第6話:陸の覇王の神殿にて⑥


 「ひとの武器を勝手にぶん盗って、勇者召喚も何もあるかー!!! ていうか勇者はわたしだああああ!!!」


 ごっわあああああああああああ!!!!


 「「「うわああああああ!?!」」」

 全力の怒号が響き渡ると同時、騎士たちのすぐ目の前に展開した魔法陣から、凄まじい突風が巻き起こった。局地的な嵐といっても過言ではない風圧に、完全に虚を突かれた追手たちが片っ端からなぎ倒されていく。ものの数秒で、立っているのはアスターだけになっていた。

 「アスターさん、大丈夫だった!? いちおう当てないように気を付けたんですけど」

 「ええ、私は何も……姫君、魔法が得意でおられるのですか」

 「いえ、全然自慢できるレベルじゃないです。今のは昔、友達がやってたののマネっこですから」

 先程のスティックで軽く頭を掻きながら返す。いや、本当に。

 この世界の魔法は、効率よく魔力を使うために呪文や紋章が完全にパターン化されている。が、実はそのあたりを度外視すれば、呪文に頼らず思った通りの現象を起こすこともできる。イメージ力と魔力にモノを言わせるやり方なので、本来はあまり褒められたものではないのだが。

 うーん、と呻き声が聞こえた。そちらに視線を転じれば、山道の上に転がされた騎士たちがもぞもぞ動いている。金属製の全身鎧のおかげでダメージが軽減されたようだ。ちっ、悪運の強いやつら。

 「や、やっぱり伏兵がいるではないか……おのれ、飛び道具とは卑怯なり……!!」

 早くも起き上がりかけているオリバーの姿に、前に出ようとするアスターのマントを掴んで引き止める。残念ながらまだわりと、結構かなり怒っているのだ、これでも。――薄幸で病弱で可哀想なおひい様かどうか、その目で確かめるがいい! 

 「行きます、『紅玉の魔女』直伝!! 出でよっ、ネッシー!!!」

 我ながら意味不明な掛け声に魔法陣が光って、中心に巨大な影が現れる。つるんとしたフォルムに長い首、どっしりした胴体に太くて短い四本足。ネッシープレシオサウルスというよりはブラキオサウルスのシルエットな気はするが、それはこの際置いといて!

 「行けネッシー、全速前進! 人の悪口なんか二度と言いたくなくなるように、あのおっさんたち地の果てまで追いかけ回してきなさいっ!!」

 《ネーッシィィィィ!!》


 ずどどどどどどどどどどど!!!


 「「「ぎゃ~~~~~~!?!?」」」

 景気の良い掛け声を受けて、謎の生物改めネッシーが元気よく駆け足を始める。超重量級の巨大生物が、地響きと共に自分たち目掛けて走ってくるのを目の当たりにして、オリバーを含めた追手の騎士たちはほうほうのていで逃げ帰っていった。あとにはもうもうと上がる土煙の置き土産と、ネッシーの走る轟音と鳴き声が、遠のきながら聞こえて来るだけだ。ふん、ざまあみろ。

 「――リオノーラ殿下」

 「あっはい、すみません! せっかく引き受けようとしてくれたのに、なんか台無しに!!」

 「いえ、そうではなくて。……『紅玉の魔女』、本人を御存じなのですか。かの伝説の三勇者の」

 「……あ゛っ」

 面子を潰されて怒るでも、突発事態に混乱するでもなく。至って冷静に、それでいて驚きを隠せない様子で訊ねてくるアスターに、ようやく頭が冷えて我に返った。そうだった、さっき思いっ切り『直伝』と口に出したんだった。絶対信じてもらえないから言わないつもりだったのに。

 ……しかし、自発的に助けてくれたせいで、すでに十分以上に迷惑をかけてしまっている。例えおかしな子扱いされたとしても、一度くらいは本当のことを伝えるべき、なんだろう。

 腹を括って、相手にまっすぐ向き直る。左手一本で持っていた聖剣を、再び両腕でしっかり抱きかかえてから、口を開いた。

 「信じてもらえないと思いますけど、……わたし、その三人を全員知ってます。というか、、でした」


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