三
第8話
「へぇ〜、で、そのど直球の言葉にやられたんだ。かよちゃんの言葉は種子島銃だったわけだ。みよっじーの心の的に中心にバーンってことか」
「締めるぞ。八一」
僕の隣にいる相方の狐はからかうように笑う為、流石に声を低くして悪態をつく。まったく来たと思ったら……。八一は「悪い悪い」と悪びれずにいう。まったく後で縛り付けてやろう。
僕達は縁側で座って思い出話に浸っていた。どこの農村にもあるような一軒家であるが、一から建物を建てた僕らの家である。八一は時折やってくることがある。
あれから六年。僕の故郷の地から去ったあと、ある国の山奥の農村で僕達は夫婦になった。というよりも、かよちゃんに押し切られた。その後はまあ一緒に生活するんだけど……家族になろうという言葉が、その、ちょっと本当で、いやうん……かなりすごかった……!
思い出すだけでも顔に熱が出て、頭を抱えたくなる。僕の様子をニヤニヤと笑う相方。本当に縛り付けてやるぞ。
八一の近くに小さな男の子がやってくる。その子はかよちゃんに似ているけれど、八一は幼い頃の僕だろってよく言われる。
僕とかよちゃんの子どもの良介だ。
良介には僕の妖怪の血を引いているけれど、人として生きる選択をすれば妖怪の血が発現することはない。組織に関わるかどうかは、良介の選択次第となる。僕としては、普通に生きてほしいんだけどね。
息子は八一に笑顔で挨拶をした。
「八一のおじいちゃん! こんにちはー! お父さん、何をしていますか?」
「おっ、良介。こんにちは、君のお母さんとお父さんの思い出話をしてたんだ」
「もしかして、お父さんがお母さんに押し倒されて一ノ谷した話ですか!?」
かよちゃんに似て表情を輝かせる良介。
っておい待て八一。息子に何吹き込んでるんだ。そもそも、僕がかよちゃんに押し倒されて一ノ谷って何だ。とりあえず、キラキラしている息子には悪いけど……目を合わせて息子に話す。
「良介。家の中で寝ているお母さんを見て来てくれないかな。僕、ちょっと八一おじさんとお話してくるよ」
「? うん、わかった!」
良介は無邪気に返事をして家の中に向かう。八一は不味いと悟った顔をしているがもう遅い。
「あ、悪い。私、もうかえぶっ!?」
速歩きで逃げようとするが、転げて地面と接吻をする。とっくに八一の足には太い紐がついている。僕の手にしている紐は強力な妖怪の素材から作られている紐。高位の神狐であろうが、容赦なく絡め取る。要は逃さないってことだ。
息子に変なこと吹き込もうとして。今で悪戯が酷い時は何度か懲らしめてきたけど、今回は流石に教育上によろしくない。ゆっくりと歩み寄る僕に八一は気付いて顔色を悪くする。
「えっと、三代治?」
僕はもう片方の空いている手から紐を出して強く握る。
「全身紐で縛って明日の朝まで宙吊りしてあげるよ」
「ちょ、ごめ、みよっじー! 悪かった、悪かったから!」
「ア゙?」
「ごめんなさい」
抵抗する八一を殺気を込めた一言で鎮める。僕は黙った八一を縛り付けて、近くの山の方へと引きずって行った。
八一を人気ない場所で縛り付けて宙吊りにしたあと、家に帰る。宙吊りにするというが八一なら本気を出せば縄抜けぐらいはできるだろう。あと、熊か狼のどちらかに襲われるかどうかはあいつ次第だ。
戸を開けて、家の中に声をかけた。
「ただいまー。ごめんね、八一を見送ってた」
仕置したことを言わず戸を締めると、良介が駆け寄ってきた。
「お父さん。おかえりなさい!」
「ただいま」
しゃがんで声を掛けると、良介の背後からゆっくりと歩いてくるかよちゃんがいた。
「三代治さん。おかえりなさい」
母親らしくなったかよちゃんだが……少しだけ顔色は良くない。僕は下駄を脱いで、かよちゃんの側に行く。
「ただいま、かよちゃん。……無理して出迎えなくてもいいんだよ」
「大丈夫。それに、少しでも動かないとだめなんだから。それに体調が悪いのは、三代治さんの子がここにいるから、ね」
と彼女はお腹の上を優しく撫でる。少し出てきたお腹を見て、僕の子がいるんだって実感する。
……僕が父親になって五年。良介とかよちゃん。そして、彼女の中にいる子を合わせて五人家族。かよちゃんの言う通り、本当に家族になった。
いや、まああのうん……。
……………………なっちゃったんだぁ……。
今更実感して顔が熱くなるし、僕はヘナヘナとしゃがんで顔を押さえる。息子とかよちゃんはわかってない。いやね、凄いのはわかってたけどここまでとは思わないよ。
個人差あるよって同期が言いそうだけど、言いそうだけど……!
「三代治さん?」
かよちゃんに呼ばれて僕は我に返る。ってそうだ。そうだった。
「ごめん。ちょっと、家族になったんだなぁって実感してた」
照れくさなって言うと、かよちゃんはとても嬉しそうに笑っていた。
「へへ、三代治さん。これで生きたいって思えた?」
言われて、僕は目を丸くする。
六年前は僕は生きたくないという思いや過去の負い目を感じていた。でも、今は子供がいて、女房がいて。彼らを残しておいていけるわけ、ないじゃないか。
何だかしてやられたような気がして、僕も笑ってしまう。
「本当に、僕の奥さんは凄いなぁ」
幸せそうに笑えていただろうか。僕の顔を見て、かよちゃんと良介が笑顔になるのが答えだと思っておく。
夜。二人が眠っている間に僕は結界を強化しておく。外側も内側も問題はない。眠っている二人を見ながら、近くに敷いた布団に入る。
……幸せだと感じていても懸念を忘れているわけではない。
悪路王。
あいつがかよちゃんを助けていこう動きがないのだ。何処かで機を伺って狙っているというのもあるし、諦めている可能性もある。あいつがどこで仕掛けてくるのかわからない。
……真っ向からの勝負で勝つのは難しいだろう。今の僕が力を使いこなせているわけではない。
悔しさを感じつつ、僕は拳を握って布団の中に入って寝息を立てる。
余談ではあるけれど、夜明けとともに八一を解放した。
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