011 悪いけど断固反対だ

 新たに追加されたのは「生存者」というタブだ。

 そのタブを選択すると、生存者と死亡者の数が表示された。


 生存者:495人

 死亡者:58人


 俺達がこの島に転移したのは昨日。

 たった1日で、転移した人間の約1割が死亡したことになる。


「やっぱり全学年の全生徒が転移していたみたいね」


「生存者と死亡者の数を足すと553人……たしかにウチの生徒数と一致するな」


 この島に1年と2年が転移していることは把握していた。

 全学年が参加するグループラインも存在しているから。


「死んでいないだけで重傷の人も多そうだね」


「大半が拠点を持っていないわけだしな」


 生存者タブの情報は、俺達に強烈な衝撃を与えた。

 俺達だけではない。

 グループラインでも動揺の声が広がっている。


「明るい時間帯の活動も警戒していかないとな」


 俺達の2日目はどんよりした気分で幕を開けた。


 ◇


 朝食が終わると、作業の時間だ。

 死亡者の数が分かったところで、作業内容に変更はない。

 俺は狩猟、波留は釣り、千草と由衣は採取で、歩美は販売だ。


「あ、そうそう、4人を拠点の共同管理者に設定しておいたから」


 俺は自分のスマホを見ながら言う。


「たぶん皆もこの拠点を弄れるはずだ」


 女子達がスマホを取り出し、〈ガラパゴ〉を確認する。


「これが拠点タブかぁ! なんか色々な項目があって面倒だなぁ。こういうのは大地と由衣に任せるよ! あたしゃパス!」


 波留はそそくさとスマホを懐に戻す。


「それじゃ、作業を始めようか。大丈夫だとは思うけど、念の為に千草と由衣は可能な限り波留の近くで行動するようにしてくれ」


「「了解!」」


 俺は歩美に作ってもらった石槍を持ち、拠点を後にした。


 ◇


 やはり武器があると快適だ。

 石の刃を木の棒に括り付けただけの槍でも、あるとないとでは大違い。


「3匹目!」


 まだ12時にすらなっていないのに、俺は3匹の角ウサギを倒した。

 近づいてブスッと刺すだけでいいから楽勝だ。

 角ウサギが逃げの一手しか打たないので、焦ることがなかった。


「かなり高いけど、持久戦に備えて買っておくか」


 俺は最上級モデルのモバイルバッテリーを購入した。

 価格は2万pt。かなりの出費だ。

 だが、商品説明を読む限り、その価値はあると思う。


 無限に使用できて、どんな衝撃を与えても壊れない。

 更には完璧な防水・防塵仕様で、充電時間も1分で済む。

 最上級モデルに相応しい最高品質の商品だ。


 唯一の欠点はシェアできないこと。

 波留達のスマホを充電するには、追加で同じ物を買う必要がある。


 購入したモバイルバッテリーを召喚し、直ちに充電を行った。


「流石は高級品。もう充電が終わったぞ」


 バッテリー残量が目に見えて回復していく。

 想像以上の急速チャージに、スマホが壊れないか心配になった。


「それにしても――」


 チャージが済むと、スマホを持ったまま木にもたれかかる。

 モバイルバッテリーは胸ポケットに入れておいた。


「――まるで他の連中を見かけないな」


 この島では少なくとも500人近い人間が活動している。

 それなのに、周囲には人の気配がまるでない。

 よほど広いのか、それとも俺達の活動場所が僻地なのか。


「まだまだ手探りの状態が続きそうだな」


 俺は遠くに見える海に向かって歩きだす。

 その道中で、槍を伸ばすとぎりぎり届く果物を採取した。

 穂先でプチッと枝から切り離し、落下してきた物をキャッチ。

 掴んだ瞬間、謎の果物は消えた。


 チャリーンの音と共にお金がチャージされる。

 事前に聞いていた通り、採取で得られるお金はしょぼい。

 今回の場合は550ptだった。


 ただし、今回はクエスト報酬もセットだ。

 クエスト「採取しよう」がクリアになり、1万ptを獲得した。


「クエストも出来る限り潰しておかないとな」


 森を抜けて海にやってきた。

 この島で目が覚めた時にいた場所だ。

 強めの潮風が吹いている。


「消えないか不安だが……まぁ大丈夫だろう」


 波から離れた場所の砂浜で焚き火を作る。

 昨日の紫ゴリラ戦で購入したライターを使ってサクッと。

 その焚き火でスギの葉を燃やして強烈な狼煙を作る。


「これでよし」


 この狼煙は救助用の物だ。

 効果があるかは分からないけれど、ないよりマシだろう。

 ――と、グループラインで誰かが呼びかけていた。


「そろそろ戻るか」


 俺はグループラインの未読ログを読みながら帰路に就いた。


 ◇


 最初に決めていた通り12時30分に昼休憩を行う。

 全員きっちりと時間通りに拠点へ戻ってきていた。


「歩美、売り上げのほうはどうだ?」


 今回の関心事は歩美の販売結果だ。

 彼女は午前だけで20個ほどの商品を売りに出していた。


 売っているのは手作りの道具で、主にお金を稼ぐのに使う物。

 俺が使っている槍や由衣や千草が使う高枝切りバサミなどだ。


 価格は材料費に多少の色を付けた物。

 同じ商品でも価格に幅を持たせて、適正価格を探るようにしていた。


「驚いたことに――」


 歩美の顔が嬉しそうに緩んでいく。


「――全部売れました!」


「「「「おおー!」」」」


「少しずつ高くしていったんだけど、出して数分で売れるからびっくりだよ」


「それは凄いな」


「他の人が変な物ばかり売っているのも大きいかも」


「変な物?」


「昨日の大地みたいに、ただの石コロを売っている人とかいるよ」


「売れるのか?」


「ずっと売れ残ってる」


 歩美が笑いながら言った。


「もしかして俺の出品を見たのかな。で、一瞬で売れたものだから、『ただの石でもお金になるかも』なんて思ったとか」


「ありえそう」


 俺はユーザーの販売する物を確認してみた。

 昨日と違い、今はたくさんの商品が並んでいる。


「自作のポエムを売ってる奴がいるぞ」


 俺はスマホを皆に見せる。


「馬鹿だなーこいつ、どうかしてんじゃないの!」


 波留がゲラゲラと笑いながら言う。


「それで歩美、収益はどんな感じなんだ?」


「3万くらいかな。午後もこの調子だったら更に5万くらいは稼げるかも」


「「「「おおー」」」」


 かなり良い内容だ。


「私と千草も販売にシフトする方がいいかな?」


 由衣が俺を見る。


「かもしれないな。販売は物が行き届いたらおしまいだし、他のグループから同業者が続出する前に稼ぎまくるのはアリだ」


 ペースを考えると、販売で稼ぐならこの数日が勝負だろう。

 それ以降も販売を行うなら、別の商品を考える必要がありそうだ。


「他のグループと言えば――」


 由衣がスマホを取り出す。

 全学年用のグループラインを開いて、俺達に見せてきた。


「――これ、どうする?」


 そう言って彼女が指したのは、3年の男子が行っている呼びかけだ。

 長々と書いているけれど、一言でまとめると「皆で集まろう」というもの。


 海と反対側――森の奥にはいくつかの山が見えている。

 その山と山の間にある渓谷付近で集落を作ろう、という誘いだ。

 付近にはいくつか拠点が多くあって、その内の1つは確保済みらしい。

 最終的には全員が拠点に入れる状況を目指すそうだ。


 多くの人間が賛同を表明している。

 既に合流している連中もいるようだ。


「私は悪くないと思うよ」


「私もー! たくさんいるほうが安心じゃん!」


 千草と波留は呼びかけに賛同しているようだ。


「私は微妙かな。自分勝手だけど、私は販売が楽しいから。なんかお店を経営している感じがしてね。合流したらそういうのがなくなるから……。でも、反対ってわけじゃないよ。皆で集まること自体は名案だと思う」


 由衣は「なるほどね」と頷くと、俺に視線を向けた。


「大地はどう思う?」


 波留達も真剣な表情で俺を見る。


「俺は――」


 この件に関しては、話題に出る前から答えを決めていた。


「――悪いけど断固反対だ。絶対にやめておくべきだと思う」


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