第5話 やられ役はタイムリープも異世界転生も不可です

「あなたは、今から一年以内に死んでしまうのです!」



「ふ~ん」


 俺は一年以内に死ぬ……ね。


 そ~ら見ろ。やっぱりどうでもいい……


「なにいいいいいいい!?」


 マジで重大なお知らせじゃねーか! 

 文字通り死ぬほど驚きの内容だよ!


「おい! どういうことだ!」


「ひええ! ちょ、ちょっと落ち着いてください!」


 気付いたら代理ちゃんの肩を揺さぶっていた。

 カクカクと顎を揺らして目を回す代理ちゃん。


 でも仕方ないだろ。一年以内に死ぬ? そんなもん、冗談じゃねーぞ!


 代理ちゃんは以前に嘘がつけないと言っていた。

 つまり、これはからかっているのではなく、紛れもない事実という事だ。

 神に偽りは一切存在しない。


 馬鹿な。先ほどやられ役の高潔さについて語ったばかりなのに。それを皆に分かってもらう事を誓ったはずなのに。


 なにより負けヒロインを……サチを勝たせなければならなかったのに!


 俺は誓いを果たすことなく、天に召されてしまうのか。本当に殺られ役となってしまうのか。


「待ちなさい。大事なのはここからです。なぜ私があなたにこんな話をしたか分かりますか?」


「俺が絶望する姿を見て、楽しむためだろ」


「ちょ……そんなことしません! あなたは私をなんだと思っているのですか!」


「悪魔だろ」


「天使ですっっ!」


 ぷんすかと怒っている代理ちゃん。


 俺の中では毒を吐く悪魔って感じだけどな。


 ただ、代理ちゃんの言う事も一理ある。わざわざ死亡宣告だけするのも妙だ。


 まずは落ち着いて、話を聞いてみるか。この程度でうろたえては鋼の精神とは言えまい。


「私、実は『未来を予知する』という力を持っているのです。そして『今から一年以内にあなたが死ぬ』という未来が見えたのです」


 未来予知。さすがというべきか、神の代理に相応しい力だ。腐っても神の眷属という事か。


「なるほど。今その話を聞けたのは、ありがたいってわけだな」


 ここで俺は気付いた。考えてみれば、この情報は非常に有用なものである。


 俺が死ぬ未来……今の段階でそれが分かれば、様々な対策が可能じゃないか。


 死因を知った上で、そうならないように対処すればいい。難しく考える必要は無いんだ。


 そう。これはチャンスだ。この情報は死の未来を回避する唯一の希望である。


「よし、ならば死因と日時を教えてくれ。今から対策の準備に取り掛かる」


 事故死だったら、その日は出かけないようにする。誰かに殺されるというのなら、そいつと出会わないように立ち回ればいいだけだ。


 すでにいくつかの解答も用意してある。

 来るなら来い。冷静に対処してやる。


 メンタルの弱い主人公ならこんな時、ウジウジと悩んだり、慌てふためいて非効率な行動をとったりするものだ。


 だが、鋼の精神を持つやられ役の俺はそうはならない。


 死の未来に立ち向かう俺。

 まるでタイムリープ主人公にでもなった気分だ。


 いいだろう。未来を……この俺が変えてやる! そして俺は、時空の覇者となる!


「ごめんなさい。死因も日時も分かりません」


「分からんのかい!?」


 ズッコケそうになった。何しに来たんだよ、こいつ。

 主人公の気分は一瞬で吹き飛んだ。やはり、やられ役の俺は主人公にはなれないようだ。


「というか、並みの対策では不可能です。私の未来予知は『因果』を見るものです。既に事象は確定しているのです」


 『因果』……か。ち、厄介な単語が出てきた。


 簡単に言うと、『運命で死ぬと決まっている』ということだ。どう頑張っても、俺の死は確定している。


「それじゃ、手詰まりじゃないか。…………いや、待てよ」


 俺はここで最後の可能性にたどり着いてしまった。


「まさか、異世界転生か!?」


 異世界転生……俺は一度死んでしまうが、ファンタジー風の異世界へと転生して第二の人生を歩むことになるのだ。


 そして大体の場合、その時に神様からチート能力を与えられる。さらに俺を馬鹿にする奴らに復讐(ざまぁ)するのだ。


 なんてことだ。チートを嫌う俺自身がチーターとなってしまうなんて……皮肉な話だ。


 だが、それも仕方あるまい。貰えるものはなんでも頂くのがクズ君の性でもある。


 異世界転生からのチート能力、美味しく頂きます! 今さら戻れと言われてももう遅い!


「いいだろう。ではトラックを用意しろ。今度こそ間違えずに俺にチート能力を与えるんだぞ?」


「あ、それも無理です。あなたは主人公ではなく、やられ役なので、異世界転生は不可です」


 大きくバッテンマークを作る代理ちゃん。

 しかもちょっと軽蔑した目で俺を見ていた。


「むしろ、やられ役のあなたが死んだ場合、地獄へ落ちて永遠の苦しみを味わう事になります」


「こら! やられ役だからって、勝手に地獄に落とすんじゃねえ!?」


 やられ役の俺は異世界転生をする資格が無いらしい。それどころか、死んだら地獄行きとなるようだ。


 俺にとっての神はチートを与えてくれる救世主ではなく、ただの死神であった。


「えっと。トラック、用意します?」


「いらねーよ!」


 死んだら地獄行きになるので、絶対に死ぬわけにはいかなくなった。


 ま、分かっていたオチですけどね! やられ役の俺にそんなおいしい話はあるまいよ。

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