オスかメスかも分からない寿司が回る回転寿司屋さんは、そこはかとなくエロい気がする(1/2)

「フ。という訳で今日は寿司よ。お代は全てこの下冷泉霧香が出すから遠慮せずに高級魚を貪り食べるといいわ」


「寿司と言っても回る方の寿司のように見えるのは私だけか?」


「フ。そういう茉奈さんの目はさっきからチラチラとレーンの上の寿司にずっと向けられているようだけど?」


「アレが気にならない人間がこの世にいるとで? 見ているだけでワクワクするじゃないか! なんだアレは! 知識としては知っていたがこうして直に体験出来るとは夢にも思わなかった!」


「フ……ストップ。音量下げて茉奈さん。回ってる寿司に飛沫が飛ぶ」


「おっと、済まない。私としたことがつい」


「フ。まずは手でも洗って落ち着きなさい。ほら、あそこに蛇口があるでしょう? あそこから熱いお湯が出るからそれで手を洗ったら駄目。おしぼりやお手拭きでちゃんと洗いなさい」


「霧香先輩⁉ そんな冗談をもし茉奈お嬢様が信じて火傷したら――あ、れ? あれ? 普通に真面な事を言ってる……? 霧香先輩なのに……?」


「フ。唯お姉様の中での私のキャラってどうなってるの」


 下冷泉霧香からの提案で寿司屋に――まぁ、実際のところは庶民御用達の飲食店である全国チェーン展開されている回転寿司屋に赴いた僕たち4人はテーブル席に座っていた。


「……百合園女学園学内3大美女に囲まれてる私って、もしや今が全盛期なんですかね……?」


「大丈夫だ、安心したまえ。あぁ、安心したまえよ水無月潤。ほぉら、あそこにキスが流れてきたぞ、美味しそうだなぁ、本当に……なぁ? そうは思わないか? なぁ?」


「ごめんなさい許してください、本当にアレは出来心だったんです……!」


「フ。……さっきから茉奈さんが潤に向ける視線が怖いのだけど、唯お姉様は何か心当たりがあるかしら? あったら是非とも聞かせて欲しいのだけど」


「話したら色々と不味い事になるのは分かりきっているので僕はノーコメントです」

 

「フ。久々の放置プレイでゾクゾクする」


 ちなみにテーブルの座席としては、レーンの近く側に座っているのが、茉奈お嬢様と霧香先輩。


 外側に座っているのが僕と水無月さんで、水無月さんの横には霧香先輩であり、茉奈お嬢様の横に僕が座っているという図式である。


 僕はいつも通り、寮でやっているように人数分のお冷にお茶やおしぼり、そして割り箸などを用意している間、茉奈お嬢様と下冷泉先輩はいつもの様子で口喧嘩のようなやり取りを行っており、その間に水無月さんも臆する事なく入っていた。


 どうにもこういう店に行き慣れているのであろう水無月さんはいつも通り飄々とした態度のままのんびりとしており、茉奈お嬢様に関してはいつも通りの素を隠し切れないぐらいに興奮しているの予想通りであったが、下冷泉霧香に関しても意外な事に――少々。本当に少々。いつも見ていないと気づかないぐらいの差――興奮していたのであった。


「茉奈お嬢様と下冷泉先輩は普段こういうお店に行かないんですか?」


「実を言うと私はこういう場所に行った経験に疎くてね」


「フ。右に同じ」


「というか私たちは基本的に回らない寿司しか食さなかったものでな」


「フ。回転寿司なんて実を言うと生まれて初めてなのよね」


「……うわぁ、金持ちだなぁ……。私みたいな庶民は回る寿司しか食べたことありませんよ」


「意外ですね。水無月さんは1人暮らしをなさっていましたからご実家はてっきり金持ちなのだとばかり」


「フ。潤のお父様は確か映画監督。よく私に映画業界入りしないかってよくお誘い頂いているわ。まだ私は学生だからっていう理由で断っているけれど」


「へぇ、映画監督ですか。となると、演劇部で脚本をやっているのもそのお父様の影響で?」


「まぁ……無くはない、とは言えませんかね」


 水無月さんも世間一般で言う所の勝ち組であったのは意外だったが、それでも百合園と下冷泉の家の彼女たちに比べたらまだ常識的な範疇にあった。


 流石は超が付くほどのお嬢様2人だ。


 回転寿司ではなく、回転しない寿司しか食べた事がないって人生で一度は言ってみたい台詞を厭味もなく言ってのける彼女たちではあるが、本当に言葉通りの意味であるらしく、生まれて初めて回転寿司に行った彼女たち2人は目を子供のようにキラキラとさせてレールから流れてくる寿司が乗った皿を眺めているのだった。

 

「あ、僕はとりあえずマグロを注文しますね。水無月さんは大丈夫でしょうけれど、お二方はタブレット端末での注文は不慣れでしょうから僕がやりますよ」


「でしたら部長の注文は私がやります。茉奈パイセンの注文は菊宮パイセンにお願いしますね」


「助かります、水無月さん。さぁ、お嬢様は何を頼みますか?」


「私はあそこにかいてある期間限定のフルーツ盛り合わせパフェを3人分とチョコケーキを3つ。それからチーズケーキを2つにメロンパフェを2つ」


「回転寿司屋のバイトを殺すつもりですかお嬢様。こういうチェーン店でパフェを作るのは本当に時間が掛かるんですよ。回転寿司に行って楽しんでいるところに水を差すようで悪いとは思いますが、まずはどれかお1つに絞ってから注文なさってください」


「むぅ……じゃあメロンパフェ2つ」


 回転寿司屋に来ていきなりパフェを、しかも2つ頼むって。

 僕はそんなお嬢様に何か言ってやってくださいよ、と言わんばかりの視線を反対側の席に座っている霧香先輩と水無月さんに向けてみた、のだが。


「フ。私はラーメンと茶碗蒸しを1つずつお願い」


「部長。生まれて初めて回転寿司に行った人がどうして寿司を注文しないんですか。頼みましょうよ、寿司。人生初の回転寿司なら寿司食べましょうよ寿司。まぁ、頼みますけど……ラーメンの種類はこれでいいんですよね?」


 ……あぁ、水無月潤は僕と同じツッコミ側の人間であるという事に心の底から安心した。


 霧香先輩は世間というモノをよく知っているからか計画的にボケるのだけど、茉奈お嬢様に関しては天然モノというか……とにもかくも彼女は世間知らずだったりする。


 なので、こういう所に来れば、僕はツッコミで過労死すると思ったのだけど、僕の代わりにツッコミをしてくれる水無月潤がいてくれて本当に助かる。


 それはそれとして、茉奈お嬢様は相変わらず自由奔放だった。

 何だかんだで彼女は2つだけ頼むと言ったメロンパフェに加えて、期間限定のフルーツ盛り合わせパフェ2つも追加注文していたぐらいには自由だったけど、もうとやかく言うのも疲れるので無視する事にした。


「寿司を食べろと言われてもだな……私は別にそこまで寿司に思い入れはない。寿司は銀座とかで飽きるぐらい食べた」


「フ。下冷泉本邸にお抱え寿司職人がいるから私もそういう憧れは別にない」


「なんで回転寿司屋に行こうと提案したんですか霧香先輩⁉」


「フ。面白そうなのに行った事がなかったからよ。あら、ここには私の好物のマツカワガレイがないのね」


「部長。それ超が付くほどの高級魚じゃないですか。こんなところに回ってる訳がないでしょ」


「ん? レーンの上に宣伝が流れて……ほぅ、1000円でマグロの高級盛り合わせか。1000円という安値で高級と謳うのは興味を惹かれるな。よし頼むとしよう、5人分……いや、健康診断前だからダイエットしないとな。ふふっ、3人分食べよう」

 

「茉奈お嬢様に関してはダイエットの意味を調べ直したらどうなんですか⁉」


「フ。唯お姉様、周囲のお客様にご迷惑だから大声を出さないで。あ、私のラーメンが来たわね、それ取って貰えるかしら茉奈さん。皿が汚さないようにそこの蛇口で手を洗うだなんてせずにそのままラーメンの容器ごと取って頂戴」


「だから霧香先輩――普通の事を言ってるぅぅぅ……! なんで蛇口を言葉にしたんですかぁ……⁉ ついつい反応してしまう僕の身にもなってくださいよ……! 茉奈お嬢様はそういう冗談を本当に信じちゃうような人なんですよ……⁉」


「菊宮パイセン。部長はそういう冗談を簡単については吐くような人ですんで……」


 そうこうしている内に店員がラーメンが入っているような容器を持ってきて珍しいなと僕が目を見張っていると「それ私のです」だなんて、水無月潤がそう言葉にするのと同時に彼女は丼ものの容器を受け取ったのだが……不思議な事にその容器は空であった。


「おや? 菊宮パイセン、さてはモグリですね? こうしてテキトーに流れてくる寿司の皿を取り、シャリだけを丼に敷き、その上にネタを載せれば……の出来上がりです」


 手慣れた動作で海鮮丼を作ってみせる水無月潤であったのだけど、今は素直にそういう発想があったかと感心してしまった。


 なるほど、回転寿司屋に来たら大体流れで寿司をそのまま食べるのだけど、彼女みたいに好きなネタや気になるネタだけをかき集めて、ミニサイズの海鮮丼を作ってみるのも普通に楽しそうではある。


 マグロにカツオに、イカ。

 白身魚の刺身に甘エビなど盛り付けて、その上から寿司にかける醬油や甘ダレにわさび等をかけている様を見てしまうと、ついつい彼女がやっている事を真似したくなってしまう衝動に駆られてしまった。


「とはいえ、この食べ方をするぐらいなら普通にそういうお店に行った方がいいんですけどね。盛り付けはやっぱりプロの方が美味しそうなんで」


 まぁ口にしてしまえば何でも一緒でしょうけどね、だなんて言葉を口にしながら、水無月潤はがつがつと豪快に海鮮丼を実に美味しいと言わんばかりに貪っていた。


「ん、美味い。自分で作る海鮮丼っていうのも中々に乙なものですよ。ご飯がシャリである関係上、熱々だったり冷めたご飯ではないのが玉に瑕ではありますが……シャリで食べる海鮮丼もこれはこれで」


 因みにその海鮮丼を茉奈お嬢様はとてもキラキラした表情で見つめていたものだったので、僕はメニューから空の容器を出すように店側にお願いして、茉奈お嬢様にその丼の容器を渡すと手当たり次第に流れてくる寿司をかっさらっては3人分ぐらいの量はあるであろう海鮮丼を贅沢に作りあげたのであった。


「あの、お嬢様? パフェ4つ頼みましたよね? 食べきれないのでは?」


「ふふ、安心したまえ唯。百合園一族たる者、これぐらいの量は朝飯前だ」


 聞いていて眩暈がしてきた。


 一応、会計は霧香先輩のポケットマネーという事で話は決まっているのだけど、常日頃の恨みつらみが重なった所為なのか、あるいはそんな事を一切考えていないのか、お嬢様はとにもかくも高級皿を遠慮なく取っては海鮮丼のおかわりをどんどん作り上げているまである。


 というか、食しては寿司を補充するという地獄のサイクルが回り初めており、茉奈お嬢様のお手製海鮮丼は減っては増え、増えては減る……という普通の海鮮丼では到底見られないような光景を作り出していた。

 

 わんこ蕎麦感覚で海鮮丼を食べないでくださいよお嬢様、だなんていう言葉が口から出かかったけれど、それは口に出さない事に決めた。


「フ。噂には聞いていたのだけど回転寿司屋さんのラーメンって意外と美味しいのね」


「あー。それ分かります分かります……というか、部長がラーメンをずずっ、って啜って食べているという絵面だけでも意外です。いや、ラーメンは別に啜っていいんですけどね」


「ところでどうして寿司屋にラーメンが当たり前のように回っているんだ? 寿司屋だろう」


 まぁそれは僕も何度か疑問に思った事はあるけれど、寿司屋のラーメンは何だかんだで美味しいから別に考えなくてもいいやって個人的には思ってはいるけれど!


 あぁ!

 美味しそうにラーメンを啜る下冷泉霧香を見ていると僕もラーメンが食べたくなってきて、ついつい手元にあるタブレットで彼女が口にしているラーメンと同じ商品を追加で注文してしまった!


「ところで唯。あのラーメン美味しそうだから私にもアレを1つ……いや3つお願いする」


「……どれだけ頼むおつもりなんですか、お嬢様」


「フ。ところで潤。あの豚肉が乗っている寿司は何? アレ、本当に寿司って呼称していいの? どう見てもアレは魚じゃないわよね?」


「回っているんですから何でもかんでも寿司ですよ寿司。美味しければ何でも寿司なんですよ、回転寿司は」 


 そんなこんなで僕たちは好き勝手に注文し、好き勝手に飲み食いをしていた。

 当然、美味しいモノを味わう為に舌を使えば使う程、勝手に口というものは軽くなるもので、何だかんだで僕たちは仲良く食事をしていたのであった。


「ところで唯お姉様は好きな寿司のネタって何?」


「僕、ですか? 僕はえんがわが好きですね。後、かわはぎも好きですね」


「フ。意外と渋め。茉奈さんはどういうネタをよく食べるの?」


 この変態は何だかんだでこういう場においてよく自分から率先して話を切り出すけれども、それは恐らく会話が詰まって空気が気まずくなるのを防ぐ為だとかそういう意図があるのだろうと思うと、この人は何だかんだで僕たちよりも年上で案外しっかりしているんだなぁ、と感心していると、茉奈お嬢様はいつものようなクールな表情で自分の好きなネタを口にした。


「私か? 私は……そうだな、が好きだな」


 下賤な事を一切考えていないであろう笑顔でそんな言葉を口にするのと同時に、下冷泉霧香と水無月潤が全く同じタイミングで咳き込んだ。


「ブホッ。……ごほっごほっ……フ。上級者ね」


「……ここでアワビかぁ、若干天然は入っている茉奈パイセンは怖いなぁ、赤貝じゃないだけまだマシかぁ……」


「……? いきなりむせてどうしたんだ下冷泉先輩に水無月さん? それから唯もどうしてそんな目で私を見る? アワビ、美味しいだろう?」


「い、いえ……何も、別に何も。ですのでどうぞお嬢様はお気になさらず……」


 怪訝そうな表情で僕たちを交互に見てくる茉奈お嬢様であるのだが、卑猥な知識を持っているのであろう下冷泉霧香はともかくとして、まさかこの僕までもがあんな反応を取ってしまうだなんて色々と迂闊だった。


 何はともあれ、これは僕が思春期だからなのだろうけれど……女の子がアワビって口にするのってなんか……エロかった。


「……」


 そう言えば、僕は先日このお嬢様と一緒に全裸になってお風呂という余りにも衝撃的すぎる事実を思い返すだけでも、色々とモヤモヤしてくると言いますかムンムンしてくると言いますか。


「フ。今思ったのだけど、魚や肉たちが雌雄問わずにこのレールで運ばれていくって何だかんだでエロいのだと私は気付いてしまったわ」


「うわぁ、随分とマニアックな趣味してますね部長」


「フ。ほらアレをご覧なさい」


「エビですね」


「あの尻尾、まるでツインテールじゃない。しかも赤髪の。アレ絶対に典型的なツンデレヒロインよ、萌えるわね」


「男の可能性もありますけどね」


 水無月潤がそんな事を口にしたものだから、実は男である僕は思わずラーメンを啜りながら咳き込んでしまったが、何だかんだでこの食事中で僕が男性であるという事はバレずに済んだ。


 因みに最終的な合計金額は2万ぐらいを超えていて、主な原因は茉奈お嬢様の所為だったりした。





~後書き・お知らせ~

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