鮮明な描写で綴られる褪せた情


 おしどり夫婦として周りに知られていた私と夫。
 そんな夫は強い風が吹いていたあの日、足を滑らせて事故死した。
 私は悲しみに暮れる妻を演じながら、あの日までに起こった事実を回想していく――



 短い文章でありながら、登場人物の行動や心理の変遷が見事に描かれています。

「私」の回想という形で淡々と「良き相棒」だったはずの夫に対し、どのように負の感情を深めていったのか、
 そして、あの日に何が起こったのかが説明されていくのですが……

 なんでしょう。カラフルだったものが、違和感なくモノクロへ変化していくのを見ている感覚といいますか。
 あの日までの日々、葬儀の日、未亡人としての新しい生活、そして、あの日の出来事――
 各シーンが組み合わさることによって、成就の瞬間が、非常に印象深いものとなっていました。

 この物語は終わっていますが、「私」の続きは是非とも知りたくなりました。