第2話 シリアスをエロギャグで塗り替えることなかれ、ただしシリアスを塗り替えたい場合を除く

※人によっては不快感を覚えるシーンがございます。

次話で説明が入りますが、ご注意ください。






「あ”~、ようやくもどってごれだぁ~……」


オルトロスとケルベロスの群れを倒してからおよそ5時間、みずなを背負うのは早々に諦め、魔法で精製した台車の上に乗せてガラガラと引きながら坂を上ったり階段を上ったり迷路で迷ったり———主に体力面で多大な負担を負いつつ、なんとか失神トラップと落とし穴のコンボが設置されている隠し扉まで戻ってくることができた。


もちろんみずなはその間ずっとすやっすやの笑顔だ。一応声をかける程度の気遣いすらしなかった俺が悪いことは重々承知しているが……いや、うん、俺が悪い、俺が悪いのだ。


・疲労困憊で草

・ドチャクソ推せる見た目から放たれる母親からすら聞いたことない疲労ボイスたすかる


とまぁ、こんな死屍累々の状態であってもここはダンジョンなわけで。


「GRUUU!!」


特に俺がいかにも疲れていますといった雰囲気を出しているのが悪いのだろうか?出るわ出るわ、どこからともなく大量のハウンドが次々に襲い掛かってくるのだ。


「ぐわあああめんどくせぇええ……」


配信中という訳でもないし、普段なら絵面がグロいこと以外に欠点がない自分を人間砲弾にする魔法で敵の真ん中を貫通することも出来るのだが———ここでも問題になるのはやはりみずなだ。落とし穴の時は何とかなったものの、人間砲弾に限らず俺の魔法は基本ソロ用であり、もし2人分同時に使用するとなるとどんな挙動が起こすかも分からないため、やらなきゃ死ぬような状況以外ではやりたいようなものでは無い。


「……」


・ついに独り言すら喋らなくなってしまった

・3秒後には死んでてもおかしくなさそうな表情なのにモンスターはしっかり殲滅してるのさすがや

・爆発音に足音と車輪の音、なるほど、これがASMR配信というやつですか


黙々とモンスターを倒し続け、見覚えのある道を来た時とは逆から遡っていくことおよそ30分程、人が縦2人横4人程入りそうな扉の先に、少し古い作りの民家の内装が目に入る。


「ようやく出口だぁ〜……はぁ、油断してても流石にわかるっつーの舐めんな雑魚が」


・口わっる

・酒場で飲んだくれてる元凄腕の冒険者?

・5〜60年後にあたしゃまだまだ現役さねとか言ってそう


気が抜けた瞬間を狙って背後から首筋を狙って奇襲を仕掛けてきたよく分からないのの首筋に逆に短剣を差し込み、ようやくダンジョンから脱出することに成功した。


「あ"〜……う"あ"〜…………」


ダンジョンを出てなんと徒歩6秒、驚くほど立地のいい仮眠所———というか、この民家にもともと設置してあった寝室にカギを取り付けただけのモドキともいう———のベッドの上、のたうち回りながらうめき声をあげる者がおったそうな……というか、俺のことである。台車という道具を使ったとはいえ、人一人を運んだ負担はさすがに大きいらしい、みずなが目覚めるまでの少しの時間待っていようと思っていただけなのに、その数十分の時間でもう肉体がいまさら悲鳴を伝えてきた。


いやもう本当に痛い、仲間を見捨てて逃げ出す時の心もここまでは痛くないだろう。ガチで痛い、ヤバい、ホンマに痛い……うん、寝よう。みずなが目を覚ましたら多分俺のことも起こしてくれるだろう、というか起こしてくれないとしても寝たい、それくらい痛い……うごごごごご……。




〈《》〉




「んんぅ~……んぃえ!!??……あれ?休憩所……夢……?」


・お、起きた

・隣みてみ

・隣に白雪ちゃんおるで

・おめでとう、これからはみずみずも金盾保有者の一人や


「あれ?配信ついてる……金盾?隣に……雪ちん……?……!!??」


どったんばったんどんがらガッシャーン、と、擬音にするとこのような感じだろうか?驚いた人の典型のようなリアクションは、動画的に見ればこれだけでプチバズが狙えなくもないちょっとしたネタである———が、今の彼女にそんなことを考えている余裕はない。


それもこれも、隣のベッドに眠る白雪の(普段の様子からは想像もつかない)無垢で気の抜けた寝顔———ではなく、それとは裏腹にその美しい銀髪を汚している返り血や土埃が、己の知らないうちに激戦を繰り広げたことを嫌でもというほどに伝えてくるからである。


「あ、あ~マイクテストマイクテスト、配信に音乗ってるかな?」


・てかみずみずからは配信ついてるの認識できるんやね

・きこえてるよ~

・全然音乗ってないよ~マイクテストマイクテストって言ってるのも聞こえないよ~


「いやそれ絶対に聞こえてるやつじゃん!!……いやいや、今はそんなことどうでもよくってさ……これ、どういう状況……?」


・いろいろあったというか・・・

・とりあえず白雪ちゃんの名前がトレンド1位になってるからいいねが多いのを何個か見てきなさい

・説明するとなるとムズイよなぁ


「トレンド1位!!??え~っと、くろーすのトレンドトレンド……あった、どれどれ~?」


軽い雰囲気で再生ボタンを押したのに、少しずつ表情が真剣になっていき、そのまま2周、3周………………


「………………」


・無言で草

・まぁ・・・あれ見たらしばらく言葉なんて出なくなるよな・・・

・めちゃくちゃリピートしてて草


たっぷり二桁は同じ動画を見続け、さらにしばらくフリーズからの再起動に時間をかけてから、ようやく一言ぽつりとつぶやいた。


「よかっ、たぁ……」


・そりゃ二人とも生存できたわけだしな

・後でちゃんとお礼言えよ

・さすがに茶化す気にはならんなぁ・・・


「それもあるけど……そういう事じゃなくて、さ」


彼女の配信にしては珍しく、というか年単位で見ることのないコメントに感化されたのだろうか、顔が見えない相手から贈られた言葉に対して、普段のおちゃらけた表情とは異なった顔で、少しずつ言葉を重ね始める。


「私はね、死にたくは無いけど死ぬ覚悟は出来てるんだよ。でもね、白雪ちゃんは違う。あの子は死ぬ覚悟がない。だからエロトラップダンジョンに潜ってるって、自分でも言ってた」


「だからね、私のせいであの子まで死ななくてすんで本当によかった……助けられた私が言っていいことなのかは分からないけどね」


そこまで話して、コメント欄が沈黙していることに気づいたのだろう、彼女は慌てたように表情を切り替える。


「やば!キャラじゃないこと言ったから今のとこオフレコね!」


・いや・・・えぇ・・・

・この空気感でそれはさすがになぁ

・俺らでもその辺はさすがにわきまえてるというか・・・


「ふーん、そっちがその気ならこっちにも考えがあるよ」


・この空気は多分何をしても変わらんぞ

・今日は白雪ちゃんが起きるまで反省の意味を込めて空気感お通夜配信やれ

・待ってなんかすごい嫌な予感するんだけど


「倫理フィルターMAX!施錠確認ヨシ!水樹みずな、人生初の睡眠姦にチャレンジします!」


・おい待てそこのバカ

・命の恩人に襲いかかるのはもはや正体を隠してた山賊なんよ

・どうして配信オンの状態でおっぱじめようとしてるんですか・・・?


「ふへ、いっただっきまぁ〜す!!」


・なんも見えん・・・がやばいことだけはわかる

・ロリコンを公言するならNOタッチまで実践しろ

・ヤるんだな?いまここで・・・!じゃないんよガチで逮捕されんぞロリコン


「え、白雪ちゃん淫紋入ってるんだけど……あ、でも膜もある!篩みたいなタイプなんだ〜」


・寝てる間にとんでもない情報を公開されるのもはやただのテロとしか言えない

・淫紋入ってるの!!??

・[このコメントは削除されました]

・一応エロトラップダンジョン配信者だし多少はまぁ・・・いやごめんどう考えてもライン超えだわ全裸土下座配信しろ


もはや暴挙としか呼ぶことの出来ない所業に、にわかにザワつくコメント欄、そして、体をまさぐられている感触で目を覚ました被害者しらゆき……。


「あ〜っ、と……お前は一体何をしてるんだ……??????」


「あ」


・あ・・・

・あっ

・あ

・あ

・あ〜

・あっ

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