第7話 武器に宿るテンセイシャ


 最後の街を出て、おれ達は一路魔王城を目指した。

遥か先に見える切り立った山脈。どうやらあそこから向こうが魔王領と呼ばれる場所らしい。

 

 咲耶は早く新しい武器を試してみたいようでアレックスよりも前を歩いていた。


「おーい、咲耶ー! あんまり先行くと危ないぞー!」


「へーき!へーきー!」


 咲耶が振り返り俺達に手を振った瞬間、頭上の太陽に突然影が射した。

すぐに空を見上げるとそこには翼を大きく広げた怪鳥が飛んでいた。


「コカトリスだ!」


 アレックスが叫ぶと同時に、甲高い鳥の鳴き声がこだました。


「気をつけろ! あいつは石化の――」


 そう叫びながらアレックスが前に出ようとしたその時、咲耶が弓を構え弦を引いた。すると屈強な男の姿が咲耶に重なるようにして現れた。


「あれってもしかして、呂布!?」


 マンガなどで見たものとは少し違っていたが、あれはどうみても「武将」といった佇まい。長髪を振り乱しながら弓を引き絞るその男は笑っていた。やっぱり呂布は歴史通りの戦闘狂だったんだ。そして咲耶も呂布と同じように笑っている。


「おい、おい、おい!」


 これは咲耶も戦闘狂になってしまったんじゃないか? なんだか笑い声まで聞こえ始めた。矢はつがえてなかったはずが、いつの間にか黄金の矢がシュンシュンと音を立てながら弓にセットされている。咲耶が右手をパッと放した瞬間、矢は光り輝きながら一直線にコカトリスの方へと飛んで行った。


「うわ……凄いね」


 テルマが思わずそう言葉を漏らした。

放たれた矢は見事魔物を射抜き、コカトリスはまるで蒸発したかのように消え失せた。


「おい! 咲耶! 大丈夫か!?」


 おれが慌てて駆け寄ると咲耶は呼吸を荒くしながらも笑顔を向けた。


「やばいよパパ。弓を引いた瞬間になんかパワーが漲ってきて……なんか楽しかった! 早く魔王城に行こう!」


「ああ……そりゃやばいな……」


 まさかこんなに危険な武器とは思わなかった。今取り上げようとしたら射抜かれてしまいそうだ。


「となると……まさかこれも?」


 おれは腰につけていた刀を見た。もしかして、これを使い続けてしまうと、おれの体は信長に乗っ取られてしまうんじゃなかろうか?そんな不安が過った時、再びアレックスが声を上げた。


「また来たぞ! 今度はゴーレムだ!」


 魔王城が近づいてきているからだろうか、魔物の数が多くなってきた気がする。

おれ達のわずか先に、今度はゴーレムが現れた。地面から迫り出すようにして大きな岩の塊が徐々に人の形になっていく。20mくらいあるだろうか? なんかお台場でこんなの見たな……。


「カッシー!いけるか!?」


 どうやらご指名だ。ここは腹を括るしかないな。おれは腰の刀を抜いて構えを取った。その瞬間、背中に信長の影が……現れることはなかった。握った感触は前に使っていたのと変わらない。もしかして信長に嫌われた?


 とにかく悠長な事を言っている時間はない。ゴーレムは地響きを立てながらこっちへと迫ってきている。


「うおぉぉおおお!」


 おれはゴーレムに向かって飛び上がりながら剣を振った。腹の奥の方から熱い何かが剣に向かって流れて行く。そしてその瞬間、刀が炎を纏った。これが魔力というものだろうか?


 そのまま袈裟斬りに刀を振り抜くと、まるでスポンジケーキでも切るように、いかにも硬そうなゴーレムの体をスッと切り裂いていった。一瞬結婚式のケーキ入刀を思い出してしまった。


 真っ二つに切られたゴーレムは切り口から炎をあげ崩れ落ちていった。


「なかなかやるではないか、お主」


 突然背後から声がした。ハッとして振り返ると誰もいない。


「まさか? 信長……?」


 おそらく声の主はそうとしか考えられない。


 ていうか出てくるなら戦闘中に出てきて欲しいのだが……。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る