第35話 初デート?
「ふふ~ん。」
神楽は屋上から教室に向かう途中に機嫌よく鼻歌を歌っていた。
その右手はしっかりと蒼の左手を握っていた。
昼休みということもあり、廊下には生徒が複数人おりその視線は二人に注がれていた。
女子からは珍しいものを見るようなまなざしで見られて男子からは親の仇でも見るかのような目で見られていた。
(なんかこんな風に見られるの懐かしいな。)
蒼は半ばあきらめ気味にそんなことを考えながら現実逃避していた。
だが、前の視線とは違い男子からの視線はさらに冷たいものになっていた。
冷たいものというよりはもっとひどい汚物を見るかのような目で見られていた。
(え?なんで?なんか周囲からの視線が前よりずっと痛いんだけども、どうしてだろう?)
「ねえ、今日一緒に帰らない?」
そんなことを考えている蒼に神楽は蒼のことを覗き込みながら言った。
どうやらかなり機嫌がいいようだ。
「ああ。わかったよ。」
蒼は顔を引きつらせながらそう答えた。
本当に彼女は蒼のことが好きなのかを疑っているようだ。
だが、とりあえずは神楽と付き合って月がハブられている現状をどうにかしてからでないと彼女と別れることはできない。
「それと、明日からお弁当作ってきてあげるね!」
神楽はずっとニコニコしながら蒼に話しかけている。
今まで蒼が見てきた神楽とは全く違う。
今までの神楽は陽キャの中の陽キャというかクラスの女王様みたいでとても近寄りがたい雰囲気だった。
これまでの神楽をツンとするなら今の神楽は完全なデレだ。
その容姿も相まって蒼の心臓は先ほどから高鳴りっぱなしだった。
(これがギャップ萌えという奴なのか。)
こんな状況でも蒼は頭の中でくだらないことを考えていた。
いつまでもオタクなのは変わらないようだった。
「え、それはちょっと、、、」
「なに?私の作るお弁当が食べれないっていうの?」
蒼が神楽の申し出を断ろうとすると先ほどまで笑顔だった顔がすんと真顔に変わりとんでもない圧力を発し始めた。
「まさか、ありがたく頂戴します。」
「そう?よかった。」
すぐに笑顔を取り戻す神楽。
(今度からこいつの機嫌を損ねるのはやめておこう。)
蒼は静かにそう決心したのだった。
………………………………………………………………………………………………
「今日はここまで。じゃあ、また明日な。」
そういってこのクラスの担任である一条は教室から出て行った。
「じゃあ、一緒に帰りましょ?蒼。」
すぐに神楽は蒼の下へとやってきていた。
「ああ。わかったよ。」
言われるがまま蒼は荷物を持って教室を後にした。
「いまからどっか行くのか?」
「どうしようかしら。別にこれといっていきたいところは無いのだけれどこのまま帰るっていうのもなんだか味気ないわね。」
神楽はそういって考えこむような素振りを見せた。
「そんなに深く考えなくても適当にどこかに行けばいいのでは?」
「その適当が難しいんですよ。」
「そういうもんか?」
「そういうものです。」
二人は帰り道を歩きながらそんな他愛もない会話を繰り広げていた。
「そういえばさ、お前に一つ聞いてもいいか?」
「何かしら?」
「今のお前が素なのか?」
「素?といいますと?」
「いた、だからなんていうんだろうな。その話しやすいというか今の君は教室に居る時とは違うだろ?だからどっちが素なのかなって。」
蒼は少し考えこんでからそういった。
実際蒼の神楽に対する印象はクラスの女王様で話しかけずらいといった印象を抱いていたのだが、実際にこう話していると印象が180度変わって見えた。
「どうなのかしら?確かに教室に居る時の私は少し気を張っているからそう見えたのかもしれません。素というなら今の私が素だと思います。」
「そうなんだ。てっきりもっと性格の悪い人だと思っていたから。」
「それは失礼ですね。」
そういって神楽はふふふっと笑った。
なんだかその笑顔は無垢でとても綺麗なものに見えた。
「ごめん。」
「気にしないでください。それに一度目の告白の時に失礼な態度をとったのは私ですから。」
「じゃあ、気にしないでおくよ。」
蒼はそういいつつ自身の左手をみた。
その手にはしっかりと握られた神楽の手があった。
(なんか、こんな美少女と手を握ってると緊張するな。)
「では、あそこのカフェに行くというのはどうでしょうか?お互いのことを知ることもかねて。」
神楽は帰り道にあったカフェを指さしながらそういった。
どうやら蒼と親睦を深めたいらしい。
「わかった。せっかくならここで晩飯を済ませたいしな。」
「決まったなら行きましょう!」
神楽は笑みを浮かべると蒼の手を引いてカフェへと入って行った。
…………………………………………………………………………………………………
カフェに入って蒼と神楽は一通りの注文を終えた。
「蒼ってなんで普段は目立たないようにしてるの?」
いきなり神楽からの質問が飛んできた。
「別に目立たないようにしてるってわけじゃないよ。ただ、何もしてないだけ。」
蒼はすぐにそう返答した。
実際蒼の容姿は本人が自覚してないだけでかなり整っている。
「じゃあ、なんで陽炎月と関わってるの?」
純粋に疑問に感じたのか神楽はさらに質問をなげた。
「別に俺からかかわっているわけじゃない。一方的にあっちから来ているだけだ。」
「でも、蒼はそこまで嫌そうにしてなかったわよね?」
「まあな。一緒にいるのは楽しいし。そこまで不快ではないからな。」
蒼は淡々と自身が月に抱いている印象を語った。
「蒼はなんか変わってるね。」
「何が?」
「普通あんなに可愛い子に告白されたら浮かれちゃうのにそんな感じはないし、今私と付き合ってるのも仕方なくみたいだしね。」
ジト目で蒼を見ながら神楽はそういった。
「そんなことは、」
「いいよ。そんなのわかってて付き合ってるわけだしね。」
神楽は微笑みながらそういっていたが、その実絶対に惚れさせてやるという圧のようなものを発していた。
「俺からも聞きたいことがあるんだがいいか?」
「いいよ。何でも聞いて。恋はまずい互いを知ってから始まるんだから。」
「神楽は俺なんかのどこがいいんだ?接点なんかなかったと思うが?」
蒼はいつも考えていた。
なんで俺みたいな人間がこんなに綺麗で可愛い人たちから好かれているのか。
ずっと疑問でしょうがなかったのだ。
「もしかして覚えてないの?」
神楽は首をかしげながら少し悲しそうな表情をしていた。
(なんか、デジャブ?)
「すまない。何のことだか見当もつかない。そもそも俺と神楽は二年生になってから初めてあったはずだけど?」
「覚えてないのか~残念。」
少し大げさな素振りで神楽は残念そうに顔をゆがめた。
「あれ?もしかしてそれ以前に接点あった?」
蒼は本当に覚えていないように頬をかいていた。
「あったよ。去年の体育祭。覚えてない?」
はて?去年の体育祭、何かあっただろうか?
蒼は学校の行事に積極的に参加はしていなかったため、あまり内容を鮮明に覚えていなかった。
「覚えてないな。あんまり学校の行事に興味がなかったから。」
蒼は素直に覚えていないことを神楽に話した。
下手に言い訳をするよりもこうしたほうがいいと思ったからであろう。
「そうなの?てっきり私は結構行事とかが好きなんだと思ってたけど?」
「なんでだよ。」
「だって、体育祭の時の蒼は結構楽しそうに笑ってたじゃない。」
神楽は昔を懐かしむように語っていた。
その眼はとても大切なものを見ているかのような眼だった。
「ああ。なるほど。」
そんな神楽の言葉に蒼は納得したようにうなずいた。
「ほら、体育祭とかお祭りってみんなで楽しむものだろ?でも一人だけ不機嫌そうな顔をしていたら周りに気を使わせちゃうから笑顔を作ってただけだよ。」
蒼は少し顔を赤くしていた。
どうやらそこまで自分が見られていたことを恥ずかしく思ったようだ。
「なるほどね。蒼ってやっぱり優しいんだね。」
「やっぱりって何だよ。」
「いや、私も昔、蒼に助けられたことがあってね。それが蒼のことを好きになったきっかけでもあるんだ。」
顔を赤らめながら神楽はそう語ったのだった。
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