第6話

さて、どうするか。

俺たちは今、あの崖縁に立っている。


ここから、どう森まで降りるんだ?

ご存じの通りこの高台は1000m以上の絶壁の頂上に位置する。もちろん前回に探索した際にも確認したが、この高台から麓に降りる道などはない。


「ウサ、どう降り…」宇佐のほうへ振り向いて、そこまでしか言葉が出なかった。ウサがいた場所に、巨大なシルバードラゴンがそこにいた。全長は30メートルほどあるだろうか?


「…ウサ、だよな」数秒のショック後、恐る恐る確認する。確かにこのドラゴン、魔力の質がウサとまったく同じなんだよな。それって、こいつ元はドラゴンだったのか?


「驚いた?」確かにウサの声が脳内に響く。


「...驚かないほうがおかしいだろ!」いやね、本当にちびるかと思ったわ。何せ変化するのに何の前触れもない。ただ俺が目をそらした一瞬のうちに変化したのだ。


「魔力は不可能を可能にする力がある」


片足をおり地面に寄せ、「背中に乗って」と指示されるので、言いなりに背中へと。背中に乗るともうなんか、迫力感が半端ない。リズも俺の肩に飛び乗って何気ない顔をしている。


「リズも変化とか、できるのか?」


「ううん、できるけど、私の得意とするものはこの世の理かな?」


「この世の理って、それと魔力にどう関係性があるんだ?」


「この世の理を変えることができるのが魔力なの。でも、真実の知識がないと、魔力を正確に使用できない」


リズがそういうなり、ふわっと空に浮く。「これがいい例の一つ。誰もが物を落とすと下に“落ちる“という認識だけど、実は地面に引き付けられるというのが正解。でも、それが理解できずに浮こうとすると、失敗に終わる。それに魔力量も足りないと浮遊は実行できない」


リズからこの説明を聞いた直後、俺の脳内に「物理」という知識があることを悟った。え?ちょっと待て、知識が急に脳内へと流れ込んでくる。化学、生理学、医学、数学、生化学、分子物理学(なんだこれは?)、生物学...


リズが浮いたままの状態で、この間にじっと俺のことを観察しているようだった。

「女神さまが貴方に知識が戻ることがあると言っていたけど、本当のようね」


「あ、ああ。ごめん。今ちょっと混乱しているんだ」


「そっか、ゆっくり考えればいいよ」


「そうだな。そうするか」




ウサが翼を広げ、数回羽ばたくとあっという間に樹海の上を飛んでいる。風の抵抗もあまりなく、リズに聞いたところ魔力で俺たちの周りの風を封じている、正確には俺たちの周りの空気を固定しているという答えが返ってきた。 

一時間ほどで樹海の境界に到着するようだ。樹海から50メートルほどの上空を飛行しているのでとにかくスピード感がすごい。


飛行中にリズからこの世の理の基礎を説明してもらった。ほとんどは、俺に流れ込んできた知識と一致しているどころか、俺の知識がより詳しいことが分かった。

リズとその情報を共有すると、目を見開き食いついてきた。

あまり難しい分野は説明しかねたが、基本的な知識は伝えられたと思う。


リズによると、魔力量が多ければ多いほど理の知識が少なくても魔力が補ってくれるようだ。理と魔力、要するに知識と力があるものはこの世界最強のものになるという。ウサもその類いだと教えられた。


「貴方は世の理を信じられないほど詳細に理解している。あなたの魔力量とその知識は、この世で最強と言っても過言ではないわ」


「いや、ウサの方が魔力量も制御も俺よりはるかに上手いし、それにリズだって俺よりこの世界の理には詳しいだろ?」


「うん、でもあなたの知識とこの世界の理は一致しているように思える。要するに、あなたの知識でも正確にこの世界で魔力を使用出来る」


「...そうなんだ」


女神様は俺にそれほどの力を授けて何をしろと…

しばらくの間、思いにふけっていたがウサによって現実に引き戻される。


「そろそろ森の外だよ」


ハッとし見下ろすと確かに森の木々が薄くなってきた。


「森から出たら一旦降りよう」ウサたちといろいろと計画を立てないとな。


森の境界を超えウサが速度を落としたその時、右方面に騒動が起きているのが目に入った。30人程の革鎧を装備した者たちが300匹ほどのゴブリンと戦っている。負傷者もだいぶ出ているようで一目見ただけでゴブリンたちにだいぶ押されているのがわかる。


「ウサ、あいつらの頭上でホバーしてくれ」


「了解」


樹海を出て早々このような事態に巻き込まれるのは想定外だったが、なるようにしかないか。













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