第13話:ローザンブルクのマイスターハンター①






 ――真っ暗な中を自由落下するのは、想像していた以上に怖かった。さっき入り口で涙目になってたのが恥ずかしくなるくらい、怖さレベルの桁が違う。

 『どどどどーすんのぉっ!?』

 『知るかーっっ』

 『やっぱこういうときこそリーダーの柚香に決めてもらわにゃ!!』

 『うええっ、わたしぃ!?』

 パニック寸前で叫びあってたら、史緒から有無を言わせない豪速球が返ってきた。おのれ、依頼受けた時のこと根に持ってるな!? 落ちるのはヤだから考えるけども!!

 『――あっそうだ! ひなっちゃん、さっき特訓で空飛ぶ魔法習ってなかった!?』

 『えっ、でもアレはいろいろ難しいからまだ使っちゃダメって師匠ししょーが……』

 『この際しょうがない、使っちゃえ!』

 『でっ、でもでも! もし暴走とかしたら余計大変なことになんない!?』

 『ただ浮くだけでいいの! 大丈夫、ひなっちゃんなら出来る!!

 だから早くーっっ』

 いつ穴の底が見えるかわからないから、説得する方も必死だ。その思いが通じたのか、はたまた単にやけっぱちになったのか、ひなつはロッドを持ち直して差し出しながら叫んだ。

 『もうっ、どーなっても知んないからね!? ――ウイング!!』







 (――ああ、そうそう。あったなぁ、そんなこと)

 あれは確か、最初に挑戦したダンジョン。入ってすぐにトラップに引っ掛かって、巨大な落とし穴にハマりかけた時のことだ。

 使うひなつ当人が心配したとおり、あの後は飛行魔法が暴走して。暗い中であちこちにぶつかりまくり、最終的に落ちた穴から飛び出して事なきを得たんだっけ。案の定というかお約束というか、まるっきりギャグマンガのような展開である。

 そうそう、あそこの名前は確か――

 「――まったく! いったいどういうことですかッ」

 どこかから、ものすごく気合いの入った声がした。誰かを叱るような、というか、明らかに叱っているトーンだ。ついでに、どこか聞き覚えもある。

 「確かに急げと言いましたとも! とにかく姫を国から遠ざけろ、出来れば剣もどこかに隠せと!! だからって両方奪取して国境越えしようとするなんて、無茶無謀にもほどがありますッ」

 「うん、それは本当にごめん。申し訳なかった。……でもリオン、いや姫君の名誉のために一応訂正しておくよ? 最初にそうしよう、って決めて行動に移したのは、紛れもなくご本人だから」

 「わかってますけど! だったら見つけてその意向を察知した時点で、なだめるなり方向性を微調整するなりしなさい!! あの唯我独尊って言葉が服を着て歩いてるような『永遠の女王アタナシア』が、目下に恥をかかされたら怒り狂うに決まってるでしょう!?

 だから地下水脈に落ちて流されるハメになったんですよ、これが騎士のやることですかっっ」

 「いいじゃないか、ちゃんとここまでたどり着いたんだし。結果オーライってことに」

 「なりませんッ!!!」

 ええー、と不満たらたらで返事をしているのは、これまた聞き覚えのある男性の声。ああこれはアスターだ、と気づいたところで、ふわふわしていた意識が急にはっきりした。ここはどこだ!?



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