第48話
「じ……実験場?」
「そう。もしも核戦争が起きて世界が崩壊したら、人間はどのように復興を果たしていくかっていう実験よ」
科学者――現在は紺色のパンツスーツをびしっと着て、真っ黒い髪を後ろでお団子にまとめた女性の姿をしている――が、自分の目の前の空間に手をかざすと、アンジュの目の前に空中ディスプレイが浮かび上がった。そこには、アンジュたちが過ごしていた島――崩壊する前なのだろうか、緑が美しく、遠くには立派なビルが立ち並ぶ都会も見える――が映し出されていた。
「まず、この島に核弾頭を一発落としました」
目の前に浮かんでいた美しい島の様子が、一瞬にして荒れ果てた荒野に変わった。緑は無くなり、建物は崩れた。
「私はこの島に4人、リーダーとなりうる可能性のある人間を送り込んでみたの」
次に浮かび上がったのは、「王」と呼ばれた4人の男たちの顔だった。
「一人は機械を駆使して復興を目指す男。これは大失敗。結局移動手段だけ発達させて、近隣の人間を支配しようとしたわ」
究極の戦闘集団「ダン・ガン」の王の顔写真に、赤く大きなバツがつく。
「次は科学技術を使って復興を目指す男。さっき話をしたTHREE BIRDSのジロウよ。いいところまで行っていたけど、結局地下の研究所止まりだったわね」
近未来科学集団「THREE BIRDS」の王、ジロウの顔にも、大きくバツがつけられた。
「薬で筋肉を増やして復興を目指す……これは最初から上手くいくとは思わなかったけど……新しい薬品を開発するという目的では良かったのかもしれないわ」
違法筋肉集団「ニューエイジ」の王、エイジにもバツがついた。
「最後の一人が、元オリンピアということで知名度が高いビリーを採用したんだけど……。彼は私利私欲に走って自滅したようなものね」
超極悪非道集団「新世界」の王、アンジュの仇でもあるビリーにも赤く大きなバツがつけられた。
「マリカは私があの島に送り込んだの。世界が崩壊してから数年後、人間がどのように復興しているかを直に観察するという目的でね」
「え……」
王たちの画像が消え、次に苦しんでいる人々の画像が映し出された。食べるものがなくて、瓦礫の近くで肩を寄せ合っている親子。体が細くなり、骨が浮き出て見えている老人。アンジュがマリカと旅をしていく中で幾度となく見かけた人々――毎日を懸命に生き抜こうとがんばっている人々――たちのものだった。
「この実験でわかったのは、『もしこの先、世界が崩壊するほどの戦争が起きたとしたら、人間が再び平和的に復興するのは難しい』ってこと」
科学者の話を聞きながら、だんだんとアンジュは事態が飲み込めてきた。
あの島は人間が復興する過程を見るための実験場だった。
送り込まれた4人はリーダーとして適役ではなかった。
マリカはそこに科学者から送り込まれた存在だった。
何かが違う。アンジュは科学者の説明に、どこか違和感を覚えていた。
「まさかマリカが、死んだあなたを助け出して改造するなんて、思ってもみなかったけど。でもおかげでいいボディーガード役として活躍してくれたわ」
「ちょっと待って」
アンジュが口を挟んだ。
「マリカは人間に戻るために科学者を探して旅をしていたのよ。決して復興の様子を観察するためではないわ」
その言葉に、科学者はアンジュを馬鹿にしたような、薄気味悪い笑みを浮かべた。
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