第15話:ローザンブルクのマイスターハンター③




 不本意ながら、今や『勇者』として伝説になっている前世のリオンたち。しかし実をいうと、召喚されていきなり戦えたわけではなかった。ちょっとばかりファンタジーな世界観が好きというだけで、ごく普通の高校生だったのだから、まあ仕方のないことだ。

 そんなこんなで、歴史と言い伝えには残っていないが、当初三人にはサポート役がついていた。より具体的にいうと、戦い方を教えてくれる先輩方がいたのだ。そんな中の一部が、目の前のお二人だったりする。

 「それにしても、思っていたより随分早く戻られましたね。この世界の魂は天に召されると、通常数百年から数千年単位で少しずつ廻っていきますから、もう少しかかるものだとばかり」

 「へえ、そうなんですね。……昔のこと覚えてる人って、結構多いんですか?」

 「いや、そうでもないのぅ。誰がどこに生まれ変わるかは、預言者でもない限り全く予測がつかん。それに自分から言い出したとして、その裏付けを出来る者がいるかどうか、という問題もある。ユカ殿、いや、リオン殿の場合はだいぶ特殊じゃな」

 見知った顔とまさかの再会を果たし、ひとまず落ち着いたところで、今までの経緯を聞くことになった。リオンはベッドに半身を起こした状態で、持ってきてもらった硝子のコップから水を少しずつ飲みつつの会話である。数日寝付いていたそうで、カラカラになった喉に澄んだ水が大変おいしい。

 ちなみにここは、マルヴァとローザンブルクの国境付近にある街。名をロディオラといって、創造神を祀る大神殿、およびそこが管理する美しい湧水池で有名なところらしい。そしてこの湧水を運ぶ地下水脈こそ、リオンたちが無事に目的地へたどり着けた最大の理由だった。

 「この辺りからマルヴァにかけては、豊富な地下水源があることで有名なんだよ。昔から農業や、それを生かした加工品の一大産地になってる。ただその分、一部の地域では地盤が脆くなってもいるんだよな……急いでたとはいえ迂闊だった。申し訳ない」

 「本当にそうですよ! 気絶したリオンさんを担いで、ずぶ濡れで湧水洞から現れたときは心臓が止まるかと思ったんですからね!?」

 「面目ない……」

 「いえあの、ホントに大丈夫ですから! えーっと、じゃあセリリさんたちは、あれからずっとローザンブルクにいらしたんですか」

 「そうじゃな。元々長生きする予定だったし、何事もなければよそに移っても良かったんじゃが……」

 再びセリリに締められているアスターをフォローしようと、ふよふよ浮いているニコルに話しかける。応えてもふっとしたひげを震わせたご老人はしかし、微妙なところで言葉を切ってしまった。どうしたもんかと、他の二人に向けた視線が物語っている。……うん、聞かなくてもなんとなくわかる。これは訳アリというやつだ。

 「仕方ありませんよ、ニコルさん。この中の誰も悪くないでしょう、あんなの」

 「だがのぅ。ヒナツ殿にも後のことは任せておけ、と大口を叩いてしもうたからなぁ」

 「私だって同類ですよ。弟子一号、いえ、シオさんと似たような約束をしたというのに、この体たらくですもの。

 この際です、思い切りましょう。リオンさん、貴女方が使っていた武器のこと、この剣以外にも覚えていますか?」

 「あ、はい。『麗しの太陽』と『満ちる月』、ですよね」

 「その通りです。皆さんが元の世界に帰った後、その功績を讃えて廟が建てられました。三つの武器はそこに納められて、間違っても不心得者の手に渡ったりしないよう、厳重に護られていたんですが――」


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