第二章

郎党探し

「うむ、この首は美濃の国人衆の平井氏一族の者で間違いないな」


「よし。氏族の一人を討ち取ったぞ!」


 清洲城の敷地内を歩いていると、平手政秀の声が聞こえた。


「政秀さんー」


「お、リン殿ではないか」


 政秀は、作業を辞めて俺の方を見る。


「何していたの?」


「今日の戦で戦った兵に恩賞を与えているところだ」


「恩賞」


「リン殿は、なにしているのだ?」


「信長様に郎党を作れと言われて、どうしようか悩んでいた」


「郎党か。いいのう、昔を思い出すわい」


「政秀さんは、郎党を作っていない?」


「今は、戦場の前線に立つことがないからな。郎党を作って、やりたいこともない」


「なるほど。郎党を集めるのに良い場所はあります?」


「そうだな。わしが今から郎党を作るとするなら、津島か熱田に行くかの」


「津島と熱田」


「どちらも、尾張の国を経済的に支えている大事な地域だ。活気もあり、人も多い。良い人材もいるはず」


 確かに、人を集めるなら、人が多いところが理想だな。


「ありがとう。行って見ることにする」


「おい、待つのだ。道を知っているのか?」


「あ」


「そういうことだと、思ったのだ。わしから、案内役を紹介するぞ」


「お願いします」


汎秀ひろひでおるかー!」


「はい、父上。今行きます!」


 子供の声? 政秀の呼びかけに一人の子供が駆け寄ってくる。


「わしの息子である汎秀だ。まだ、子供だが、わしより頭が切れるぞ」


「初めまして、汎秀じゃ!」


 澄んだ瞳を持つ子供だ。見た感じ素直そうに見える。


「初めまして」


「母からは、ひろ君って呼ばれておる」


「ひろ君……ひろと呼んでいいか?」


 ひろ君って、男の俺が言うのは、なんか恥ずかしく感じる。


「わかった。ひろで、いいぞ」


 汎秀は、笑顔で頷いた。了承してくれたようだ。


「うむ、自己紹介は終わったようじゃな」


 政秀は、そう言うと、汎秀の肩に手を置いた。


「汎秀。この者らは異国から来て、織田家の家臣になった男達だ。今は、郎党を作りで人材を探している。津島と熱田を案内してくれ」


「父上、わかりました!」


 汎秀は、政秀のことを見て頷いた。


「うむ、よい返事じゃな」


 汎秀は、俺の所に近づく。


「準備が出来たら、行くのか?」


 俺は、頷いて返事をする。


「わかった! 俺、準備して来るんで少し待っていてください!」


 汎秀は、そう言うと近くにある館の中に入っていった。


「息子さん、元気ですね」


「じゃろ。信長の教育係を任せられる理由がわかるだろ」


「信長様は、自分の欲望に任せて、行動しているようにしか見えないですが」


「む、それを言われると、なんも言い返せんわい」


 汎秀が来るまで、しばらく政秀と話していた。


「お待たせしました!」


 しばらくすると、汎秀は荷物を持って、屋敷から出て来た。


「父上、行ってきます!」


「うむ、行ってこい」


 汎秀は、そう言うと、清洲城の城外を目指し歩き始めたので、俺とロイも慌ててついて行く。


「リン殿」


「ん?」


「息子をよろしく頼む」


「わかった」


 俺は、政秀に手をあげて返事をした。


 清洲城の外に出て、数十分経った。周りの景色は、田畑が広がっている。


「うむ、今年も作物の育ちがいいな」


 汎秀は、田畑を眺めながら嬉しそうに言う。


「ひろ、今はどこに向かっているのだ?」


「今は、津島に向かっておる」


「津島は、どんな街なのだ?」


「津島は、交易で栄えた町だ」


「交易か。てことは、いろんな物があるのか」


「そういうことだな。異国の物も売られることがあると聞くぞ」


 交易で栄えた町は、いろんな商品が流通するから、歩いていると楽しいものだ。日本の交易はどんな物が流通しているのか楽しみだ。



「いらっしゃい! 三河の国で、とれたての魚が届いているよ!」


「伊勢国から来た織物、興味ある方はぜひ!」


 昼頃に津島へ辿り着くと、活気の溢れた商人の声が聞こえて来る。


「うむ。良き活気じゃ」


 汎秀の言う通り、津島には大きな市場が開かれていた。


「リン様、見たことないものばかりですな」


「いろいろ見て来たが。まだまだ世界には知らない物があるのだな」


 それに、ここまでの活気がある市場は稀だ。町の活気を見れば、主君の統治能力がわかる。この活気から見て、信長の有能さがあかるな。


「どうじゃ津島は!」


「さすがとしか言いようがないな」


「信長様の祖父が、ここを統治したことで織田家の繁栄が始まったのじゃ」


「信長様のおじいちゃんが」


「リンは、ここに自分の郎党を作りに来たのじゃな?」


「そうだ」


「なら、良い場所がある。ついてくるのじゃ」


 汎秀の後を追っていくと、一つの大きな建物があった。


「ここは?」


「入ってみろ」


 汎秀に言われるがまま、建物の中に入ってみる。



「おおおおお!」


 建物の中に入ると、大きな歓声が聞こえた。


「なんだ、この声」


「こっちじゃ」


 汎秀が進む方向についていく。


「平田家当主、平手政秀の息子、汎秀じゃ」


 汎秀は、商人風の男に話しかけた。


「これはこれは、汎秀様。そちらの方は、お連れですか?」


「そうじゃ」


「でしたら、入場料は頂きません。信長様のおかげで、私こんなにもうけさせて頂いていますので、織田家関係者は入場料無料とさせていただきます」


「感謝する!」


 汎秀が進み始めるので。俺とロイは商人にお辞儀して後について行った。


「ひろ」


「どうした?」


「ここは、織田家が作ったのか?」


「そうじゃ。異国で流行っているのを取り入れたのだ。異国の文化で、良い所を取り入れて、自分の領土を発展させる信長様しかできない真似よ」


 汎秀は、自慢げに言う。


「リンとロイ、この先じゃ」


 汎秀と共に階段をあがる。


 階段を上がりきった先は、驚きの光景が広がっていた。

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