第18話 聖女様は運動神経抜群

 11月になり、かなり冷え込んだ学校の体育館の中に俺たちのクラスは授業をしにきていた。


「寒い……」


 俺は凍えるような声で呟いた。


 学生に着ることが許されたのは長袖のジャージ上下のみ。もちろんこれだけでは寒すぎるので俺はポケットのなかのカイロで手を温めながら体育を見学していた。


 男子と女子はそれぞれが別の種目をやっていてコートの半分で分かれている。


「にしても……寒いのによくやるな……あいつら……」


 男子の中には上下半袖半ズボンでやっているやつもいる。運動して暑くなるとはいえこちらから見ると寒そうで仕方ない。


 男子の種目はバスケでやはり熱くなってしまうのか試合中は怒号が飛び交う。


「今のでてねーだろ!」


「どう見ても出てただろ、どこに目ついてんだ」


「なんだと!」


 今にもつかみかかって殴りそうな勢いだがそこへ体育教師が割ってはいる。


「お前ら……俺の授業で問題起こそうって訳じゃないよな?」


「そ、そんなことあるわけないじゃないっすかー! なっ!」


「そうそう、俺たち仲良しですよ!」


 体育教師が注意しただけでさっきまで喧嘩しそうになっていた二人は今ではお互いに肩を組み合っている。


 こういうところが男子のいいところだよな。ちょっと暑苦しいんだけど。


 俺は男子を見るのをやめ、女子の方へと目を向ける。


 女子がやっているのはバレーボール。こちらはこちらで男子達とは違う盛り上がりを見せている。


「瀬戸さーん! 頑張ってー!」


「清華さん、かっこいい!」


「水瀬ちゃん、可愛いすぎー!」


 今行われているのは瀬戸さんと、清華さん、水瀬さんの三人1組のチームと、現役バレー部の人たち三人組の試合だ。


 一見現役バレー部三人組の方が有利そうに見えるが意外にも勝負は拮抗していた。


(すごい、あのバレー部達と互角に張り合えているなんて……)


 瀬戸さん達は三人ともスポーツ万能タイプで大体どの種目でもその圧倒的な運動神経の良さを披露してきた。


 三人とも部活の勧誘は沢山もらっているらしいが全て断っているらしい。


 そしてそうこうしているうちに決着が着こうとしていた。


「はぁっ!」


 バレー部の一人が放ったスマッシュが勢いよく床へ撃ち込まれようとした時それを水瀬さんが弾いた。


「ほい」


 そのままボールは清華さんの元へ


「真奈、決めて!」


 清華さんがネットの真上にボールを打ち上げた。


 そこへ瀬戸さんが走り込んで大きく飛んだ。


「これで終わり!」


 そして彼女が打ったスマッシュが勢いよく相手コートに叩きつけられた。


「やったー!」


「ナイスプレイ、真奈。」


「流石……真奈。」


「流石だね、瀬戸さん、私たちの完敗だよ。」


「いえ、バレー部の三人もすごく手強かったですよ。」


「ふふ、ありがとう。」


 そしてお互いが熱い握手を交わす。


 見ていてなんとも清々しく、スポーツマンシップに乗っ取った素晴らしい試合だった。


 まさかこんないい試合をタダで観れるとは……


 しかも全員美少女で目の保養にもめちゃくちゃいい。


 俺が得した気分でいるとバレー部の子が瀬戸さんに話しかけた。


「それにしても瀬戸さん運動後なのにすごくいい匂いだね。」


「ふふ、わかりますか? ちょっといい香油を使ってるんですよ。」


「へぇー珍しいね、瀬戸さんがそういうのつけるって」


「これは先日ある人にもらってそれでとっても気に入っているんです」


 瀬戸さん、ちゃんと使ってくれてるんだ……よかった。


 俺が安心していると清華さんがこちらを見てほっとしたような表情を浮かべていた。


『ちゃんと渡せたのね。』


確かにそんな声が聞こえた気がした。


「やっぱり聖女様可愛いなぁ」


「おいさっき氷姫が俺の方見てなかったか?」


「気のせいに決まってんだろ、それよりみんな運動神経良すぎじゃね?」


「お前ら……片付けの手が止まってるぞ。」


「「「はい! すぐに!」」」


 怖い体育教師の言葉に男子たちは急いでボールを拾いに散っていった。


「さて、俺も片付けくらいは手伝うかな。」


 そう思い立ち上がった時俺の前を瀬戸さんが通った。


 途中彼女はこちらの方を向くと優しく微笑んでくれた。


 彼女からはしっかりと俺が送った香油の香りがした。






 

 

 




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