王都騒乱編

第4話

 姉さんが死んで、もう五年以上が経った。


 未だ時折胸の奥がグサっと刺さったような錯覚に陥る。僕はまだ姉さんの死を乗り越えることはできていなかった。


 その証拠にまだ僕はどこのクランにも所属していなかった。前までいた猛き爪フィールズは既に抜けている。姉さんのいないあのクランにずっと所属する気は毛頭なかった。


 故に今僕は王都の冒険者ギルドでソロで活動している。


 基本的に冒険者はクランに所属する。そのほうが何かと便利だったりするからだ。しかし稀にソロで活動する冒険者も現れる。その場合は冒険者ギルドからクエストを斡旋してもらう。


防御シールド


 そして今、僕はその斡旋してもらったクエストをこなしている最中だった。目の前からウルフが三匹飛び込んできたので防御シールドで防いだ僕はすかさず懐にあった短剣をそのうちの一匹の腹に刺し込んだ。


「ギャン!?」


 そして刺さったままの短剣を横に思いっきり振り抜き、傷口を大きくさせる。それに怯んだウルフの脳天に短剣をグサリと刺せば、すぐに死んだ。


 他の二匹に対しては防御シールドで逃げ道を塞ぎ、更にまた別の防御シールドを発動させて分断させる。


 そして無理矢理一対一の状況を作ってからそれぞれのウルフの相手をした。


「ふぅ……」


 無事に三匹のウルフを討伐できた僕は緊張の糸を切るように息を吐いた。やっぱり姉さんみたいな強力なアタッカーがいないと苦労してしまう。

 これくらいだったら姉さんなら秒で片付けられたのに……。


「……駄目だな、僕も」


 タンク故に、今まで剣などの訓練をしてこなかった弊害がここにきた。もちろん皆無という訳ではないのだが、それでもここまで酷いと笑ってしまう。


 姉さんみたいに戦えたら。


「っ」


 そう考えて僕は思わず頭を振った。それは考えないと決めただろう。

 僕はすぐに思考を切り替えてウルフから得られる素材を取った。少しでも綺麗にとらないと生活に影響が出てしまう。


 それを自前の次元袋に詰め込んだ後、すぐに移動を始めた。これ以上ここにいると他の魔物が近づいてくる可能性があるからだ。


 その後僕はまだ達成していないもう二つのクエストを難なくこなした。その二つのうち一つは薬草採集で、その薬草の群生地を僕は知っていたのですぐに必要分取った。


 そして残り一つのクエスト──ゴブリンの巣の掃討もすぐに終わらせた。


「ギャッ!?」


「……」


 最後の一匹を殺してすぐにゴブリンの耳を切り取り目玉を抉り取った。今回、ゴブリンの目玉を30個持ってくればクエストの追加報酬が貰えるのだ。


「帰るか」


 残っている魔力については問題ない。今でも後100回以上防御シールドは張ることができるだろう。だが肝心の攻撃力が僕にはほとんど無いため耐え続けることしかできないのだ。


 そんなどうでもいいことを考えながら森の中を歩いていると、結構歩いてきたのか、目の前に門が見えてきた。


「あ、お帰りなさい!」


 そして活動拠点にしている王都の冒険者ギルドまで戻ってきた。そしていつも懇意にしている受付嬢──エリナさんの元まで行っていつも通り素材を渡す。


「いつも綺麗な素材ありがとうございます!にしても、今気づいたのですが、もうサフェトさんがここに来て五年以上経ったんですね。最初はここに馴染めるか心配だったんですが、それも杞憂でしたね」


「うん。僕もびっくりだよ」


 確かに初めはただ適当にクエストをこなして生きていこうと思っていた。故にここに馴染む必要もないと思っていたのだ。でも今じゃあ僕も完全に王都の住人の一人となっている。

 姉さんがいなくてもできている僕にびっくりだ。


「……それじゃあ僕はそろそろ」


「あっ!サフェトさん!」


 僕はエリナさんにそう告げてから、クエスト報酬の銀貨23枚と銅貨30枚が入った袋を貰ってギルドを出た。そんな僕に対してエリナさんは何か言いたげな表情をしていたが……まぁどうでもいいだろう。


 どうせ暗い顔しないでとか、そう言ったことを言いたかったのだろうから。だがそんなことは無理だ。


 僕は今後この顔が晴れることは無いだろう。姉さんのいないこの世界はなんの意味もないからだ。だったらすぐに死ねばいいというだろうが、そうすると姉さんが悲しむのは分かりきっている。


 僕の意思は常に姉さんにある。


 故に僕は姉さんを悲しませてはいけない。きっと姉さんはそう言うだろうと分かっているから、僕は死ねないのだ。


 だが、こんなんじゃあもう死んでいると言っても過言ではないだろう。


 生きていく目標もない、ただ惰性で生きている。一応まだ自分のアビリティ──防ぐ者シールダーを日々強化するために、スキルである防御シールドの効果が適用される、防御魔法を中心に練習を繰り返しているが、きっと意味はない。


 それに加えて、このアビリティには新たなスキルが生まれていた。


 それは──反転インバース


 これに関してはよく分からないのでこれが生まれたあの時以降一度も使っていない。これの効果はあの時によく分かったからだ。


 きっとこのスキルはを可能にするものだ。


 人格の反転、アビリティの反転、そしてスキルの反転。


 その人を構成する全ての裏を見せる。それがこの反転インバースというスキルだろう。


 防ぐ者シールダーと言う名前のアビリティなのに、それとは関係のないようなスキルは生まれるとは……よく分からないものだ。


「ん?」


 と、僕がいつもの焼き鳥屋で焼き鳥を買おうとしていると、奥から何故かエリナさんが走ってくるのが横目で見えた。


「サフェトさん!」


「……どうしたの?エリナさん」


「緊急クエスト、受けてくれませんか!?」


 その時の僕は、これのせいで僕の平穏が崩れるだなんて知る由もなかった。

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