得を説かれたが、そこ迄性欲は溢れていない。しかし、そう言うのは三十路越えると一気に感度上がるから、菖蒲危なっかしで諭された。女性の性とはそう言うものか。

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