第10話 レッツゴー東京

 というわけで俺たちは二人で旅行に出かけていた。

 高校生の男女二人で、東京旅行だ。

 普通の人間なら何かやましいことを考えてしまうシチュエーションだが、俺と真鈴の間には決してそんなことはない。

 お互いに全幅の信頼を置いているからこそできることだ。

 

「この旅行で、彼を……」

「どうかしたか?」

「いいや、何でもない。楽しみだね。東京旅行」

「ああ。まず手始めにスカイツリーに昇ろうぜ」


 楽しみだ。スカイツリーからは富士山が見えるらしい。ワクワクするなぁ。

 そんな俺たちは今新幹線に乗っていた。

 俺が通路側、真鈴が窓側の二人席だ。

 高速で流れていく窓の景色を見ていると、真鈴が微笑んでくる。


「どうかしたのかい?」

「いや、こうして窓の外の景色が高速で流れていくのを見てると、旅行をしているんだなぁって。思えてさ」


 旅行ではワープ装置を使わない人が多い。

 こうした移動という行程も、旅行の醍醐味だと考えている人は俺以外にも結構いるのだ。

 これが出張だとか物流輸送とか――旅行でも海外とか――などの少しでも時間を短縮したい場合はワープ装置は利用される。


 こういう利用者の使い分けによって、新幹線などの交通手段は今も現役なのだった。


「そろそろリニアモーターカーに変わるだろうね。そしたらもっと速く目的地に着くことができるよ」

「ワープ装置があるのにか?」

「君ならわかるだろう? ワープ装置だって、これまでの輸送・交通手段の完璧な代替手段になるわけじゃない。現に新幹線も航空機もまだ残っている。私の開発したワープ装置は人類に新しい選択肢を与えただけであって、他の選択肢を完璧に奪ったわけじゃないんだ」


 彼女の言う通りだった。

 ワープ装置は同盟関係にある各国の首都と、国内の主要都市をつなぐように存在している。

 これは大型のワープ装置は使用する電力が膨大であるために、都市部でしかその機能を賄えないためだ。なので、地方に向かう時や逆に地方から都市に向かう時なんかはこうして一般的な交通手段を使用する。


 他にもドクターヘリにも小型のワープ装置が備わっており、病院と直通となっている。大規模災害の時なんかに役立つ仕組みだ。

 実際これによって救われた命は多く存在している。真鈴の名声の要因の大きな割合を占めているだろう。


 後は軍用のワープ装置も存在しているらしい。

 らしいというのは、ワープ装置の軍事利用は基本的に条約で禁じられているからだ。しかし国家というモノは自らの国力増強のためならばあらゆる手段を講じる共同体だ。

 極秘裏に開発をされているだろう。嫌な話だ。

 

「しかしやはり乗り物というのは良いね。大きな生物に包み込まれているような感覚になる。何だか安心感があるよ」

「なるほど。そういう考えもあるのか。そういえばずっと聞きたかったんだけど、どうしてワープ装置を作ったんだ?」


 俺がタイムマシンの基礎理論を作り上げたのは寂しかったのと、亡くなった両親に会いたかったからだ。彼女はどうしてワープ装置なんてものを作り上げるに至ったのか。


「なんかできるかな、って思って作ったら何かできた」

「……かるぅい」

「い、いいじゃないか! 私の知的好奇心に従っても!」

「良いけどさ。世紀の大発明の動機があまりにも軽くないかなって思って」

「しょうがないじゃないか。研究所のみんなが大絶賛してくれたんだ。あの頃の私は少し調子に乗ってたよ」

「調子に乗っている真鈴か」


 想像したら可愛かった。俺も見てみたい。

 そう考えていると新幹線のアナウンスが聞こえてきた。

 

「お、そろそろつくな。降りる準備をしないと」


 二人分のキャリーケースを上の荷物入れから下ろして、そのまま引きずっていく。


「ありがと、私のも持ってくれて」

「いいってことよ」


 というわけで東京に到着である。



 □



「たけぇ……」

「凄い景色だね……」


 俺たちの目の前には真っ青な天空と、雑然とした地上がミニチュア感覚で存在していた。

 壮観な景色だ。

 こういう景色を見ていると、ゴジラみたいな大怪獣になりたくなっている。

 別に人を殺したいわけじゃないが、この精緻で綿密な街並みを叩き壊せたらある種の爽快感があるだろう。

 まあできないし、やらないが。


 いや、真鈴に頼んで巨大ロボットを作ってもらって、俺の財力で無人の街並みを作ってもらえばできるか?


「なんだか変なことを考えてそうな顔だね」

「ばれたか」


 というわけで少女に滔々と説明してみる。そした呆れられた。当然である。


「念のため言っておくけど、私はそんなことには頭脳を貸さないよ」

「分かってるって。巨大ロボとか憧れるけど、軍事利用されそうだしな」


 俺たちは基本的に兵器類の開発や理論提唱はしないようにしている。

 ワープ装置もいくつかの条件を設けた上で、使用そのものに制限をかけている。こうすることによって戦争を抑止しているのだ。

 というか俺たちが下手な頭脳の使い方をすれば、それだけで第三次世界大戦が起きてしまう。


 実際俺の頭の中には、戦争という概念を一変させるような兵器類のアイデアがいくつか存在している。

 だが、それを表に出すことは一生ないだろう。

 核兵器を作り上げた人間にきっと罪はない。けれど罪の意識は感じてしまうだろう。

 だから俺たちは兵器類は造らない。

 ソレが俺たちの良心だ。


「私たちの優れた頭脳はきっと、世界をより良くするためにあるんだよ。その報酬として、自分個人の幸せを追求することに有利になっているんだ」


 私やキミの巨万の富なんか、ね。


「まあ、この脳みそのおかげで厄介ごとに巻き込まれることも多いけどな。何だよ、国外移動制限条約って。移動の自由を侵害しているだろう」


 俺たち専用にいくつかの条約が存在している。

 そのうちの一つが国際連合の承認がない限り、国外に移動できないという条約だ。

 これは俺たちが日本から亡命して、兵器類を自由に開発できる――人体実験なんかを平気でやる――要警戒国家に移動しないようにするためらしい

 

「仕方ないよ。私たちは驚異的な頭脳を持っているんだ。人から見れば脅威だろう」


 と言いながら少女は俺の指にその白魚のような指を絡めてくる。

 俺はソレを握り返した。特に理由はない。何か握ってほしそうだったからだ。


「どうかしたか?」

「……何でもない。このまま行こうか」


 嬉しそうな、少し悔しそうな、そんな微妙で絶妙な表情を浮かべた少女と、俺は手を握ったまま歩き出した。

 彼女の手は小さく、柔らかかった。

 

 

 □



「カップルさんですか? お安くなっていますよ!」

「じゃあここに入ろうか」「そうだな。あとカップルではないです。親友です」


 そう言って俺と真鈴はカフェに入っていく。

 窓際の席に陣取って、俺たちは三時のおやつを注文していく。

 こういう場所は男子の俺だけだと入りづらいので、女子である真鈴がいてくれて本当に良かった。

 親友と一緒に食べるスイーツは絶品だった。

 問題は運ばれてきたドリンクだった。


「「これは……」」

「カップル特製ドリンクです!!」


 ストローがハートを描いていた。

 そして二人分の飲み口があった。

 そしてソレが一つの巨大なドリンクに刺さっていた。

 店員さんはサムズアップをしながら去っていく。こういうのを余計なお世話というのだろうか。


「もう一個頼むか?」

「何だい? ビビっているのかい? それとも恥ずかしいのかい? 私と間接キスするのが」

「いや間接キスよりもっとヤバい何かだろこれ」


 思わず俺は早口になってしまう。

 そんな俺を知った事かと言わんばかりに、真鈴はストローを咥える。


「ああ、これ二人一緒に吸わないと、吸えないみたいだ。親友、よろしく頼むよ」


 真鈴はめちゃくちゃ上機嫌だった。

 俺はめちゃくちゃ恥ずかしかった。

 解せぬ。


 ちなみにパンケーキとドリンクはやたら甘かったような気がした。


――――


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