朝起きたら魔法少女になってた俺

@NEET0Tk

第1話

 ある日、魔物と呼ばれる異界からの侵略者が現れた。


 魔物には現代武器の一切が効かず、宇宙空間でも活動でき、毒物なども一切通用しなかった。


 このまま世界は滅びる、そう確信させる程の脅威が奴らにはあった。


 だが、人類は滅びなかった。


 何故なら世界の救世主、魔法少女が現れたからだ。


 魔法少女は異界から訪れたステッキと呼ばれる寄生生物と契約し、魔法を使うことが出来る連中のことを指す。


 ちなみに少女しかいない理由はステッキがロリコンだからだそうだ。


 うん、キモいな。


 だからか大人になると契約が切られることもあるそうだが、ステッキが気に入って大人になっても魔法少女のままの人もいるらしい。


 いやそれは果たして少女なのか?


 まぁ細かいことはいい。


 とにかく魔法少女の登場により魔物は一気に数を減らした。


 そんなこともあり魔物の襲撃は未だに続いているが、世界はある程度の平和を取り戻すことが出来た。


 昔と変わったことと言えば魔法少女がアイドル的存在になりつつあること。


 女尊男卑の世界になりつつあること。


 それくらいのものである。


 だから生まれてこの方男である俺にとって、魔法少女なんて世界と関わることはないと思ってた。


 そう、思ってたんだ。


『いやぁ僕の見る目は間違いなしでしたね!!これであなたも立派な魔法少女ですよ!!』


 意気揚々とふざけたことを抜かすステッキが生み出した鏡には


「絶対殺してやりますからね!!」


 青筋を立てた金髪の幼女が映っていたのだった。


 ◇◆◇◆


 説明しよう。


 朝起きたら幼女になっていた。


 以上だ。


「戻して下さい」

『それは無理ってもんですよー。こんな可愛い女の子を生み出した僕には責任があるのです!!』


 ブンブンと部屋中を飛び回るステッキ。


 ハエ叩きどこ置いたっけな。


『あと普通に無理な相談なんですよねー。一度契約すると30日は契約解除出来ないんですよ』

「は?ふざけないで下さい。てかなんで俺が魔法少女になってるんです?俺は男ですよ」

『え?僕の目の前には金髪幼女しか見えませんが?男って何の話です?』

「しらばっくれないで下さい」


 俺は携帯の写真フォルダを開く。


「これが本物の俺です!!というかどうして敬語になるんですか……」

『はぁ〜。全く仕方のない人ですねー』


 ステッキが観念したような声を出すと、俺の体が光り輝く。


 するといつもの俺の姿へと戻った。


「なんだよ、戻せるなら最初からそうしろよ」

『せっかくの金髪幼女が勿体ないです』

「黙れ。とにかく満足したならどっかいけ。せっかくの休日をお前みたいな謎生物の潰されるわけにはいかないんだ」


 そう、この土日で俺は溜まりに溜まったゲームや漫画を消化する必要があるのだ。


 こんな茶番に付き合う暇など決してない!!


『でも魔法少女の仕事しないとダメですよー』

「仕事?なんで俺が」

『だって僕と契約したじゃないですか。知らないです、契約?』

「俺が知る契約は互いの合意があって初めて成立するものだが?」

『はい、ですから僕が契約しますか?と聞いたら寝ているあなたがいいよと答えたので』


 こいつぶっ壊そう。


 それしかない。


『あ、ちょ、くすぐったいですよー』

「こいつ硬ぇ!!」

『魔法少女の姿なら壊せるかもですよ?』

「……どうすればなれる」

『変身と叫ぶだけですね』

「……変身」


 一瞬光に包まれたかと思うと、一気に視線が低くなる。


 何故か服がフリルだらけのものになっているということは


「マジで俺、魔法少女になってるんですね」

『はい、やっぱりプリチーですね。あとは言葉遣いをもっとタドタドしく、あとお淑やかにしていただいたら最高ですね』

「死ね」


 思いっきり折ろうとするが、全く動かない。


「魔法少女なら壊せるんじゃないんですか!?」

『魔法少女は悪しきものしか攻撃できないんですよ。だから僕みたいな純粋な心を持つステッキには攻撃出来ないんですよねー』


 純粋?


 どこをどう見ても下劣な悪魔だろこいつ。


『それにあなたってどちらかというと魔法タイプなんですよね。ほら、金髪幼女がバキバキの近接ってなんか嫌じゃないですか』

「お前の趣味は聞いてねーんですよ。はぁ、壊せないならもういいです。元に戻して下さい」

『え?今日はもう戻れませんが?』

「……は?」


 このスクラップ何をトンチキなことを言い出すんだ。


「折られたいんですか?」

『いえ冗談ではありません。あなたが一日に姿を変えられるのは2回までです』

「な……ぜそれを最初に……」

『聞かれなかったので』


 殺す!!


 コイツは生きてちゃいけない存在だ!!


『やはり凄いエネルギーです。僕の目に狂いはなかった』

「お前の頭は狂ってますけどね!!」


 はぁ〜。


 まぁいい落ち着け。


 幸い今日一日やり過ごせば元に戻れる。


 そしたら男に戻っていつもの生活に戻ればいい。


 こんな謎生物やら魔法少女だとかに付き合う筋合いなんてないんだからな。


『あ、では聞かれてませんが教えておきますね。魔法少女になった者は契約が終わるまで定期的に魔物を倒さないと爆散しますよ』

「…………は?」

『ちなみに本来なら3日ほど空き時間がありますが、無理矢……ちょっとあなたを魔法少女にするのに力を使ったので、あと1時間以内に魔物を倒さないと終わっちゃいますね』

「…………は?」


 は?


 ◇◆◇◆


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

『幼女の言う台詞じゃないけど、素晴らしい殺意ですねー。その勢いで悪い魔物をジャンジャン倒しちゃいましょう!!……あれ?どうして僕の方を向くんです?』


 コイツはいつか拷問しながら殺すとして、魔物をさっさとぶっ殺さないと俺が死ぬ。


 てかなんだよそのルールくそじゃねーか。


 魔法少女共は何を血迷って戦ってるのかと思ったが、自分の命を守るためなら当然だな。


 全ての元凶はこのクソステッキ共だったわけだ。


「クソ」

『……』

「クソステッキ」

『もしかして僕のことです?』

「僕じゃないです。カスです」

『じゃあ僕じゃないですねー』

「……魔物はどこですか」

『北東にあと2キロ先ですねー』

「そうですか」


 俺は更に加速して飛ぶ。


 どうやら俺はマジで魔法少女になったらしく、よくテレビで見る魔法少女と同じように空を飛んで向かっている。


 体が幼女のせいで走ると男の頃より遅かったが、空を飛べば電車よりも速い。


 最初はクソだと思った魔法少女だが、もしかしたら遅刻しそうな時くらいは使えるかもな。


『うーんそれにしても凄すぎますねー。いくら才能の塊とはいえ、魔法少女になって直ぐにこの魔力精度とは』

「普通はこうじゃないんです?」

『はい。一般的な魔法少女なら制限に失敗して地面に強打しますね。まぁその事故がないよう空を飛ぶ練習の時は熟練の魔法少女がつくわけですが』

「……お前、俺が飛ぶって言った時なんて言いましたっけ」

『確か……「頑張って下さい♡」でしたっけ?』


 よし、もう俺は怒るのをやめた。


 ただ将来コイツを倒す時、今までの怒りを全てぶつけるようにしよう。


 さて


「着きましたか」


 ビルの屋上に着地する。


 身体能力は下がりはしたものの、五感の方は確かによくなっていた。


 ここからでも下にいる魔物がクッキリと見えるくらいにはな。


 それにしても


「あいつ大丈夫なんです?」


 下では魔物と魔法少女が絶賛格闘中であった。


 既に避難は済んでいるのか人はいないが、その周りをいくつものドローンが追尾している。


 あれがネットに流れ、魔法少女頑張れーって金を巻き上げてるそうだが


「このままじゃ放送事故ですよ」


 既に魔法少女の方は傷だらけだ。


 対して魔物の方は疲れる様子が一向にない。


「……なんで他の魔法少女は助けにこないんですか」

『僕もさすがにそこまでは分かりませんが、魔法少女界は結構人手不足なんですよ。ほら、あなたみたいな天才じゃないと人って直ぐ死ぬので』

「それで?あいつの獲物横取りしても大丈夫なんです?」

『問題ないですよ。さすがに雑魚を100人がかりとかならまだしも、2人なら十分お釣りが出るくらいに力は戻ってきますので倒しちゃって大丈夫です。まぁそれ以外の事情は知りませんが』

「そうですか」


 なら問題ないかと俺はステッキを手に取る。


『オッフ』

「うっわ(ドン引き)」

『で、ではもう一度説明を。魔法少女にはそれぞれ固有の魔法が存在します。そしてあなたの魔法は』

「【停止】でしたっけ?ならアイツの心臓を停めたりとか出来るんです?」

『うーん、それは難しいですねー。概念系の能力は確かに強力ですが、コントロールが難しいですから。下手したらここら一体の全生命体の命を止めることになりそうですねー』

「さすがに犯罪者になるのは……」

『そこで大事なのは現実世界に落とし込むことです。止めるという曖昧なものを現実にあるもので代用するんです』


 概念を現実に……か。


『イメージして下さい。あなたにとって動かなくなるものといえば』


 動かなくなるもの。


 運動が止まる……粒子が動かなくなるってことだから……あぁ、いいものがあるじゃないか。


『さぁ、デビュー戦はド派手に技名を叫んでいきましょうか!!』

「誰がしますか。そんな恥ずかしいこと出来ませんよ」


 俺はステッキを前に倒す。


 そしてゆっくりと息を吸い込む。


氷の棘アイスニードル


 巨大な氷の棘がいくつも生まれ


発射イグニッション


 凄まじい速度で接近する氷の棘に気付いた魔物が最初の1本を叩き落とすが


「無駄です」


 続け様に発射された2本目がその体を貫く。


 そして怯んだ瞬間3本目が足を、体勢が崩れた瞬間4本目が頭を貫く。


 5本、6本、7本とその巨大な体躯に風穴を開け、そして8本目を撃ち込もうとしたところで


「死にましたか?」

『オーバーキルってやつですね』


 魔物は霧散して消えたのだった。


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