第9話

 顔面の半分から、『ドウナシ』が寄生した証、赤いカーネーションをのぞかせるリーダー格の男。

 その姿に、人類会の黒服たちは驚愕し立ちすくむ。


「やはりあなたも『ドウナシ』の罹患者でしたか」

 しかし旦那の声は静かだった。そこに、驚きも侮蔑もない。


「同情か、化け物が。俺は確かに寄生されている。だが、俺は『ドウナシ』、奴の侵略を打ち破った勝者だ!」

 ギラギラと憤怒をにじませる目。その感情に呼応するように、赤いカーネーションの花弁は波打つ。


「確かに、あなたは『ドウナシ』に拮抗している。しかしこのままでは、寄生が進行しあなたは『ドウナシ』に飲まれてしまいます。早急な医療機関への受診が必要です」

 旦那の声は心の芯から相手を心配していた。

 『ドウナシ』は擬態の名手であるが、それはあくまで表面上の話。仮に知的生命体に擬態したとしても、知的生命体の複雑な頭脳を発現できるわけではない。

 『ドウナシ』の寄生が進行すれば、人間としての知能は失われ、ただの苗床になるだけだ。


 だが、リーダー格の男は振り払うように暴れた。

「誰が自らエイリアンの実験台になるものか!」

 医療機関にかかれば、寄生した『ドウナシ』は切除されるだろうが、その切除する医者が人間とは限らない。

 人類会のリーダーとして、男はエイリアンに助けられることを恐れているのか。

「俺はっ、俺はエイリアンを浄化し、地球を人類の楽園に! そしてようやく仇討ちなされるのだ!」


「そうですか」

 リーダー格の怒りに、旦那は首肯する。

「やはりあなたも、味わいましたか、人間の感情を」

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