第11話 大人たちの決意 

 石動と正行が軽食を食べている頃。


 春平は秋水を伴って星ノ宮市内のラーメン屋にいた。


「こんなところにラーメン屋があったんだ」


「お前が日本を離れている間に街は大分変ったよ。チェーン店だが、なかなか美味い」


 ナディアから出た春平はスタスタと店内に入る。



「いらっしゃいませー!」


 もう、春平は顔なじみで「こんばんは」と返答するが、後ろに巨大な秋水に店員は動きを止める。


「テーブル席でもいいですか?」


 店長らしき人物が案内する。


 店内に数人いた客も秋水の大きさに横目で驚いている。


 本人は慣れているのか、特に気にしない。


 だが、何故か、数分後には店員も客も自分の世界に戻った。


 注文し終え、数年ぶりの親子はお互いの近況を話した。


 そこにスマートフォンの着信音がした。


 秋水のからだ。


『よう、久しぶり』


「お久しぶりです」


 普段は粗暴な言葉遣いの秋水が相手に敬語を使った。


 これで、春平は小さい機械からの相手が誰か予測できた。


『いやぁ、参ったよ。自称【世直し強盗団】を名乗るグループのアジトが匿名希望を名乗る人から教えられて行ってみたら、そいつら全員空き倉庫の中で震えていたんだ』


「……ほう」


 興味なさそうにテーブルの模様を眺める秋水。


『どういうわけか怪我をしていてね。軽いもので三か月、重くなると最悪三年以上ベットの上で安静にしないといけない』


「……で、何で電話を? 普通なら『おかえりなさい』とか言いません?」


『ストレートにいうと、君たちが絡んでいるのかなと思ってね。自分の正義に酔ってテロリスト紛いな集団だったから本庁としては手を汚さずに済んだ。だから、お礼が言いたいんだ。【ありがとう。そして、余計なおせっかいだ。君たちはちゃんと命令を聞いていなさい】』


「お生憎様です。盟約には『星ノ宮を守る』というのもありますから……で、俺たちが関与した証拠はあるのですか?」


『今ねぇ、必死で探しているんだけどは非常に人を壊すことに長けていて証人たちも思い出すだけで震えあがって泣きだすんだ……』


 と、注文していたラーメンと餃子、ライスが届いた。


「あー、すいません。電波が悪くなったようなので切りますね」


 そう宣言して、容赦なく通話を切った。


 ラーメンは麵が伸びないうちに食べたい。


 流行りの家系ラーメンと呼ばれる濃厚なラーメンで実に美味しい。


 太麵もいい塩梅でスープに絡みつく。


 餃子も皮がパリパリで餡がたっぷり入っている。


 仕事をした後の飯は美味い。


「そうだ、親父。ちゃんとした手続きは来年あたりになると思うけど、俺さ……道場を受け継ぐことにしたよ」


 その言葉に春平は啜っていた麺を飲み込んだ。


 そして、むせた。

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