第18話 行進

なぜ彼は男を撃ったのだろうか。仮に「奴ら」だとわかっていたのなら、あの頑強さと怪力の前には無駄だし、何より「奴ら」は刺激すると近寄ってくるので逆効果だ。「奴ら」だとわかっていないのなら尚のこと、見た目は非武装・無抵抗の一般人に向けて銃を乱射するなど言語道断だ。武装して基地の外に徒歩で出ていたのもおかしい。


基地に助けを求めるつもりでいたし、状況が状況なので一筋縄では入れないだろうことを覚悟していたが、仮に基地の入口で歓迎を受けたとしても(そんなことはないだろうが)入らない方が良いかもしれない。

駅から南下し、住宅街を抜けるとフェンスと倉庫で目隠しされた米軍基地が見えた。

終末映画めいた車両や有刺鉄線の即席バリケードが敷かれてるのを想像していた正門には車止めのバーが一本通せんぼしているだけだった。


詰所には守衛もいない。低速で進みバーをボンネットに持ち上げながら通過する。

海兵隊だったものたちが、民間人だったものたちと一緒に仲良く基地の中を行進している。何かの風刺で見たような光景だ。規則正しく行進する癖のあったものたちを置換した関係か、他で見た雑踏より整然としている。無目的に同じブロックを周回すること自体は変わらない。


駅前の兵士は、基地で急速に人間以外のものに取り囲まれていく状況に恐怖し、たまらず武装して基地を飛び出してしまったのだ。外に出ても英語は通じないし、日本人の顔どころか表情の区別もつかないから誰が感染者かもわからず動転した、といったところだろう。


私は彼より落ち着いていたかもしれないが、途方に暮れていることに違いはなかった。

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