page09 : 大切を想う気持ち

「失礼しまーーす!!」


 スペリディア魔法学園の医務室は、学生寮に隣接するこの学園で3番目に大きな規模の建物の一部である。


 1番は中央の学習棟、2番目は魔法や剣技の実技を行う訓練棟及び訓練場。そして、日々研究や鍛錬で怪我をする機会の多い学生たちを助けているのが、この医務室含む医療棟だ。


 回復魔法の研究や、治療薬、解毒薬などの薬の調合、歴史から学ぶ疫病の対策など、広い学園の広い建物を占有するだけの学びがそこには存在している。


「あらあら、今日は一段と賑やかですねぇ。皆さんお集まりで、どうしましたか?」

「メリーセンセー!おはよー!」

「おはようございます」


 そんな魔法医療及び薬調合を学べる棟担当教員にして、医務室を取りまとめる養護教諭の先生、ヒルメリア・メリネーテ。通称メリー先生が、意識を失った不良たちを連れて入ってきた元グレイの教え子たちを出迎えた。


「怪我人ですね。奥のベットに寝かせてください。直ぐに診断します」

「ありがと!メリー先生。今日はあんまり人がいないね、珍しい!」

「医務室は、静かな方が良いんですよ。皆さんが元気な証拠ですから」


 そんな彼女は、穏やかな物腰と整った綺麗な顔立ち、背はさほど高くないのにスラリとした体型と、学園でもトップクラスの人気を誇る教員だ。


 医務室に人がいないのは珍しい……その心は、皆メリー先生目当てでやって来る生徒が後を絶たないからである。


 メリーファンクラブなるものが学園にひっそりと存在するくらいには人気。爽やかな笑みと誰に対しても分け隔てなく優しい性格を知れば、誰もが好きになってしまう。


「まぁ、とても傷だらけ。……けど、みんな命に別状は無いですね。意識が無いのは、身体に強い衝撃を受けたから……かしら。喧嘩でもしたのですか?」

「えっ?!僕達はしてませんよ!!」

「そうです!私たちは、グレイ先生に頼まれて、運んできただけなので!」


 運ばれて来た生徒が喧嘩をしていたのは事実である。この一言だけで、メリー先生の医療に対しての実力が伺える。


「グレイ先生……?」

「悪いなメリネーテ。今日は資料の整理で忙しいと聞いていたのに」

「おはようございますグレイ先生。大丈夫ですよ。生徒の怪我を見ることが、私の最優先の仕事ですから」

「そう言って貰えると助かる。一応確認だが、


 そう問いかけるグレイの視線は、ベットに横たわるニコラへ向けられていた。外傷だけ見れば、最も無事なのはニコラである。


 しかし、魔力まで視通すグレイには、彼が最もであることが理解できた。


「えぇ、子供たちには伝えたけれど、みんな命に別状は見られません。この子も、半日あれば目を覚まします」

「それなら良かった。……半日か」

「……?どうかしたの?」

「いや、なんでもない。……お前ら、私は少し席を外す。ここまで手伝ってくれて助かったが、あまりメリネーテの邪魔をするなよ」


 メリー先生の診断結果に胸を撫で下ろしたグレイは、安堵もつかの間、直ぐに踵を返す。


「あら、どこかへ行くのですか?」

「ちょっと、だよ。夕方には戻るだろう。それまで、こいつらのことを頼む」

「承知しました。それまで事情を尋ねるのは待っていますね」


 グレイとメリネーテ。実は学園の教師に就任したのがほぼ同時期。いわゆる同期であった。


 まだまだ若い肌に美しい体型のメリネーテが、もう何十年も学園にいるグレイと同期とはどういうことか。


 見た目は人間の姿なメリネーテだが、実は彼女もまた

――エルフなのだ。


 お互い出身は違うが、エルフであることを隠してやって来たメリネーテの正体を一目で見抜いたのがグレイと言う、少し変わった出会いを持つ。


 つまり、彼女はグレイの実力をよく知っている。

 学園の中でも、グレイを認めている数少ない教員の1人である。そして、正体を知りつつ一度たりとも公言しない彼女を強く信頼していた。


 だからこそ、グレイは彼女に対して比較的距離の近しい態度をとるのだ。


「えー、センセーまだ仕事?ついて行ってもいい?」

「今度ばかりはダメだ。学園の外には連れて行けない」

「学園の外?!何しに行くんだ?」

「言っただろ。だよ仕事。そう不満そうな顔をするな。今回はお前らにも感謝している」


 グレイが感謝の言葉を口にした。

 それを聞いた生徒たちは、揃って満面の笑みを浮かべる。


「ほんと?!」

「なぜ疑う。素直に褒めているんだ」

「分かった!行ってらっしゃい先生!」


 グレイに褒められた事で、彼らは簡単に素直になった。

 それほどまでに、グレイに褒められたことが嬉しかった。別に、グレイが普段から褒めていない訳では無い。むしろ、彼女は褒めて伸ばすタイプである。


「メリネーテ、よろしく頼む」

「頼まれました」


 手を振って医務室を出ていったグレイ。

 誰もいなくなった入口を、生徒たちはじっと見つめている。


「皆さん、とても嬉しそうですね」


 彼女達が嬉しそうな理由。

 それは――


「グレイ先生に褒められたから!」


 学園人気。あのメリネーテを凌ぐ、人気トップ。その相手に感謝されたことが、何よりも嬉しかったのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 スペリディア魔法学園より遥か西、あのアールベスタ大森林を超えてさらに奥の、この国で最も西にある集落。


――獣人集落、ケットシュンラ。


 純粋な獣人達が自由に住まう最果ての地にして、ニコラ・クラークの出身地である。


「集落は閉鎖的だと聞いていたんだが……、随分あっさり通して貰えたな」

「外交関係が少ないだけみたいです。貿易や外からの旅人、冒険者などは自由に出入りしていますね」

「道理で獣人以外の姿も見られるわけだ」


 閉鎖とは対象的に、たくさんの人々が行き交う集落は、国の最西端とは思えぬ賑わいを見せていた。


「国の最西端だが、隣接する国に出入りする者が多いのか。なるほど、この国で情報が少ないのも頷ける」


 どれだけ博識なグレイもこの真実は知らなかった。

 百聞は一見にしかず。実際に訪れたことで、またひとつ新しい情報を手に入れることができた。


「……こ、この中からあの子の親友を探すんですか?」

「そうだ。夕方には戻ると約束してしまったから、即刻見つけ出して帰宅する」


 現在、グレイはティア先生を連れて、ニコラの出身地を訪れている。


「彼の症状は精神に由来するモノだ。信じたい心と裏切られたという思い込みの狭間で揺れている。だから外部からその揺らぎを刺激されると、あっという間に崩壊する」

「…………それが怒りの感情」

「彼の暴走を防ぐには、その不安定な精神を正す必要がある。手っ取り早く解決するには、その原因となった者と接触することだ」


 2人はただ気まぐれにこの地を訪れたのでは無い。


 ニコラのため、真実を探しに来たのだ。


「って言っても、その親友の名が分からないんじゃ、探すのも大変だな」

「ですね。お話を聞きたいですが、他所から来た獣人の方もいらっしゃるようですから……手当り次第は難しそうです」


 グレイ達は、その集落を歩きつつ、彼の親友の手がかりになりそうな場所を探す。


 これは骨が折れそうだ。

 そう覚悟したが、運は彼女らの味方をした。


「おや、その服装は……もしかして学園の関係者ですかな」


 集落の中央から少し離れた場所で、2人はクマの老人に声をかけられた。丈夫な枝の杖をつき、細い目をこちらに向ける。


「そうだ。爺さん、知っているのか」

「ほほほ、そうじゃの。若い頃、学園の近くを通った時に見たことがあるだけじゃがな。それと……つい最近、学園に入学した村の子どもがおったのじゃよ。名は――」

「ニコラ・クラーク、違うか」

「おぉ、そうじゃそうじゃ。可哀想に、村の大人の事情で村を出て行くことになってしもうて……元気にやっておるといいのじゃが」


 ティア先生の情報では、村の大人に嫌われていたと話していたが、その情報は誤りであった。


 正確には一部、彼を認める者もいたのである。


「リーナも心配しておる。主たちは学園の先生ですかな?」

「あぁ一応教師だ」

「では、ニコラに会ったら伝えておいておくれ。元気に頑張るのじゃぞと」


 その優しげな熊老人は、彼の未来を案じての言葉を伝えた。きっと、彼がここまで生きてこられたのは、この老人のような優しさがあったおかげなのだ。


「無論だ。時に爺さん、そのリーナってのは、ニコラの友達か?」

「そうじゃよ。あの子はいつもニコラと一緒におった。あの子の両親はとても反対していたが、こっそり抜け出しては共に森を駆け回っていたの……。懐かしいわい」


 グレイが求めていた話が、向こうからやって来た。

 この偶然を逃す手はない。


「その子、リーナは今どこに?」

「彼女なら、今は森で狩りをしておる所じゃろう。前はニコラと一緒だったが……、最近はずっと1人のようじゃ。信頼出来る友が居なくなって、寂しいのじゃろう」

「森で狩り……か。サンキュー爺さん」

「え、えぇ?!グレイ先生っ、あ、えっと……ありがとうございましたお爺さん」


 熊老人が示した先は、この集落から北の小さな森。日頃から狩りの訓練を行う場所だと言う。


 グレイは熊老人にお礼を言って、すぐさまその森を訪れた。彼女の判断の速さに、付き添いのティア先生は着いていくのがやっとである。


「も、森ですよ!?もう少し聞いた方が……」

「範囲が森に絞れればだ」


 グレイの視界では、既に森の方向で機敏に動くを捉えていた。


 普段は意図的に抑えている感知能力を解放すれば、彼女には容易いこと。

 ただし、感知範囲はグレイを中心とした円形上に広がっており、広範囲を視ようとすれば必然とも感じることになる。

 集落や学園のような人の多い場所では行うことは、身体への不快感もありあまり好まれない。


 大体の居場所を把握して、直ぐに感知能力を切った。


「森の中で動く人型の反応は二つ。体格的に一人は男性、もう1人は女性だろう」

「……どちらでしょうか」

「寝ぼけたことを言うな。爺さんが言っていただろう、と」

「へ?あ、あぁそうでした!けど、ニコラさんの親友ですし、てっきり男の子かと……」

「彼が親友だと言うのならば親友なんだろう。私は彼らの関係性にまで首を突っ込みはしない」


 ティア先生の偏見をめんどうの一言で一蹴し、グレイは魔力反応のあった森へと入っていく。


 集落北の出口から直ぐに見えてきた森は、アールベスタ大森林を見慣れたグレイには普通の森も同然。

 事実、少し獣が多く生息しているだけの一般的な森だ。


 そもそも、アールべスタのような特殊な森の方が珍しいのである。


 森に入る前に再び感知能力の範囲を広げ、近くの反応に目を凝らす。すると、グレイたちの位置よりもかなり高い場所に目的の相手と思わしき反応が視えた。


「狩りをしているのだったな。木の上を自由に飛び回られては厄介だ」


 グレイのトレードマークとも呼べる長い白衣に手を入れて、彼女は堂々と森へと踏み込む。


「ぐ、グレイ先生っ?!そんな格好では危なくないですか」

「……?こんなで何を慌てているんだ」

「えっと……白衣が破け、ます……よ?…………あはは」


 服装よりも、警戒せず突撃するグレイを案じての言葉だったが、本人が全く気にしていないので、ティアは笑って誤魔化した。


 駆け足でグレイの後に続く。


「そんなに堂々と進んで大丈夫……ですか?もう少しよく探した方が」

「言っただろう。森の中に限定されていれば、人を気にせず視える」


 森の中央付近まで歩いてきた二人の位置では、感知範囲にほとんど人の気配が無い。


「それに、もうすぐそこだ」

「……へ?」


 前方を指すグレイ。

 その方向には、二体の熊らしき獣が一本の木の下を執拗に回っている姿が。先程のお爺さんもクマの獣人だったが、獣人と獣では、やはりその威圧感が段違いである。


「グルルルルル」


「何かを探していますね。……すごく警戒しているようにもみえます」

「それは――ほら、お目当ての人物があそこに」


 指し示した先を木の下から上に。

 ティアもその指先を追って視線が木の上に移動する。


「…………え、えぇっ?!?!あそこっ、女の子が!!急いで助けないと」


 声を上げて前に踏み出すティアを、グレイは片手で制止する。


「まぁ待て。狩るのは簡単だが、森の関係者では無い私たちが殺すのはナシだ」

「ですが、それでは……」

「難しい話では無いさ」


 ポケットに手を入れて、グレイは隠れずに熊へと近づいていく。彼女に気がついた獣たちが、姿勢を低くして警戒する。


「ヴォォォォッッ」

「お前らを害することはしない。だから、今回は一度引いてくれ」

「グルァッ」

「縄張りを荒らされたのか。そうだな……、では、その相手には私から言っておく。もしまた同じことが起きたその時は、君らの好きにするといい」

「…………グル」


 森の熊と言葉を交わすグレイ。

 あれだけ警戒していた獣が、プイと顔を逸らしどこかへ消えて行く。


「いったい何をしたんですか?!」

「ん?あぁ、私は半分エルフで、育ちはエルフの森だ。森の生命と対話することくらいは、の私でもできる」


 エルフという種族は、植物や動物といった自然との親和性が高い。世界にいくつかあるエルフの森では、野生の動植物と意志を交わし、食料や魔物の発見を行う習慣がある。


 闘争心が大きく、森の獣は狩り対象だと習う獣人とは反対の習慣のため、それを知らぬティアはグレイの行動に驚いたのだ。


 その反応を見て、エルフと人間というの存在でも、動物との対話は可能だとグレイは笑う。


「もう大丈夫だ。君に用があるんだが、降りてきてはもらえないか」


 ティアと同じく、その奇怪な行動に驚いていたもう一人の存在に声をかける。人型だが、耳やしっぽ、手や足が特徴的。人化の魔法だろうが、まだ不完全な形のようだ。


 大きく丸みを帯びたしっぽと丸い耳、特徴からしてリスに準ずる獣人らしい。

 彼女こそ、探していた少女――リーナだ。


 熊という敵を前に退かせたグレイを警戒しつつ、傍のティアを見て恐る恐る木の上から降りてきた。


「あ、あなたは……?」

「私はグレイ。スペリディア魔法学園で教師をしている」

「私はティア――」

「魔法学園っ?!!ニコラは、ニコラは元気ですか!!」


 学園の名を聞いた瞬間、リーナは眼前に迫る勢いで尋ねる。警戒など一瞬にして吹き飛んでいた。


「落ち着け。そのニコラについて話すため、わざわざここを訪れたんだ」

「そ、そうだったのですね……。すみません、私、すごく心配で」


 彼女の言葉で、グレイは彼らの間にある関係性を確信する。彼女は、決して裏切ったわけではない。


「私もお話したいことが沢山あります。ここは少し危ないですから、少しだけ移動しませんか」

「あぁ、案内を頼むよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 リーナが移動先として選んだのは、森の斜面を南東に抜けた、広い空が見下ろす崖の傍。

 少し身を乗り出せば、集落を上から見渡すことも出来る。


「これは……中々に絶景だな」

「ここ、私たちのお気に入りの場所です。ニコラが見つけてくれて、えへへ。ニコラって、きれいな景色とか見つけるのが得意なんですよ」

「良き才能だ」


 実に御機嫌な顔でその景色に笑いかける。

 集落を超えて続く隣国の広い平原を見渡せるのは、恐らくここだけ。森の小鳥がさえずり、集落では味わえぬ心地よい風が吹き抜ける。


 こうも空が近いと、吸い込まれてしまいそうな感覚に陥る。


「えっと、ニコラは、……元気ですか?」


 リーナはそんな空を見上げたまま、木の幹に寄りかかるグレイに尋ねた。


「元気だよ。授業が始まれば忙しくなるが」

「そう……ですか。ふふ、ニコラが真面目に授業を受けている姿は想像できません」

「身体を動かす方が似合ってはいる」


 グレイは、小さく優しい嘘をつく。

 暴走して、寝込んでいることを伝えてはならない。


「だが、新しい環境で少し疲れてもいるようだ」

「やっぱり……学園生活は大変なんですね」

「あぁ。毎日難しい顔をした教師共が、あれやこれやと騒ぎ立てる。窮屈な場所だ」

「グレイ先生!それは先生のことでしょう?」

「…………」


 軽いジョークのつもりが、リーナには理解されず、ティア先生からお叱りの言葉を受ける。


 そんな、ティア先生へのが、この場の雰囲気を和らげた。


「そこで大切な友だと言う君に、応援の手紙をお願いしたい。出来れば今すぐに、君の言葉で」

「……手紙、ですか?」

「そうだ。言葉とは魔法だ。人の心を動かす力がある。彼にとって、君の言葉ほど勇気を貰える物は無い」


 そう告げるグレイの眼は、案外優しげなモノで。

 きっと、彼女にとって大切な人からの受け売りだろう。


「わ、私……書いてきますっ!!少しだけ、時間をください!えぇっと、30分後に村の西の入口に行きます!!」

「分かった。頼む」

「焦らなくて大丈夫ですからねー!」


 慌てて走り去るリーナを見送り、2人の教師は目の前の絶景に再び視線を落とす。


「グレイ先生は、とてもお優しいですよね」

「……そうか」

「だって、今日ここを訪れたのは彼女たちのため……ですよね。大切な友人を繋ぎ止めるために」

「…………友人は、大切にするべきだろう。掟やら大人の事情とやらで、簡単に失ってはならない」

「そういう考えが優しいのです」


 ティアのしっぽが楽しげに揺れている。


 獣人の特徴は、身体強化だけでは無い。

 己の気持ちに素直で、仲間意識が強い。


 好戦的だと思われがちな彼らだが、その実、仲間を傷つけられることを許せないだけ。だからこそ、多様性という価値観に敏感で異物を嫌うのだ。


 他者との繋がり、心の脆さを知っているから、それらが壊れるのを恐れている。混血ハーフという異物を恐れている。ただそれだけなのだ。


「君は、この集落の者たちが薄情だと思うか?」

「……そう、ですね。私は教師ですから、ニコラさんのことを考えると、どうしても思うところがあります」


 獣人や人間、エルフなど、種族の差は関係ない。

 。学園の大人が生徒を想うのは、ただそれだけの関係だけで成り立つもの。


「ですが、恨むことはできません。それに、あの子みたいに、生まれなんて気にせずに彼のことを案じてくれる人もいるって知りました。だから、薄情だとは、いえ、……少しだけ思います。あはは。カッコつけてみましたけど、やっぱり完全に割り切ることはできませんね」

「いいじゃないか。君は――教師に向いている」


 グレイは目を瞑り、風を感じ、そして木から離れる。


「そろそろ入口へ向かおう。彼女を待たせてしまう」

「は、はい!!って、もう移動してる?!ただグレイ先生が早く帰りたいだけじゃないですかぁ!!」


 ティアの耳が立ち上がり、動きの早くなったしっぽが慌てる様を精一杯表現している。


――なんて分かりやすいのだろう。


(もう少し、手紙には時間がかかるかもな)


 ふと、グレイはリーナが立ち去る時を思い出す。


 彼女のよく伸びたしっぽや耳は、彼と真剣に向き合う決意が現れていた。

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