第27話「うぇっへっへーい! さすがノムラ! 何でも揃ってるゥ!」

「ノムラ! ちょっと! こっちよ、こっち! そうそう、ここ!」


 マリカがアンジュから目を逸らしたとき、ちょうどニューエイジのアジトへと向かっているヴァルク野村の姿が目に入ったのだった。相変わらず自分の体の数倍、いや十数倍もの荷物を抱えて歩く彼の姿は遠目からでもわかるし、それがヴァルクであることも一目瞭然なのである。


 久しぶりにマリカの声を聞いたヴァルク野村もはじめはきょろきょろと辺りを見回していたが、少し離れた岩陰に二人の姿を確認すると、進む方向を変えてやってきた。


「おお、二人とも! 久しぶりだが元気にしてたか?」


 どっこいしょ、とヴァルク野村が巨大な荷物を下ろして、二人に握手を求める。「久しぶり」とアンジュもマリカも、ヴァルクの大きくて分厚い手を握る。


「なんとかね! ノムラはどう?」

「俺は相変わらずだよ。ところで……どうしてまたこんなところで?」


「それは――」

 マリカがこれまでの経緯を説明すると、ヴァルクも事情を察してくれた。



「そうか……THREE BIRDSのアジトの近くが騒がしいとは聞いていたが、そんなことが……」



 行商人として、中立の立場で各地を巡り商売を行ってきたヴァルクにとって、THREE BIRDSもまた、大切な場所の一つだったのだ。ケンジやリコ、他の研究者たちとも交流があっただけに、残念な知らせを聞いて彼も悲しんだ。


「でね、仇を取るためになんとかしてニューエイジのアジトに潜入したいの!」

「なるほど――あそこはマッチョじゃなきゃ入れてくれないもんな」


「ヴァルク、知ってたの?」アンジュが尋ねる。

「ああ、俺も何度か立ち寄って商売しているからな。あのアジトの中は確かにマッチョしかいないな……君たちが中にいるのが見つかったら、ただじゃ済まないだろうな」


「あたしはぬいぐるみのふりをすればバレないだろうけどね! 問題はアンジュなのよ!」

 マリカがヴァルク野村の巨大な荷物に近づいて中身を物色する。


「ねえノムラ、ここにアンジュをマッチョにするような商品は売ってないかしら?」

「ちょっとマリカ! なんで私がマッチョに……!」


 マリカの提案にアンジュが慌てる。しかし、ヴァルクは「うーん」と真剣に悩んでから、「まあ、ないってわけでもない」と答えた。


「ちょっ……冗談よね、ヴァルク!?」

「うぇっへっへーい! さすがノムラ! 何でも揃ってるゥ!」


 動揺を隠せないアンジュとご機嫌のマリカをよそに、ヴァルクが巨大な荷物の中をゴソゴソと探し始めた。そしてしばらくして――。


「あったあった。これ」


 そう言ってヴァルクが取り出したのは、マッチョの着ぐるみだった。上半身裸で、下はブーメランパンツのみ。背中についているジッパーも背筋で隠れるように作られていて、パッと見た限り首のないマッチョの死体ではないかと思われるほど、精巧な作りだった。



「マッチョだ! マッチョの着ぐるみだ! アンジュ、これを着たらマッチョになれるよ!」

「絶 対 に 着 ま せ ん」



 興奮気味のマリカに対して、アンジュが無表情で答えた。


 ヴァルクは、アンジュがこのマッチョの着ぐるみを着た時の様子を想像してみた。赤い髪をなびかせた可愛らしい……けど無表情の少女の顔の下が……ブーメランパンツしか履いていないマッチョ……。これは……ダメなんじゃないか? 年頃の女の子の裸を見ているようなものじゃないか!


 ヴァルクは、以前会ったときのこと――川の近くでアンジュとマリカが五右衛門風呂に入っていたとき、彼女の裸を見てしまったこと――を思い出し、赤面した。


「どうしたの、ノムラ?」マリカが不思議そうに尋ねる。

「……すまん、なんでもない」ヴァルクは掌をパタパタと仰いだ。


 続いて、マリカが勝手にヴァルクの巨大な商品の山の中から鉄仮面を見つけ出した。



「ほらアンジュ! これを被れば、もう立派なニューエイジ!」

「嫌 で す」



 ふざけているのか本気なのかわからないマリカを見て、本当に嫌だと言うことをわからせるために、アンジュはロケットパンチをマッチョの着ぐるみと鉄仮面に向ける。それにはヴァルクが慌てた。


「うわ、待て待て! この商品は結構貴重なものなんだよ! 壊されちゃ困る!」


 ヴァルクがマッチョの着ぐるみの前に立ち、壊さないでくれと両手をブンブン振るものだから、さすがにアンジュも上げた右腕を下ろすしかなかった。


「うーん、わかった。じゃあ最高の作戦を実行するとしますか!」

「……何よ、最初からその作戦にすればいいじゃない」


 マリカの再度の提案に、アンジュが冷たく言い放つ。するとマリカはヴァルクの巨大な荷物をよいしょ、よいしょとよじ登った。



「あたしがヴァルクの商品に紛れて、ニューエイジのアジトに侵入します! そして科学者と王を見つけ出して、また戻ってきます!」



「……それじゃ私が入れないじゃない」

「今回はあたしとノムラの共同作戦よ! アンジュはここらへんでゆっくりお茶でも飲みながら待っていてちょうだいな!」

「はぁ? いくらヴァルクがいるとはいえ、マリカを一人で潜入なんかさせられないわ!」


「じゃあ、マッチョの着ぐるみを着て一緒に行く?」

「ぐっ……そ、それは……嫌だ……けど……」

「だったらここで待っててちょうだい。大丈夫、ノムラがアジトを出るタイミングで上手に荷物に紛れて出てくるから!」


 それでいいよね? とマリカがヴァルクに尋ねる。彼はアンジュの方を向きながら「俺は構わないが……」と心配そうな表情で答えた。



「わっ、わかったわよ! 私も行く! だけど、マッチョは絶対に嫌! ヴァルク、何かいい方法はないの?」



「……俺が考えるのか?」

 アンジュがとんでもないパスをヴァルクに投げた。










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 こんにちは、まめいえです。いつもお読みいただきありがとうございます。

 マッチョアンジュという新たなキャラクターが誕生しそうでしなかった今回(個人的には誕生させたかった!)でしたが、果たしてアンジュはどのような方法で潜入するというのでしょうか。

 なんか仇討ち要素が薄くなってきた感がありますが、気にしないでください……。自分でも感じているので、途中でしっかり入れ込みます。

 少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。

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