俺だけのスキル【ガチャ】が世界を救う

渡琉兎

第一章

第1話:天地竜胆

 ――数十年前、地球に突如として現れた異界へとつながる扉。

 扉が開かれると中から異形の姿をしたモンスターが地球へとなだれ込み、多くの人間が蹂躙され、犠牲となった。

 現代兵器では傷一つ付けることができなかったモンスターになすすべなく人類は駆逐される――その時だった。


「うおおおおおおおおっ!!」


 突如として怪物を殺すことのできる力――スキルに目覚めた人間が現れ始めた。

 彼らは後に『プレイヤー』と呼称され、ある者はモンスターを撃退して扉へと押し返し、ある者はスキルを駆使してモンスターに通用する武具を作成し、またある者は扉の奥に存在するモンスターの巣窟へと赴き異世界を形成する核を破壊して扉を消滅させるだけでなく、地球では手に入れることのできない特別なアイテムを持ち帰り、地球の発展に貢献していった。


 時代はプレイヤー至上主義となり、力のあるプレイヤーが富と名声を手に入れていく。

 誰もがプレイヤーに憧れを抱き、自分もプレイヤーになりたいと思うようになっていった。


 ◆◇◆◇


 そして、ここにも一人、プレイヤーに憧れを持ち、いつかはスキルに目覚めてプレイヤーになれると信じている青年の姿があった。


「だああああぁぁっ! ……今日もバイト、疲れたなぁ」


 大きく伸びをしながらそう呟いた青年は、片手にコンビニの袋を持って街灯に照らされた通りを歩いている。

 プレイヤーではない青年はバイトをいくつも掛け持ち、なんとか生計を立てている。

 生活は厳しいが、今はこうする他にできることがなく、周りを見渡しては娯楽で盛り上がっている同年代に羨ましさを感じていた。


「おっ! 見てみろよ、いいのが当たったぞ!」

「マジかよ! 俺のガチャ、全くいいの出してくれないんだけど!」

「日頃の行いじゃないか?」

「うるせえ! あはははは!」

(……ったく、誰の稼いだ金で遊んでいるんだ? こっちは遊びたくても遊べないってのに)


 小さくため息をつきながら歩いていた青年だったが、不意に今日はプレイヤーの姿が多いことに気がついた。


「……何かあったのか?」


 そんなことを考えながら歩いていると、正面に人だかりができているのを見つけ、何事だろうと一番後ろから伺い見ようとした。


「んだてめぇ、竜胆りんどうじゃねえか!」


 そこへ青年――天地あまち竜胆へ声を掛ける人物が現れた。

 その声に竜胆は面倒だと思いながらも、ここで無視をしたそのあとの方が面倒だと判断して振り返る。


「……岳斗がくとじゃないか」

「あぁん、てめえ! 岳斗様だろうが、が! く! と! さ! ま!」


 顔を合わせて早々に声を荒らげ、岳斗と呼ばれた赤髪の青年は竜胆の胸ぐらを鷲掴みにした。


「ぐっ!?」

「てめぇ、言ってみろよ? 岳斗様、だろう?」

「……が、がく、と……さま…………がはっ! ごほっ、ごほっ!」


 様付けをされて満足したのか、岳斗は竜胆を押し倒すと下卑た笑みを浮かべながら見下ろしている。


「てめぇみたいな一般人が、プレイヤーである俺様を呼び捨てにしていいわけがないだろう? あぁん?」

「……はは、そうだな」

「そうですね! だろう?」

「…………そうですね」


 言いなりになる竜胆を見てさらに笑みを深める中、岳斗の取り巻きが声を掛けてきた。


尾瀬おぜさん! なんか呼ばれてますぜ!」

「あぁん? てめぇが話を聞いておけ! どうせ俺たちは予備隊、やることなんてないんだからよ!」

(……予備隊だって? ってことは、この近くに扉が現れたってことか)


 竜胆と岳斗は同級生だったが、岳斗が一六歳でプレイヤーに覚醒すると、彼は周りに強く当たるようになっていった。

 特に一般人である竜胆にはきつく当たり、顔を合わせるたびにこうしてストレス発散のサンドバッグにされてしまっている。


(これは、何かある前に離れた方がよさそうだな)


 呼吸を整えながら立ち上がった竜胆は、無言のままその場を去ろうとする。


「おい、てめぇ。なーに勝手に帰ろうとしてんだ?」

「……も、もう、用事なんて、ないでしょう?」

「それは俺が決めることだ、違うか? こっちはいきなり予備隊って呼び出されてイライラしてんだ、ちょっと付き合え、いいだろう?」


 今日もサンドバッグにされるのかと思い、どうにかして逃げられないか思案する。

 だが、いくら隙を突いて逃げ出したところで、プレイヤーとして覚醒し、身体能力が一般人とは比べ物にならないほど向上した岳斗から逃げ切れるはずもない。


(……鏡花きょうかに心配はかけたくないんだけどなぁ)


 妹のことが頭に浮かび、竜胆は怪我をする言い訳を考えながらニヤニヤしている岳斗についていこうとした――その時である。


「ぎゃああああああああぁぁぁぁああぁぁっ!?」


 人ごみの先から悲鳴が聞こえると、やじ馬が恐怖の表情で一斉に走り出した。

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