異世界転生ロリドワーフグレートソード無双~魔王軍はブラックホール幼女の悪夢を見るのか~

めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定

第1話 せっかく異世界転生するならロリドワーフで無双するよね

 事故死した。

 異世界転生することになった。

 神様に「可憐なロリドワーフ幼女に転生してグレートソードで無双したい」 と頼み込んだ。

 だからこうなった。


「とぉぉっりゃぁ~~……あ……っとっとっと」


 ーーボゴンッ!

 打ち込み人形に向かって勢いよく振り下ろした袈裟斬りは、狙いを大きく外れて深々と地面に突き刺さる。

 その反動で巨大なグレートソードの柄を握っていたアドレアの幼き体躯が宙に浮かび上がった。


 それも当然だ。

 アドレアの種族はドワーフ。

 性別が女性なのでドワーフの男性と違って、髭は生えておらず身体も細身だ。

 なにより背が低い。

 すでに年齢は十六を超えているが、耳が尖っていなければ人間の幼子に見えるだろう。


 もっとも見た目よりも遥かに体重が重いのだが。前世の世界で言えば六十キログラムはある。

 筋肉や骨。身体の構造の密度が違う。さすがはドワーフといったところか。

 だからこそクソ重たいグレートソードを振り上げることができる。振り下ろすこともできる。

 けれど安定するはずがない。


 物理法則を理解していればわかる。

 テコの原理。支点力点作用点。そして重心の概念。

 どれだけ力があろうとも、軽くて小さなアドレアが身の丈よりも大きな鉄の塊で剣技を行うのは不可能なのだ。

 少し横に流れただけで、踏ん張ることもできずに重心がグレートソードの方に移り、アドレアの身体の方が振り回されてしまう。

 気を取り直して、再度袈裟斬りにチャレンジしようとするが、そこの怒声が響いた。


「またやっとるのかこのバカ娘が!」

「おやじ!?」


 グレートソードが地面に突き刺さる衝撃のせいだろう。

 工房の戸が開き、筋骨隆々の肉達磨が現れた。低い身長で胴体は樽。腕の太さがアドレアの胴より太い典型ドワーフだ。

 名をダルドルフといい、この世界でのアドレアの父親だ。

 大剣のダルドルフの異名を持つ。

 この異名はドワーフの中で、もっとも大剣が上手い名工と認められている証だ。

 とはいえドワーフの職人は名工ばかり。

 どのくらい凄いのか、鍛冶に疎いアドレアにはわからない。

 わからないが前世から、ロマン武器グレートソード信奉者のアドレアにとって、尊敬して止まない父親だ。


 その後ろにはアドレアと瓜二つの風貌のロリータな母親ターニャの姿もあった。

 豪奢な金髪と色黒の肌で、アドレアよりもタレ目。性格もおっとりとしており、アドレアよりも背が低い。

 というよりもアドレアがドワーフ女性の中でかなり背が高い。

 そのためドワーフ以外から見るとアドレアが姉、ターニャが妹の姉妹にしか見えなかったりする。


「お前そのどデカイだけのなまくらを作ったら、俊足活かして鉱山堀の伝令の仕事をすると言ったよな」

「いや……伝令というかアレ鉱山奥に酒を運んでいるだけだよね。与えすぎると鉱山の奥で宴会を始めるから、頼まれても運ばないようにって注意言われて」

「馬鹿野郎! お前が運ばなくても奴らは持ち込んだ酒で宴会を始める馬鹿共だ! お前の仕事はその監視に決まっとろうが。さっさと行け! そして鉱石の声を聞けるようになり、早く一人前のドワーフになってみせろ! 剣を振るうのも旅に出るのもそれからじゃ!」

「は、はい! 了解しました!」


 鉱石の声を聞け。

 性質を見極めろ。

 ドワーフの中で身体的成長は著しいアドレアだったが、ドワーフらしさの面では同世代でも劣っている自覚があった。

 前世の記憶が邪魔をしているのかもしれない。

 今度、飲んだくれどもと同じように、鉱山の中で寝泊まりしてみようか。

 そんなことを考えながら工房の裏庭を飛び出した。

 後ろから焦ったダルドルフの声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。


 いずれ英雄となるドワーフの少女アドレアはまだ旅にも出ていない。


 ◯   ◯   ◯


「お、おいアドレア! 行くのは構わねがこのなまくら……行っちまった」

「あの子相変わらず足が速いわね。ドワーフとは思えないほどに」

「……どうすんだこのなまくら」


 工房の裏庭にある演習場。

 打った剣の切れ味を確かめるための空き地だが、打ち込み人形の横の地面にグレードソードが突き刺さったままだ。

 この巨大すぎる大剣は、ダルドルフがアドレアの冒険心を折るために打ったものだ。

 銘はなまくら。

 こんなものを持ち上げられるわけがない。持ち上げられれば一人で旅に出ることを許してやる。

 そうアドレアに告げている。


 ダルドルフの言葉に二言はなかった。

 実はアドレアをこのグレートソードを持ち上げて、振り下ろすことに成功している。

 すでに条件は達成していらのだが。

 アドレアはどう言葉の受け取り方を間違ったのか、剣として扱えるようになることを目標としているらしい。

 不可能なはずなのに。

 ダルドルフはちらりと視線を送り、ターニャに応援を頼む。

 ターニャは首を横に振った。


「私が手伝っても持ち上げるのは無理よ」

「……だよな。この前は力自慢のザブルに手伝ってもらっても動かせず、結局三人がかりだったからな」


 ドワーフの力自慢を寄せ集めても、動かすだけで三人も必要なグレートソードを振り下ろすことができる一人娘だ。

 褒めればいいのか、飽きれればいいのかわからない。

 ただ裏庭で振るわれると地響きと振動が凄まじくて、近所から怒られるのでやめてほしい。


「あの子はあの細身でどうやってこれを持っているのかしら」

「……身体強化魔法の一種だと思うが」

「早く旅に出てもらわないと工房の地盤も傾きそうなのよね。あなたの作ったグレードソードのせいで」

「うっ……アドレアがこの大剣を扱えるように、脚部にスパイクをつけた全身鎧でも作るか」

「そうした方がいいでしょうね。剣圧だけで向かいの壁も壊れそうだし」


 アドレアの家の工房は物理的に沈下しつつあった。


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