第18話「よし、これでだいたいのデータは入手できたわ!」

 地下にあるTHREE BIRDSのアジト。ここは、その奥にある研究室。明かりは最小限にとどめられていて薄暗い。部屋の中心にはベッドがあり、くまのぬいぐるみであるマリカが静かに寝ている。彼女の頭の先にはケーブルが接続されていて、それは複数台のコンピューターとつながっていた。


 コンピューターの前には、白衣を着た白髪の丸メガネ。THREE BIRDSのナンバー2、サジーが画面に映し出された情報を目を見開いて確認していた。


「やはり……! このぬいぐるみは『科学者』が作ったものに違いない! この小さな記憶媒体にこれだけのデータが入っているとは!」


 サジーはカタカタとキーボードを叩き、作業を続ける。コンピューターの画面上には様々なデータが表示され、その一つ一つを見るたびに「おお、なるほど!」と声を上げていた。しかし途中で画面が止まり、警告音とともに、画面上に「閲覧禁止」と表示された。


「くそ、ここから先はご丁寧に何重にもプロテクトがかかっていやがる。しかし、この私にかかればたいしたことはないのだ!」


 サジーは一人でそう呟きながら、再びキーボードをカタカタと叩き始める。すると警告が消え、一瞬画面上新たなデータが表示され……たと思ったら、再び警告音が鳴り、先ほどと同じ「閲覧禁止」の文字が現れたのだった。


「くそっ!」

 ダン! とサジーは机を叩く。

「せめて、データのバックアップだけでも取っておけば……このぬいぐるみがいなくなった後も解析することができる……」


 サジーは別のコンピューターの元へ向かい、そこでまたカタカタ……とキーボードを叩き始めた。しかし、しばらくすると彼は唇を噛み締めて、眉間にシワを寄せて悔しがった。


「ちっ! バックアップにもプロテクトがかかっているのか!」


 サジーが推測した通り、マリカの作製には「科学者」が携わっている。しかしそれはマリカもアンジュも知らないことだった。「科学者」が戦争で失われる前の技術を結集して作り上げた記憶媒体――マリカの頭脳を司るもの――はそう簡単に覗けるものではないのだ。



 ◇



 マリカはケーブルに繋がれて、頭の中を覗かれている状態でありながらも、逆にこちらからもTHREE BIRDSのデータベースにこっそりアクセスを試みていた。目的は王と「科学者」、ついでに他の戦闘集団「新世界」や「ニューエイジ」に関する情報を探るためだった。


 ――THREE BIRDSのアジトの全体図、確認完了!

 ――ケンジたち戦闘員の情報もインプット!

 ――王については……あれ、あんまり情報がないなぁ。ん? 隠されてる? まあいいや、次。


 ――「新世界」と「ニューエイジ」について……オッケー。

 ――よし、これでだいたいのデータは入手できたわ!


 サジーとは対照的に、マリカはすんなりとTHREE BIRDSのコンピューターに保存されているデータにアクセスし、自身の記憶媒体に保存することができた。残念ながら王に関する情報はロックがかかっていて、大体の居場所しか把握することはできなかった。


 しかし「科学者」に関しては興味深いデータが手に入った。

 戦争後にTHREE BIRDSから発信している電波に対して、北の方角から反応があったらしいのだ。戦争後――つまり、科学技術が失われたはずのこの世界で、電波に反応する場所がある。そこに科学者がいるに違いない。その場所がどのくらい離れているのかはわからないが、いってみる価値はありそうだった。


 ――よし、アンジュが「王」への復讐を終えることができたら、一緒に北に向かおう。

 マリカがそう思ったときだった。



 ◇



「サジー! やべぇ! マジやべぇ!」


 研究室の扉が勢いよく開いて、そこにケンジとリコが息を切らしてやってきた。二人とも膝に手を置いて、はぁはぁと苦しそうに息をしている。


「どうした二人とも。今私はとても重要な作業をしているんだ。後にしてくれないか」サジーが二人に目もくれず、コンピューターの画面を眺めたまま言った。


「できないから急いでここに来たのよ!」


 サジーの言葉に重なるように、リコが声を荒げた。さすがのサジーもそれに驚いて、まじまじとリコの方を見た。


「何があった?」

「地上に、ニューエイジの奴らがやってきやがった! 今みんな戦闘中だ!」

「しかも銃が効かないのよ! 全部弾かれるの!」


 ケンジとリコが早口でまくし立てる。


「銃を弾く……? まさかM2NRエム・ツー・エヌ・アールが完成したというのか!」


 サジーが銃を弾くという言葉に反応し、コンピューターの前から立ち上がった。


「なんだよ、M2NRって……?」ケンジの問いに、

「M2NRは、ニューエイジが開発を進めていた筋肉増強剤だ。成功すればあらゆる攻撃を筋肉で弾き飛ばすことができると聞いていたが、科学者がいなければ実現不可能なものだったんだ。……まさか奴ら、既に科学者を……?」とサジーが悔しそうに言う。


「そんなことよりもよ! もっと強い武器はないの? 仲間がみんなやられちゃう!」

 サジーは首を横に振った。

「もしもM2NRが完成していたとしたら、それに勝てる武器は存在しない。だが安心しろ。ここへは入って来られない。しばらくすればニューエイジの奴らもどこかへ行くだろう」


「仲間を見殺しにしろっていうのかよ!」

 怒りをあらわにして、ガン! とケンジが近くの壁を蹴る。


「落ち着けケンジ。仮に別の武器を持って、再び地上に戻ってみたとしても、おそらくその武器は通用しない。地上でやられた仲間の二の舞になるだけだ」


「でも!」

 ケンジがそう叫んだとき。

 


 ウーウーウーウー!

 侵入者あり、侵入者あり!

 全員直ちに避難! 繰り返す! 全員直ちに避難!

 


 THREE BIRDSのアジト全体に不穏な放送が響き渡った。






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 こんにちは、まめいえです。いつもお読みいただきありがとうございます。

 ちょっと仕事が忙しくて更新ペースが落ちてしまいますが、今後ともお付き合いいただけると幸いです。

 さて、今回登場しました秘薬「M2NR」ですが……筋肉好きな皆様ならすぐにご理解いただけたでしょう。そう。「MマッチョNな〜R」という意味でございます。本編ではシリアスな場面をぶっ壊してしまうので書きませんでした……( ̄▽ ̄;)

 少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。

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