第13話 煽り文化は異世界にもある

 龍の横っ面にドロップキックをかますという、神話の登場人物のような蛮行をしでかした影は、ドラゴンと共に私の視界から消えていった。


 なにやら黄色くてひらひらしたものが見えたのだが、あれは恐らく、衣服の類であろう。


 私は、その影に、衣服を身にまとうという文化的シンパシーと、ドラゴン相手にステゴロを仕掛けるという異文化的恐怖を同時に感じた。


 さすがに窓を開けるのは怖いので、ガラス戸に顔を近づけて、ドラゴンが倒れていった方向を見る。


 いた。


「GRRRRAAAAAAAAAAAAA!」


 片方は、体勢を立て直して威嚇の声を上げるドラゴン。


「khhhhhhhhh!」


 そしてもう片方は、明らかに私と同じ、直立二足歩行霊長類の姿であった。


 そいつは、頭に角ばった黒い帽子を被り、白い線の入った、黄色いぶかぶかの服を身にまとっていた。


 帽子の隙間から伸びる長い髪は、雪景色を思わせる白銀である。残念ながら、顔ははっきりと見えなかった。


「dreaz! dreaze! dreaezee!」


 そいつは、ドロップキック後、五階という高さから着地したというのに、痛がる素振りも見せずに手拍子しながら小粋なステップを踏んでいた。


 非言語コミュニケーションというものは、異世界であろうと、ある程度は通じるものらしい。


 なんとなく、それが、ドラゴンに対する煽り行為なのだということがわかった。


「どうやら、えらく血の気の多い者のようだ」


 一見しただけで生物としての格の差というものを感じるドラゴン相手に、真っ向から単騎で挑むのは、私からしてみれば正気の沙汰ではない。


 相当な実力者か、それともただの阿呆か。


 私の見立てでは、それらが4対6の割合でブレンドされている。


「hun ron! ma wae mame so hean tu! kyu ko sho,shica mora dlie bean!」


 割合が阿呆に傾いているのは、そいつの煽り行為が止まるどころかエスカレートしているからだ。


 もはや小粋なステップ通り越して、舞を披露しているかのように見える。


「ZIEAGAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 これにはドラゴンくんもお怒りだ。


 再び胸を膨らませ、煽り野郎に炎のブレスを吐かんとしている。


 さて、異世界の住人は、この迫り来る危機的状況をいかに対処するのかと、私は期待していたのだが、意外。


 そいつは、特に何の予備動作も取らず、自信満々に突っ立っているのみであった。


「おいおい」


 ドラゴンの口から、放射状に炎の息が放たれる。


 防御の体勢を取るなり、避けるなりしないと、人の形をした炭の出来上がりだぞ、と危惧していた私だったが、


「Yue Xia Du Zhuo!」


 その心配は杞憂に終わった。


 なにやらえらく耳に残るフレーズを発したその人影は、拳を突き出し、その拳圧のみで、ドラゴンブレスを吹き飛ばした。

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