第33話 盗人

 師匠の元に来て約1ヶ月が経った頃だった。


「いや〜今日は結構稼げたのう!」


「そうですね……」


 俺は疲れていた。それは遡ること5時間ほど前……




「グラリス! 今日はこれとこれと……これじゃ! あとこれ!」


「ちょ、いやそんなに出来ないですよ!」


「いーや、やるのじゃ!!」


 そしてそれから2時間後……


「もう無理なのじゃ……残り2つ……頼んだのじゃ……」


 ふざけるなよ師匠!! 稼げたんじゃなくて稼いでくれたでしょ!! もう!!


 ……まぁ師匠にはぶっちゃけお世話になってるし、俺は師匠が朝早くから一人でなにかしてることは知っていた。


 多分本人は気付かれてないと思ってるだろうけどあんな爆音響いてたら誰でも一度は起きてしまう。


 それで魔力不足なのは俺も口出しはできない。


「じゃ……帰りますか……」


「そうじゃな! お、そうじゃ! 今日はワイが晩飯を作っちゃるぞ!!」


「え、本当ですか?」


「もちろんじゃ! グラリスに教えて貰ってからちょくちょく練習しとるんじゃよ! 無属性魔法は寝っ転がりながらでも修行できるしのう!」


「だったら今日はお言葉に甘えさせてもらいます師匠!」


 ちょうど今日は何か買って帰ろうと思ってたとこだったのでちょうど良かった。


 流石にエイミー程のものは出ないだろう……流石に……ね?


「じゃワイはちょっくら買い物に行ってくるから先に帰っといてくれ。あ、金貨1枚だけ渡しちょくれ」


「分かりました」


 そうして俺は今日の稼ぎの3枚の金貨のうち1枚を師匠に渡し、先に家へと向かった。


 大通りを抜け、人気の無い細道を抜けると師匠の家がある。

 今はその細道に入ったところだ。


 はぁ……今日は結構疲れたなぁ……

 でも師匠のご飯ちょっと楽しみかも。


 疲れてフラフラな身体は細道をぐにゃぐにゃと進んで行った。


 と、その時だった。


 バサッ!!


 ……!!


「誰だ!」


 なにか黒い影が一瞬俺の真横を通り過ぎぶつかって行った。

 その姿を追い後ろを振り返ると俺が来た道を戻っていき、ほかの細道へと入って行った。


「はぁ……なんだよもう……まぁ怒る気力もないし怪我もしてないから……!!??」


 俺はある事に気が付いた。


 ヤバい……ヤバいヤバい!!!


「財布が……無い!!!」


 腰に着けていた緑色のがま口財布がどこにも見当たらなかった。


 あいつ……!!


 俺はパンパンになった太ももをパンッ! と叩き黒い影を追いかけた。


 クソ野郎!! 捕まえたら煮るなり焼くなりしてやらぁ!!


 残り僅かな魔力を使い風を起こし今できる全速力を出して追いかけた。


 影が曲がった細道を進む。


「クソ! どこ行ったんだあいつ!」


 細道は曲がり角はもうなく、ただ一本道が続いているだけだった。


 でも影は見つからない。


 おい……だとしたら早すぎるだろ! 道一本しかないのに俺が追いつけないのか?


 半分諦めながら進んで行くとやっと道が開けた。


 そこは広い草原のような場所が広がっており、向こう側には何個か家が建っていた。小さい集落のような場所だった。


「まじかよ……もう見つけられないじゃん」


 俺は膝から崩れ落ちた。

 あぁ……クエスト4つ分が……


 俺は落胆しながら来た道を戻ろうとした。その時だった。


「ぐはっ!!」


 何かが飛んできた。

 それは俺より小さい少年だった。


「おいおい大丈夫か?」


 その少年を俺が抱え上げた時、前から3人の少年が歩いてきた。

 あ、これは……


「おい! ザコイブ! なんだよその金はよう! お前が働いたって言うのか?」


「おい! ザコイブ! なんだよその金はよう! お前が働いたって言うのか?」


「おい! ザコイブ……」


 いじめ……か。あー、見たくない見たくない。


「あー、もういいから君たち! いじめてんのは分かるけど今日はもう解散。はい帰って帰って」


 俺はめんどくさい流れを断ち切りいじめっ子たちを帰らせようとした。


 しかし……


「なんだよ兄ちゃんボロボロのくせにそいつを庇うって言うのか? そんなやつはな……」


 そう言っていじめグループのリーダーのような少年は右手に小さな炎を作り出し俺の方へと投げて来た。


 はぁ……やんちゃだな……


 俺はふっと口から風属性の魔力を混ぜた息を吹きかけその火の玉を消し落とした。


「これでもまだやるってのかー? 分かったら今日はさっさと解散だ」


「……クソっ! 覚えてろよこのザコ兄ちゃんが!」


「……クソっ! 覚えてろよこの……」


 以下省略……


 いじめっ子3人が走って去ったあと、吹っ飛ばされた少年が口を開いた。


「あ、あの……ありが……とう……」


 俺の顔を見ず下を向いたままお礼を言われた。


「いやいやそんな感謝されるような事じゃないから大丈夫大丈夫。ほら家まで送るよ」


 そう言って立ち上がらせたその時、俺はあるものが目に入った。

 少年の腰に付いているそれ。


 そう。それは……


「あ! 俺の財布!!」


 その時少年は驚いた顔してこっちを見た。

 すると何かを思い出したかのように振り返り逃げ出した。


「ちょ、待て!」


 俺はギリギリ少年の腕を掴み捕獲に成功した。


「はぁ、はぁ……お兄ちゃん怒らないからさ……なんで盗んだりしたのかな……はぁ……」


 俺は体力の限界だった。

 でもここで逃がす訳には行かない。


 その時だった。


「……ぐすん……ぐすん……」


 え……?


「ごめんなさい……」


 え……? 泣いてる? 少年が?

 おいこれって傍から見たら……俺がカツアゲしてる……?


「わー!! 待て待てごめんって! 泣くな泣くな!」


「分かった。じゃこれ貰っていい?」


「え?」


「え?」


「君……一発ぶん殴ってもいいかな……」


 あれ……? 視界が……真っ暗……


 俺は魔力の使いすぎで活動限界を迎えてしまった。

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