第17話 設定の崩壊

 魔法の指南役ナルシッサが大きな声を上げた。


 それは、俺が全ての属性の中で最も希少な闇属性の魔法適性を見せたからだ。


 しかし俺のほうがよほどびっくりしていた。


 ——なぜ俺が本来のヴィルヘイムが使えなかった魔法を使えるんだ!?


 脳裏を過ぎったシンプルな問いに、パンドラが答えた。


 曰く「パンドラと契約したことで魔法適性が変化した」と。


 ——そんな馬鹿なことがあるのか!?


 俺は何度も何度も驚きに目を見開くが、事実として俺は闇属性の魔法を発動させた。


 魔法が発動するってことは間違いなく俺に闇属性の適性がある証拠。


 おまけに他の属性は使えなくなっていた。


 手のひらに浮かぶ闇色のオーラを見て、俺は冷や汗が止まらない。




 ▼△▼




「いやあ、まさかヴィルヘイム様があの闇属性の適性を持っているだなんて! わたしは初めてヴィルヘイム様の指南役に選ばれてよかったと思えました!」


 俺の手のひらに浮かぶ闇色のオーラを見て、ナルシッサが失礼なことを言う。


 彼女の視線は俺の魔法に釘づけだった。


 ナルシッサは重度の魔法オタク。希少価値の高い魔法を見て興奮が隠せていない。


 やや血走る彼女の視線から魔法を消し去り、


「黙れナルシッサ。俺はいま、混乱しているんだ……」


 と踵を返す。


 訓練どころの話じゃない。


 これまでパンドラとは魔法ではなく魔力の制御しかしてこなかった。


 まさか魔法適性が変わっているとは……。


「どうして混乱を? 魔法適性が闇だったからですか?」


「ああ」


「でもおかしな話ですね……先ほどヴィルヘイム様は、四つの属性に適性があると仰いました。ヴィルヘイム様の性格からして嘘を吐くとは思えない。しかし、急に魔法適性が変わるわけもないし……はて? どういうことでしょう」


 ナルシッサの疑問が飛ぶ。


 そんなことは俺が知りたいくらいだった。


 原作にも魔法適性が変わったキャラクターは存在しない。


 出てきていない可能性もあるがどちらにしろ俺が知らないということに変わりはない。


 パンドラが起こした影響があまりにも大きすぎてまともに思考が回らなかった。


 じろりとパンドラを見ると、彼女は嬉しそうに笑ってから首を左右に振った。


「パンドラの責任ではありません。まさかこのような結果になるとは、パンドラも思いもしませんでしたから」


「チッ! 闇属性の魔法か……」


 呟く。


 原作において闇属性の魔法を使うのは魔女パンドラのみ。


 それだけに、世間の闇属性に対する印象はかなり悪い。


 闇属性の持ち主は悪魔に呪われているとまで言われる始末だ。


 ただでさえ俺は悪役貴族に転生して頑張っているというのに、こんな枷まで嵌められるとは……。


 だが、もちろん闇属性の魔法にも利点はある。


 まず闇属性の魔法はあらゆる魔法の中で最も強力だ。すべてを呑み込み破壊する性質を持っている。


 ほかにも俺にはパンドラがいる。こいつは闇魔法のスペシャリスト。


 今後ナルシッサはともかく、パンドラに魔法を教われば間違いなく俺は大成するだろう。奇しくもそれは、俺が望む未来でもある。


「どうしますかヴィルヘイム様。お加減が優れないようでしたら本日の訓練は——」


「やる」


 ナルシッサの言葉に即答した。


 彼女はにこりと笑う。


「さすがですね。このような状況でもすぐに立ち直るとは」


「世辞はいい。お前が知ってる闇魔法の話を教えてくれ」


「畏まりました。まず闇属性魔法といえば、外聞は最悪と言ってもいいですね」


 ナルシッサが続ける。


 パンドラは背後でむっとしていた。


「今後ヴィルヘイム様のよくない噂が飛び交うかと」


「承知の上だ。他には」


「ほかにはその魔法特性の強さですね。黒魔法はあらゆる属性の魔法を呑み込み破壊する性質を持ちます。それは完全なる力の具現。正面からぶつかり、よほど魔力の差がないかぎりはヴィルヘイム様が勝つかと」


「そうか……」


 やっぱり世間一般的な認識はあっていた。


 闇魔法は強い。ラスボスが使う魔法だからな。


 その対極に位置する光と闇がほかの魔法を遥かに凌駕している。


「ただ魔力の操作は難しいですね。あんなにあっさりとヴィルヘイム様は魔法を発動させましたが、普通は無理です。やはりそこは才能に左右されますね」


「つまり俺は天才ってことか」


「そういうことになります」


 くすりと笑ってナルシッサはくるりとその場で回る。


 上機嫌に鼻を鳴らすと、自信満々に胸を張り、


「さらにわたしという天才が加わることで、ヴィルヘイム様の将来は約束されたようなもの! 共に闇魔法のイメージ改変に尽力しましょう!」


「別に他人の評価などどうでもいい」


「え?」


「最初に言ったはずだ。俺は強くなりたいだけだと。そこに迷いも変化もない。お前はただ自分の技術を俺に教えればいいだけだ」


「……なるほど。少々ヴィルヘイム様を見くびっていたようですね。畏まりました。誠心誠意、このナルシッサが務めます」


 ぺこりと彼女は一礼して本格的な魔法の訓練に入る。




———————————

あとがき。


作者、風邪を引きダウン……

苦しいですが頑張って更新します。できなかった時は察してください←


よかったら反面教師の新作、

『悪役貴族の末っ子に転生した俺が謎のチュートリアルとともに最強を目指す(割愛)』

を見て『★★★』などで応援してくれると、体調がよくなるかも⁉︎(バカ言ってないで休め)

でも面白いですよ!

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