ロケットパンチガール

まめいえ

荒野をゆく二人と伝説の行商人

第1話「ロケットパンチをぶっ放したのはどこのどいつ?」

 ロケットパンチがうなりを上げて飛んでいく。


 ドスッ、ボカッ、ドゴン、グシャッ、ゴキャッ、メキョッ……ドカーン!


 それは次々と男たちの顔面を、横っ腹を、首筋を、太腿を――とにかく体ならどこでも――殴りつけていく。一発一発の威力は凄まじく、殴られただけで骨は砕け、内臓は破裂し、致命傷を負う。あっという間に、この部屋にいた十数人の男たち全員が倒れた。


「結局、何の情報も得られなかったわね」


 そう言って、赤色の髪を後ろで一つに束ねた一人の少女が瓦礫がれきだらけの部屋の中を歩いていく。

 カーキ色のミリタリーベストに同じ色のカーゴパンツ。足元には同系色のコンバットブーツ。いかにもこの世界を生き抜く戦士といったちだった。


 ただ、普通の戦士と異なっているのは、彼女の右肘から先がないことである。なぜかって、つい先ほど彼女の腕はロケットパンチとして飛んでいったから。


 壁は崩れ、机は傾き、き出しの電気ケーブルが天井から垂れ下がっている。戦いが起きたからこうなったわけではない。だったのだ。その部屋の一番奥にはモニタと四角いデスクトップ・コンピュータが置いてあった。

「あら、こんなところに……珍しい」

 そこへと歩く彼女のコツコツ……とコンバットブーツの音だけが響く。


「くそ……このまま終わってたまるかよ……」


 先ほどのロケットパンチで足を粉砕された男が、彼女の進行方向で倒れていた。手にはナイフが握られている。あと数歩近づけば、死ぬ前に一泡吹かせることができる。そう思ったときだった。



「アンジュ、危ない!」



 天井からかわいいが降ってきて、男の背中を踏み潰した。ゴキゴキッと背骨が砕ける音とともに「うべえっ!」と奇妙な声をあげて、一瞬で男は動かなくなった。

 

 くまのぬいぐるみは男の意識がないことを確認すると、「よっこらしょ!」と背中からゆっくりと降りた。そしてトテトテテ……と、「アンジュ」と呼ぶ少女のもとへと駆け寄った。


「マリカ……」

「何が『何の情報も得られなかったわね』よ! 情報を聞き出す前にロケットパンチをぶっ放したのはどこのどいつ? おまけに敵も一人倒し損ねてるし……。そのまま歩いていたら怪我したかもしれないんだからね!」


「……知ってたよ」

「はい?」


「だから、知ってた。そこに敵が残っていたのを」

「ムキー! そこは『助けてくれてありがとう、マリカ様』でしょ! 可愛げがないんだから!」


「ありがとう、くまちゃん」

「違ぁーう! あたしが求めているのはそんなんじゃない!」


 ぎゃあぎゃあ言い合いをしながら、「アンジュ」と呼ばれた少女と「マリカ様」と呼んで欲しいくまのぬいぐるみはコンピュータの元へと向かう。

 ホコリをかぶってはいたが、外観は壊れていないように見える。アンジュが軽くコンピュータの汚れを払うと、製品の型番を示すシールがあらわになった。


「20XX年製……そんな昔の機械が動くのかしら?」

「心配ご無用! このマリカ様にまっかせなさい!」


 マリカ――くまのぬいぐるみが器用に机をよじ登り、コンピュータのスイッチを入れる……が、うんともすんとも言わない。

「……マリカ様に任せなさい?」

 アンジュが冷たい目でくまのぬいぐるみを見つめる。マリカは慌てて、「ちょっと動きなさいよ、このポンコツ!」と、コンピュータを叩いた。するとしばらく間を置いて電源が入り、モニタに画面が表示された。

 すかさず、マリカが置かれていたキーボードを慣れた手つきで叩く。「よし、ロック解除! ほら見たアンジュ? さすがあたし、天才!」



 ***

 ログイン完了

 データベース一覧を表示します

 ***



 画面が切り替わろうとしたとき。

 ドゴオオオオオォン!


 ロケットパンチが飛んできて、コンピュータの本体とモニタを一瞬で粉砕。そして空中で静止し、ゆっくりと向きを変えて――「ガチャリ」アンジュの右肘にゆっくりと接続された。


「よし。戻ってきた」

 アンジュは自分の右腕が戻ってきた安心感から、ふぅと一つ息を吐いた。そのあと右手を握ったり開いたりして、異常がないことを確認する。


「ばかー! アンジュのばかー! なんでコンピュータをぶっ壊すのよ!」

 ん? と何食わぬ顔をしながら、アンジュがマリカの方を向く。

「ロケットパンチが……これを敵認定したのかしら?」

「何言ってんの! ちょっとその腕貸しなさいよ、もう一回いじり直すから!」


 ポカポカポカ! とマリカがもふもふの両腕でアンジュの右腕を叩く。ロケットパンチが接続された右腕は見事なまでに綺麗に繋がっていて、見ただけではここからまさか切り離されるとは思えない。ひとしきり叩いた後、マリカは疲れてその場にボテっと座り込んで言った。


「もう嫌! アイスクリーム! アイスクリーム食べないとやってらんない」

「マリカはぬいぐるみなのに」

くまのぬいぐるみでも、食べたいものは食べたいの!」


 はいはい、とアンジュがマリカを抱きかかえる。ちょうど胸に収まるサイズのくまのぬいぐるみは、頭を撫でられて少しだけ嬉しそうなそぶりを見せる。


 そのままアンジュは瓦礫がれきや崩れた机、散乱した書類、そして倒れている死体を踏まないように部屋の一番端っこ――もはや窓ガラスもなく壁も崩れていて外が丸見えの場所――まで行き、外を見た。


「この近くに、アイスクリーム屋さんがあるかしら」


 ここは廃ビルの最上階に近い部屋。アンジュの視線の先には青い空が広がり、そのまま視線を落とすと――破壊された建物にひび割れた道路、灯りのついていない信号機と斜めに傾いた電柱。そしてそこに、今だと言わんばかりに生えてきた植物たち――核戦争によって崩壊した世界が広がっていた。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 こんにちは、まめいえです。お読みいただきありがとうございます。

 初のSF(の中でもポストアポカリプスと呼ばれるジャンル)に挑戦してみました。新連載「ロケットパンチガール」どうぞよろしくお願いいたします。

 少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る