第6話 ダンジョンオープン

   *




「いかがでしょうか、レーナ様?」


「いかがでしょうか、レーナ様?」


「参りました。合格です」


 レーナにはおれの姿に変化したジェービーとおれの区別することができなかった。ジェービーの擬態能力の高さが証明された。


「結局快楽ってなんだったんだろう?」


「さ、さあ?」


 レーナは引きつった笑みを浮かべながら首をかしげてみせた。


「それに関しては自信なくしちゃったな……」


 ジェービーの体は過ごしやすかったけど、それだけだった。快楽とはなにかわからなかったのは残念だったな……


「さあ、ジェービー擬態を解いて。マスターもいつもの服に着替えてください」


「わかりました」


 ジェービーが変身を解いて、もとのプルプルボディに戻る。おれもいつもの服に着替える。


「さてジェービーには、外の世界の情報収集をしてもらわなければなりません」


「いまから外に続く出入口をつくるからジェービーには外で仕事をしてほしいんだ」


「わかったよ!」


 実はさっきからおれたちがジェービーの召喚だの水着だのしていた場所はダンジョンの第1階層だ。今は何もない空間だが、ジェービーの情報収集の結果をみて、どんな感じにするかを決めて行く。第1階層には外の世界との出入口を設置することが決まっている。


 ちなみに50階層にはおれが目覚めた部屋があり、そこには共有ディスプレイとベッドが置いてある。


 今のところ49階層にはダンジョンの守護神となるすごく強いモンスターを配置する予定で、そのモンスターに合わせて階層の構造とかは設定していく感じかな。決まっているのはそれだけで、他の階層をどんなものにするかはまだ決めていない。


「すべてはジェービーの情報収集次第だな」


「責任重大だね。でもま、ぼちぼちやるからね」


「はい。ジェービーの仕事は情報収集ですから無理をせず情報を持ち帰ることを第一に考えてください」


「定期的に分裂体をダンジョンに送るよ。わからないことだらけだから、十分な情報を集めるにはちょっと時間かかるかな」


「そうですね……最短でも3年はかかるでしょうね」


「ダンジョンの本格オープンは3年後か」


「やることはいっぱいありますからあっという間ですよ」


「そうだな。とりあえず出入口をつくろうか」


 ダンジョンの出入口はDANAZONで注文するのではなく、ダンジョン管理システムの設定だけで済む。




────────────────────


「←→→※※※ダンジョンをオープンしますか?※※※←↑→」


↑←↑はい←→←↑

↑←→いいえ←↑←


※※※ダンジョンをオープンすると世界と接続され出入口を完全に封鎖することはできなくなります※※※


↑←□現在の設定□→↑

←↑←ダンジョンの入口の大きさ:15センチ↑←↑

←↑←カムフラージュ:オン↑←↑


────────────────────




 ダンジョンをオープンすると二度とその出入口を封鎖することはできない。また出入口が世界のどこに設置されるかはほとんどランダムで大まかにしか決められない。とはいえ知的生命体の住む集落のある程度近くに設置されるらしいので、海の底と接続して大量の水が流れ込んで全滅みたいなことはほとんどないらしい。


 出入口の設置によるメリットは世界に干渉し情報収集ができるようになること。デメリットはダンジョンが世界からの干渉を受けるようになること。つまりダンジョンが世界から攻撃を受けるリスクがあるのだ。


 今のところおれたちのダンジョンには本格的な戦闘ができるモンスターがいない。もしオープン直後に世界から攻撃をうけたりしたら、あっけなくおれが殺され崩壊してしまうかもしれない。


 とはいえ一応対策もしてある。出入口の大きさを15センチと小さくしたのはそのひとつ。おれの背丈は165センチ、レーナの背丈は166センチなので、この大きさの出入口は通れない。つまりおれたちと同じくらいの背丈の敵がこの中に入ってくる可能性はほぼないということだ。小さい生物なら15センチの出入口から入ることができるけど、小さいやつが入ってきたとしても、たぶんなんとかなるだろう。


「もし小さい生き物が入ってきたらぼくが食べるからね」


 ジェービーがいるからだ。ジェービーは分裂することができる。ジェービーの主な任務は外の世界での情報収集だが一方でダンジョンの防衛も担うのだ。一体で様々な役割をこなせる万能さがジェービーの持ち味だ。《擬態》もすごいが《分裂・同化》はもっとすごい。今のところ最大分裂体数は7体だが、条件を満たせば最大分裂体は増えていく。とにかく破格の性能だ。一体で国を滅ぼすことが出来てもおかしくない。


 ジェービーこと、ドッペルデビルスライムは名前にスライムと付いているが、実は悪魔族に分類されるモンスター。ものすごい高級モンスターで最低でも100,000,000ポイントはするとのこと。悪魔族は希少性が高いことで知られているが、ドッペルデビルスライムはその中でも滅多にネットに出回らないことで有名なモンスターなのだ。それをおれはあっさり買えてしまった。使ったポイントはggfdghjポイント。数字にするといくらなのかはわからないが安いということはないだろう……。


「そんじゃダンジョンをオープンするよ」


 「はい」を選択しダンジョンをオープンする。第1階層の壁に15センチの小さな扉が現れ、開く。


 扉からみえるのは土の茶色と木々の幹、枯れ葉などだ。


「これが外の世界か」


「森……ですかね?」


 外の世界に今のところ危険は感じないが……まだわからない。


「それじゃあ行ってくるね」


「がんばれジェービー」


 と、おれ。


「任せましたよ」


 と、レーナ。


「待ってるからね」


 と、分裂したジェービーがいった。このジェービーは今後もダンジョンに残り、ダンジョンの防衛とジェービーが外から持ち帰る情報の集積を行う。


 ジェービーがムニューっと体を変形させて外に出ていく。


「さて、外のことはジェービーに任せて、わたしたちは49階層の整備を進めましょうか」


「そうだな」




   *




 森にダンジョン発生の兆しがある。


 そう聞いたマリンはついにその扉を発見した。その扉は森の開けた空間にある大きな岩にくっついていた。高さ15センチくらいの小さな扉だ。しばらく観察していると出入口から、ニューっと不定形生物が出てきた。プルプルした生き物だ。


「あれはスライム~?」


 とマリンは思った。


「まずは偵察用のスライムを放って~みたいな? 教科書通りですわ。新規のダンジョンマスターってわかりやす~いですわ~!」


 マリンは翼を広げる。留まっていた木の枝を蹴り空へと飛び立つ。


「バアル様~! 大ニュース~! ウチらの世界に、新しいダンジョンが出来ましたわ~!」


 空高く飛び上がったマリンは東の方角、150キロ離れた地点にそびえる塔に向かって呼びかける。


 錆びた迷宮ラストダンジョン「瓦礫の塔」


 ここは魔界・クレッシェンド。魔王バアルの支配におかれた世界。ダンジョンマスターによって一度滅ぼされた世界……。

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