カトブレパスは前を見ない

浦瀬ラミ

穢れたプロローグ

 この春高校生になった私は、二人の変人に出会った。

 一人は、馬鹿みたいに天才だった。

 いつも腑抜けたツラで笑ってるくせに、その裏には恵まれた才覚を持て余していた。

 奇才とはそいつのことを言うのだろう。マイペースで、超が付くほどの努力家で、芯の強さも人一倍。どこまでも正しい人間だった。

 まるで伝記漫画の主人公。いつかこうなりたい。そう昔から思い描いていた自分の将来像が、いきなり私の目の前に現れた。

 天才は空気読まないってことらしい。尊敬するよ。

 もう一人……いや、もう一頭は、ただの馬鹿だった。

 どんな顔をしてるのかも分からないけど、何を取っても私より下なのは明らかだ。

 絵に描いたような木偶の棒。間抜けで、ちょっと図々しくて、どんな嘘でもコロッと信じる。何も出来ない、正真正銘の馬鹿だった。

 合縁奇縁、この一人と一頭との巡り合わせが、別に私の運命を大きく変えたとか、そんな大それた妄想をするつもりはない。

 だけどさ、わがままというか、こんな私にも言い訳くらいはさせてほしい。

「あんた達に会えて良かった」

 そう、心の底から思いたい。

 これだけは本当なんだってことを、どうか信じてほしい。

 天才に会えて、馬鹿に会えて、私は幸せ者だーって、腹の底から叫びたいんだ。

 それを邪魔しているのは、紛れもない私自身だってことくらいは、とっくの昔から分かってるんだけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る