第15話 弟子入り試験――④

 壇上に上がるオルティナの片手には、エメラルド・バードがしっかりと握られていた。


 もはや逃げられないと悟ったのか、かの鳥はぴくりとも動かず、大人しく彼女の手のひらに収まっている。

 その表情は心なしか『好きにしてください』と言いたげだった。


「な、なんでオルティナ様が……」

「知ってる人?」


 戸惑うラピスにバニーが聞くが、ラピスは頷けなかった。

 本当にオルティナかと疑ってしまうほど、彼女の行動の意図が分からないからだ。

 そんな困惑をよそに、司会の男がオルティナへマイクを向ける。


「まずは名前を聞こうかぁ!?」

「………………」

「おや、緊張しているのカナ?」

「……チッ」

「えっ、舌打ち……?」


 嫌そうな顔のオルティナに司会の男が困惑する。

 対して彼女は参加者たちを見渡してラピスを見つけると、仕方なさそうな顔で口を開いた。


「で、これは何の集まり?」

「「「え?」」」

「全員でこの鳥と追いかけっこしてたみたいだけど。なにかの催し?」

「「「えええぇぇぇぇ!?」」」


「ど、どういうこと……?」

「もしかして、あの人イベントのこと知らずに、たまたま捕まえちゃった感じー?」


 バニーが「だったら超ラッキーな人じゃん」と笑うが、隣のラピスはそんなわけがないと知っている。


 一方、参加者たちからは『一体どうなってるんだ』や『なんのつもりだ』と不満交じりの声が飛んでいた。


「……なんだか邪魔したみたいだね」

「ええっと、お嬢さん?

 念のため探索者ランクを聞かせてもらえるカナ?

 もしも参加条件を満たしてるなら、まぁ飛び入り参加ってことで改めて表彰を――」

「別に興味ないからいい」


 事態を収めようとする司会者を雑にあしらうと、オルティナは掴んでいたエメラルド・バードをぱっと手放した。


「邪魔して悪かったね」

「「「「「ああああぁぁぁぁぁ!?」」」」」


 エメラルド・バードが『やったぁ自由だ!』とばかりに空へ羽ばたいていく。

 それを絶叫しながら見送る探索者たち。


「おいこれどうなるんだ!?」

「イベント中止?」

「いや、それはないだろ……」


 困惑する彼らに、司会の男は慌ててマイクを握った。


「あ、あー! エメラルド・バードが逃げ出してしまったぁぁぁぁ!

 ……っつうわけで――イベント続行だぁぁぁん!!」

「「「「「う、うおぉぉぉぉぉ!!??」」」」」


 まだチャンスはあると分かった参加者たちが、一斉にエメラルド・バードの後を追いかける。


「ウチらも行こう!」

「あっ……すみません! 先に行っててください!」


 バニーの呼びかけを断って、ラピスはオルティナの元へ駆け寄った。


「オルティナ様!」

「ん? なにしてるの? 貴女もさっさと追いかけたら?」

「そ、それはそうなんですけど。さっきのは一体どういう……」

「……あー」


 オルティナがラピスと、そしてその奥でこちらをうかがうバニーを見て、ぶっきらぼうに答える。


「……仕切り直し」

「え?」

「だから、試験のこと。

 ……私みたいな探索者を目指してる、って言った貴女があの子を見捨てたら、例えこのイベントで優勝しても弟子にする気はなかった。

 けど……貴女はちゃんと信念を通した」

「オルティナ様……」


「でも、こんなのは一度だけだからね。

 次はないから。……分かったならほら、さっさと行けば?」

「――はいっ!」


 照れくさそうに耳を赤く染めて言ったオルティナに、ラピスが満面の笑みで返事をする。


 ラピスは一礼すると、すぐにエメラルド・バードを追いかけようとした。

 それを彼女のことを待っていたバニーが呼び止める。


「やっぱりさっきの人、知り合いだったんだねー」

「あれ、バニー……さん。どうしてまだここに?」

「あなたを待ってたんだよ~。

 ……って、まだウチら自己紹介してなかったね。

 改めまして、ウチの名前はバニー! 気軽にバニーちゃんって呼んでー」

「あっ……失礼しました! 私はラピスです!」

「おっけー。ラピラピねー」

「ら、ラピラピ……?」

「あだ名。可愛いでしょ?

 それでね、さっきのお礼というか……一つ提案があるんだけどー」


 バニーが可愛らしくウインクをしながら、


「ウチと手を組まない?」

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