第6話 憧れ

『やばい、やばい!逃げろ!』

ティラノサウルスのような魔物に追われる人達が真っ直ぐこっちに向かってきた。


『ホワイト!』

咄嗟にホワイトを抱えて穴から離れるように走った。


(ドーン!ガラガラ)

後ろを振り返るともうすでに魔物が穴に顔を突っ込んでいる。


『た、助けてくれー』

土砂が崩れる音と共に穴の中から助けを求める声が聞こえる。


(ズボ!)

魔物は穴から顔を出してこっちを向いて来た。


(ガガガガガガ)

どうやら僕たちに気づいたらしい。威嚇して来る。


(ドーン、ジャラジャラ)

いきなり尻尾で攻撃して来た。体を屈めるのが遅れたら死んでた。


『マズイ』

ホワイトを持って巨大クリスタル郡の間を縫うように走った。


(バキン!ジャラジャラ、ドーン!バキジャラジャラ)

後ろで魔物がクリスタルを破壊しながら迫って来る。けどだんだん遠ざかってるのもわかる。


(ザーザー)

諦めたようだ。


『先輩』

後ろに気を取られていると目の前にアキが来て居た。


『あ、アキか』

『どうします?』


どうするも僕は戦いたくない。

『倒し方は知らないが、誰かを囮にしてその間に穴まで入って撤退ぐらいならできるか』


『やっぱりそうですよね』

アキもわかってるみたいだ。


『弱点も何もわからないまま戦っても勝てませんから。でも私なら十数秒なら足止めできます』


『は?アキが行くのか?』


『あれ?先輩心配してくれるんですか?そんなに好きならもっと前に言ってくれればいいのにそしたらこんな世界とは足洗いますよ』


『いや、そうじゃ』


『でも、今はそんなことできないか』

アキは少し悲しそうだ。


アキは後ろを振り返って僕たちの背後で集合した十数人の人たちに向かって。

『私が囮になります。その間に元来た穴に入って撤退。後続の人たちにすぐに私を助けるように伝えて』

一瞬みんな黙った。



『アキさん。すまねえ』

どうやらみんな納得しているらしい。みんなそれなりにダンジョンで生活しているからわかっているらしい。



『さっ早く、行って。気づかれても私が出て惹きつけるから』


『すまないアキさん』

『すぐに応援連れて来るから』

みんな続々と穴の方へ向かっていく。



僕は進めない。

最善策なのはわかるけど納得できない。

ホワイトもブルブル震えて怖がってる、すぐに行かないといけないのはわかる。


『先輩、先輩!何してるんですか?!早く行ってください』

止まってる僕に向かってアキが行くよう急かしてくる。


『僕は』

『先輩!早くしてください』


(ガシャーン!ジャラジャラ)

『うわー!』

クリスタルが崩れる音と共に断末魔が聞こえた。


『マズイ、行かないと。先輩も早く行ってください』

アキはそのまま音のした方へと走っていった。


その場には僕とホワイトしかいない。

『雄介、早く』

ホワイトがこっちを向いて訴えてくる。


何がしたいのか何をすべきかわからなくなった。




"人を助けるのは俺のルール!"


…‥10年前……


まだ、僕がダンジョンに来て2日かそれぐらいの頃、まだダンジョンの調査も進んでおらず新種が数年に一体のペースで見つかっていた時だった。


『うわー!知らねえよあんなの!図鑑に載ってねえぞ!』

ダンジョンにきて初めての密林地帯。

その当時まだ発見されてなかったオオ鋼ネズミに襲われていた。


(バキン!ドーン!バチャバチャ)

終わりだ。死ぬ

何も見つけないで死ぬ


死ぬのを覚悟した。ダンジョンは探検家全体の3割が毎年死ぬ。珍しくない。


『うわははは!!トウ!』

(カーーーン)

『あれ?ならば』

(ギギギギ!、バシャ)

すぐ後ろで魔物が倒されたのがわかった。


『大丈夫かい?君?』

後ろを振り返れば首の無いオオ鋼ネズミの上で堂々と立っている男がいた。

両手で血がべっとりとついたチェンソーを持って、


『俺の名前は神木だ!よろー』


『な、なんで』

命の恩人に失礼な事を聞いてしまった。


『なんで?んー趣味?いや"人を助けるのは俺のルール“だからだ!』

そう神木さんは言っていた。

それに憧れた。


けど、僕は結構出来なかった。これからも。




そんなのは嫌だ!




『やるんだ!』

僕は身を隠していたクリスタルから出た。


アキを助けるんだ!





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