第12話 帰還とそれから

「何か忘れている気がするんだよね〜」

「そうですね……あ、配信!」

「あっ……どうなったんだろう。そういえば、ドローン回収したっけ」


 浩介も思い出した様子でスマホを取り出し確認する。


「……配信つきっぱだったわ」

「でも画面は真っ暗ですね」

「てことは……あそこにドローン置きっぱ?」

「かな。ただ、配信はできてるし回収してくるよ」


 浩介がさっきの場所に走って戻っていく。

 

 そして数分後————羽が折れてしまっているドローンを抱えて浩介が戻ってくる。


「ふぅ……お待たせ」



「画面も戻ったからカメラも壊れてなさそうだよ!」

「なら修理に出せばいけそうだな」


 そして、浩介がドローンのカメラを見てパーティメンバーを映しつつ、


「ということで俺たちは無事です。詳しい話はダンジョンを出てからしますね」


 と話し、配信を閉じた。


「そういえばどうやってここに来たんだ?」

「確かに。上はもう封鎖されてたと思いますが……」

「下から上がってきたんだよ」

《それだと説明不足かと》


 浩介には前に話してるし、仲間にも言ってるのかなと思って……。


「下?」


 浩介の仲間たちは訳がわからないようにキョトンとした顔をする。


「すごく簡単に説明するとダンジョンは深層で終わりじゃないんだ。正式名称はわからないが俺は深淵と呼んでいる場所がある」

「深淵……」

「ダンジョンって深層で終わりじゃないのか!?」

「えっ……」


 三者三様、さまざまな反応をみせる。


「深層のその先があるんだよ。しかも、その深淵は全てのダンジョンと繋がっている。だから俺は下からここにくることができたんだ」

「そうだったんですね」

「待ってくれ、情報が多すぎて……」


「つまり、深層を攻略してももっとやばいやつがうじゃうじゃいると?」

「そういうこと。今日のケルベロスもあそこじゃ一捻りだよ」


 驚きの表情をする三人と、それを見て笑う浩介。


 そうこうしているうちに、ダンジョンの出口がもうすぐそこにあった。


「外の様子はどうだ?」

《探索者庁が整理をしているようで職員と探索者以外はいません》


 ルーファスから外の様子を聞く。予想通とは違い、探索者と職員しかいないようだった。

 てっきり野次馬とかマスコミとか来てそうなのに。

 そして先に浩介たちがダンジョンから出る。続いて俺もダンジョンから出る。


「じゃ、俺は帰るわ」


 そう伝え帰ろうとする。


「え、あそこのテントで職員に経緯の説明とか……褒賞とか出るかもだし……」

「お前らだけでいんじゃない?」

「いや、一番肝心のケルベロスを倒した人こそ行かないと」

「そうですよ!」


 総攻めに合う。


「面倒だから帰る。親友のピンチだから来ただけだからな、そこからは興味ない」

「いや、でも……」


 尚も連れて行こうとするが、俺が動かないでいると


「……はぁ、わかったよ。こうなると考えを曲げないもんな」


 と言った。が、その時不意に後ろから声をかけられる。


「お待ちしておりました」


 振り返るとそこには、黒いスーツを着込みメガネをかけた糸目の人がいた。

 誰だ?


「えっと……探索者庁の方ですか?」

「はい。河野と申します」

「俺は岩崎浩介です。それで待っていたというのは?」


 浩介が代表するように問う。


「皆様の戦いは配信を通して見ていました。イレギュラーであるケルベロスの討伐ありがとうございます」


「いえ、俺たちはほとんど……」

「ええですが……食い止めることができていたおかげで、被害が拡大せずに済んだでしょう。それはあなた方のおかげです」

「そう……ですか」


 浩介たちを見ると、それぞれ安堵するような表情を見せていた。


「それに配信をしてくれていたおかげで状況をいち早く知ることができ、この辺り一帯、避難する時間を多く確保できました」

「配信も無駄じゃなかったね」


 涼香がそう呟く。


「それからケルベロスに関して、少し話をお伺いしたいのですがよろしいですか? そちらの方にも」


 浩介たちを見た後、俺の方を見て言う。


《特に問題ありませんのでよろしいのでは?》

 そうだな……情報共有は必要だろう。

 俺は承諾し、河野さんの先導で探索者庁が設営したであろうテントへ入る。


「では改めて、まずはイレギュラーであるケルベロスの討伐ありがとうございます。深層探索者を呼び寄せていましたが地上に出てくる可能性があり、危険な状態でした」

「そうだったんですね」

《そうですね。応援可能な深層探索者は地方でダンジョン攻略をしていたようですから。そもそも連絡が取れなかったのでしょう》


 ルーファスも補足的なものを入れてくれる。


「なるほどな」

「……何がですか?」

「いや、なんでもないです」


 声に出ちゃってたか……。


「では話を戻しまして、ケルベロスについてですが……戦い方、能力、どういう状況の時に出現したかなどを教えていただければと思います。あと、録音をさせてもらいたいのですがよろしいですか? メモも取りますが書き逃しがあってはいけないと思いますので」

「もちろんです。健太もいいよな?」

「ああ」


 それから俺たちは先ほどの経験の全てを河野さんへ伝える。河野さんの隣に座る書記が話をメモしていっていた。



◆◆◆



「————では、ここまでということで。お疲れのところありがとうございました」


 そう言って頭を下げる河野さん。


「いえいえ、必要なことですし」


 と浩介が返事する後ろで灯火達が話す。


「いやー、これで全て終わったと思うと疲れがドッとくるなぁ」

「ですね〜」

「早く風呂に入りたいぜ」


 かくいう俺も結構疲れているので帰りたい。


「はい、お疲れ様でした」


 こうして探索者庁との情報共有は終わった。

 テントを後にし、空を見るともう真っ暗だ。


「じゃ、俺たちはこっちだから」

「お、そうか。じゃ、お疲れ様」

「ああ、また」

「おう」


 俺は浩介と手を合わせ挨拶を交わす。


「今日はありがとうございました!」

「本当、助かった!」

「また会おう」


 なぜか俺は少し照れる感覚を覚えた。

 それを誤魔化すように帰りを急かした。


「ほら! 疲れてるだろ。帰った帰った」

「そうさせてもらううよ」


 ハハハと笑いながら浩介は仲間達と帰っていこうとしたところで振り返り、俺に伝えることがあったと、駆け寄ってきた。


「あ、そうだ。健太も配信始めてみろよ」

「配信……? お前らがやってるあれか?」

「そうそう。意外と面白いぞー」


 そう言い残し、先に行った彼の仲間達を追いかけるように走り去っていった。


「配信か……」

《始めるのですか》

「分からない。自分じゃ考えもしなかったからな」

《お好きなようにしたらいいと考えます》

「うーん……少し考えるか」

《えええ、よく考えてください》

「ああ」


 俺は悩みながらも家へ向かうこととした。



◆◆◆



 家のドアを開け、パワードスーツを脱ぎ前を見る。すると、まだリビングの光がついたままだった。


「あれ、電気つけっぱで出ちゃってたのかな」


 そう思いつつ、リビングへ入ると桃瀬が寝ていた。


「なんでいるんだ?」

《桃瀬さんの訪問中に出てしまってそのままでしたね》

「あっ」


 ぐっすり寝ている様子の桃瀬を見る。

 机には自分で買ってきたであろうカップ麺が……。

 ……思ったより満喫してないか?

 そうは思いつつも悪いことをしたなと思い、スマンと伝えた。

 

《ぐっすり寝ていますね。毛布をかけてあげたらどうですか?》

「そうだな」


 俺はクローゼットから毛布を取り出し、掛けてあげる。


「じゃ、俺もご飯食べて寝るかぁ」

《お風呂は入ってください》

「はい」

《それではお疲れ様でした》

「お疲れー」


 その後、俺はご飯をカップ麺で済まし、風呂に入った。

 考え事をしていたせいもあってか今日はいつもより長風呂になってしまったようだ。もう0時をすぎている。

 俺は寝る前にスマホを開き、浩介へメッセージを送ことにした。


 『配信始めるかもしれない』と。

 



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