第14話 まずはその辺の奴らと戦おう

 刀はこの前、使ったし……新しく作った物にするか。


 ハイウルフへと視線を向けると、無防備に進む俺を警戒してか低姿勢のまま、その場で牙を剥き唸っていた。

 

「ルーファス、籠手を使う」

《かしこまりました。魔導籠手起動します》


 俺の両手が変化する。胸の核魔力炉から魔力が流れ、手の甲へと集まる。極度まで圧縮されているせいか、青白い魔力が放電するようにバチバチっと走った。

 

「ブースター起動」

《ブースター起動します》


 ブースターを点火し、勢いそのままにハイウルフの正面へ移動する。それに反応するようにハイウルフは俺へ向けて口を開き、噛みつこうとしてきた。

 一瞬、横にブースターを吹かせ攻撃を回避し、側頭部を殴りつける。


「オラァッ!」


 ハイウルフの頭部が衝撃に耐えきれず破裂し、その場に倒れた。


「威力やば……」


:頭ないなったぞ……

:風船みたいに破裂した……

:え

:やば


 と、そんなコメントを読み上げるのが聞こえてきた。

 俺は桃瀬さんの方へ戻ろうと後ろを向く。するとそこには、驚きの表情のまま固まる桃瀬さんの姿が。


「よし、終わったぞ。って、どうした?」

「やっぱり……威力おかしいですよね」

「もっと深いところで運用する装備だからね。まだ上層だし、耐え切れる魔物は居ないんじゃないかな」

「はえー……」


:やべーな

:本気出したらどうなるんだこれは


「よし、みんなもこれで黒瀬くんの強さが分かってもらえたと思う。どう?」


:ここに居ていい火力じゃない

:それが自作なのがまた……

:強すぎ


 あれ、いつの間にか君呼びに変わっている。……まぁ、いっか。


「驚いてますね〜」

「これ以上出したら失神しないか心配になるな」

「私がしちゃいそうですよ!」


 と、反応する桃瀬さん。咳払いをしつつ「気を取り直して、進みましょう」と話す。


「そういえば、ウルフ系って基本、群れで行動しますよね? あのハイウルフ群れの争いに負けたのかな……」

「かもしれない。どちらにせよ、近くに群れがいる可能性が高いだろう」

「警戒しておきましょうか」

「ああ」


 それから探索を再開し、予想通りハイウルフと取り巻きのウルフらと会敵した。


「今度は私が戦いますね!」


 腰に携えた剣を抜きつつ言う。


「わかった」


:待ってました!

:きちゃ!


 桃瀬さんが前へ出ると、取り巻きのウルフらが三方向から攻撃してくる。彼女の眼前にまで迫る。

 瞬間——彼女の姿がブレた。

 気がついた時にはウルフの後ろへと回っていた。そしてそのまま、ハイウルフの方へ走り出す。

 取り巻きのウルフらは目の前から一瞬で消えた桃瀬さんを探し、振り返る。その時、ゴトリと音を立ててウルフらの頭が落ちた。

 通り過ぎる間に首を的確に切っていたようだ。


 そして残りは群れのボスであろうハイウルフのみとなる。


「ふぅ……残りは一体ですね」


 と言い、桃瀬さんはハイウルフへと足を進める。

 

「ウオォォォォォォンッ!!」


 威嚇するようにハイウルフが雄叫びを響かせ、口を大きく開き噛み付こうと攻撃を仕掛けてきた。

 桃瀬さんは動揺する素振りを見せず、冷静に回避する。

 そして攻撃を空振ったハイウルフの、ガラ空きの胴を斬りつけた。


「浅いですね……」


 まだピンピンしているハイウルフはそのまま向き直り、再び攻撃を仕掛けようと迫る。

 

「ハァッ!!」


 正面から剣で一刀両断しようと振る。が、それを剣を噛むことで防ぐハイウルフ。

 桃瀬さんはハイウルフの胴を蹴りつけ、距離を取る。

 

「まさか噛み付くことで防ぐとはね……だがッ!」


 そう呟く声が聞こえてきた。同時にハイウルフへ向けて剣を振り上げ、黄色い魔力を纏わせ始めた。

 振り下ろす。

 黄色い魔力は斬撃となり、ハイウルフへ向けて飛んでいく。

 それをハイウルフは素早く横へ避け、回避した、かのように思われた。瞬間、軌道があり得ない方向へ向いたのだ。

 追跡するかのように直角に曲がり、油断していたところに直撃。胴を真っ二つにする。


《強いですね》

「ああ」


「ふぅ、終わりました」

「お疲れ様。特に苦戦なくだな」

「これでも下層探索者ですから。というか、ワンパンで沈める黒瀬くんがおかしいんですよ?」

「桃瀬さんも実質ワンパンでしょう。あれは」

「私は魔力も要りますし、集中力も必要なんですぅー」


 そ、そうなのか……。


:ダンジョン内で漫才してるよこの人たち……

:こんなに気が抜けた探索があっただろうか


「『気の抜けた』とはなんですか?」


 コメントを問い詰めるように冗談混じりに責める桃瀬さん。


「そういえばいつまでさん付けなんですか? 呼び捨てでもいいんですよ」

「替え時をなくしてしまってさ。そう言うなら……」

「はい! じゃ、先に進みましょう!」


 その後、何事もなく、上層のボス部屋へ到達した。


「とうちゃーく!」


:道中は特に何も無かったね


「そうですね、このままサクッと終わらして中層へ行きましょう」

「ああ」


 そう言って、桃瀬はボス部屋の扉を開けに行く。


:ボス戦で黒瀬は戦うの?


「あ〜、どうする?」

「やばくなったら手伝ってください」

「了解」


 桃瀬が扉に手を当て、押し開く。

 扉がゴゴゴと重い音を立てて開かれるにつれて、内部の全貌が見えてきた。

 学校のグラウンドくらいありそうな大きさで、ドーム状の空間が広がっている。そして、その中心に体長が4メートルくらいはある赤黒い狼——ブラッティキングウルフが待ち構えていた。


「キング……しかも赤黒い体毛……って」


:ブラッティだ!?

:なんで?

:普通下層に出てくるボスだぞ!

:イレギュラーか?

:気をつけて!


《下層に出現する魔物ですね。イレギュラーでしょうか、通常出現しない階層ではありますが》


「だよね。下層でしか見たことないのに……なぜ」

「イレギュラーか?」

「そうとしか思えない。あと、ブラッティはちょっと相性悪いかも……黒瀬くん、手伝ってほしい」

「了解」


 ブラッティキングウルフは入ってきた俺たちに気がついたようで「グウオォォォォンッッ!!」と雄叫びを上げた。

 

「いきましょうッ!」

「おうッ!」

 

 

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