第6話
僕は調査のために町の長屋に住む。人気のない少ないほうがいいかもしれない。だが、彼女がこの先人とともに生きる為には人と接したほうがいい。それに、悪路王がまぎれているかもしれないし……。かよちゃんを世間慣れさせることと悪路王を誘き寄せるもしくは探すことの両立。かよちゃんを狙ってくる可能性も考えつつ……って色々大変だな。かよちゃんは僕と住むことになって驚いて喜んでいた。嫌そうでないのが僕が驚く。そんなに嬉しいのかな、人の町に住むのが。
子供たちも多いし、友達には困らないかもしれない。住むってことで近辺の住人と挨拶をしておかないと。……一応下調べを入念にして問題が少ない場所を選んだつもりではある。
かよちゃんは僕と住む家の中を見て、楽しそうに僕を見ていた。
「三代治のにいさん。私達、ここに住むの?!」
「住むと言っても長く住むわけじゃないよ。用事が終えたらすぐに撤収だ」
「そっか……でも……!」
すごく張り切ってるかよちゃん。彼女が大人になるか。きっと素敵な子になるんだろうな。そうしていると、にっこりと笑って。
「私、頑張ってにいさんを支えるね!」
「うん、ありがとう」
僕の見た目は二十代後半辺り。
年の離れた兄弟に見られるのかな。考えつつ、僕ははしゃぐ彼女を見守った。
基本僕の本職のことはかよちゃんに口を出さないように言った。彼女ちゃんも承知の上で人に話さなかった。町に出て気付いたことだけど、かよちゃんは霊力や霊感が強い。人よりも優れているとも言えるのだろう。……だから、荘俳さんのことがわかっていたのかもしれない。
彼女が狙われないように呪いをかけて、借りている長屋に結界の札を貼った。本職のことで僕が町から離れることも多々あるゆえ、町人の人もかよちゃんのこと気にかけてくたり、面倒を見てくれる。
……まあ町の外でする仕事なんて限られる。けど、怪しまれないのが救いかな。必ず帰ってくるつもりでいる。その間にかよちゃん。変な人に襲われないといいな。襲われないように、呪いもかけてあるんだけどね。
町の人や子供たちとも仲良くなれているし、かよちゃんがいい人を見つけてくれたならいいけれど。
そんなふうに考えながら、僕は町で日々を過ごしていった。
かよちゃんと僕が町で過ごして、三年ぐらい経つ。もうかぞえで十三だからそろそろ成人かな。女性の成人年齢は徐々に上がりつつある。今は十三だけど、この先はもっと成人年齢が上がるのかな。
三年も経てばかよちゃんも女性らしくなっていくし、男たちの見る目も変わる。彼女は綺麗になるんだろうな。
けど、三年の間驚くほどな何もなかったし、悪路王の尻尾もない。……不穏のような気もするし、何かおとなしいことに疑いたくなる。
でも、成長する頃にあることを話したいと決めていたし、話さなくてはならなかった。
夜夕食を食べ終えてかよちゃんが片付け終えた頃。僕は彼女に声をかけた。
「かよちゃん。いいかな」
「? なに、三代治のにいさん」
かよちゃんは正座で対面して、僕も正座をする。雰囲気で真剣な話とわかったのか、かよちゃんは微笑みを消して僕を見つめた。察しているのかもしれないけど、話しておきたい。
「かよちゃん。荘俳さんのこと、覚えてる?」
「うん、お世話になった恩人だから覚えてるよ。遠くの国に行って、修行してるんだよね。そういえば、荘俳さんのいった遠い国って天竺?」
聞く彼女に僕は首を横に振っていた。
「ううん、天竺より遠くて今の僕たちが行けない場所」
「……行けない場所?」
不安げに答える彼女に、僕は確信をした。かよちゃんは聡明な子だ。薄々わかっていたんだろう。灯籠の光の中で僕は真実を口にする。
「……荘俳さんは亡くなったんだ。僕たちを悪い奴らから守るために囮となって、自ら死を選んだ」
彼女は目を丸くした。顔を俯かせて、沈黙を続ける。拳を握り、僕は土下座をして頭を下げた。
「ごめん。この真実を黙っていて。大きくなってから話そうと思った。……でも、本当は話すのが怖かったんだ。君を傷つけると思って話せなかった」
土下座を辞めて、顔をうつむかせている彼女に顔を向けた。
「許せないと思うなら、この長屋を出ていってもいい。上司に話をつけて、君の嫁ぎ先だって探そう。嫌だと思うなら、僕に会わなくていいよ。かよちゃんがどうしたいか、君が決めて」
話した。話せた。今でも心臓は激しいけれど、なんとか話せた。さあ、あとは彼女がどう決めるかだ。……彼女の決定次第では僕が去ろう。独善的かもしれないけれど、僕は。
顔を俯かけせる彼女だけど、かよちゃんはゆっくりと顔を上げる。涙をボロボロと流しながら、僕に笑っている。
「……三代治のにいさん。わかってたよ。荘俳さんが亡くなってたの。
だから、いつ話してくれるのか、わからなかった。でも、そう話してくれて嬉しいよ」
……ああ、やっぱりわかっていたか。受け入れるの、受け入れてくれるの強いな。同期の言ってたこと、今になってわかる。女の子の成長は早いし強い、な。
かよちゃんは僕の手の上に自分の手を重ねて見る。頬を赤くして、僕の顔を見据えた。
「あのね、私。三代治のにいさんと家族になりたい。三代治のにいさんといて何度もそう思う」
「……え」
「だから、私を三代治のにいさんとの女房にして」
「……」
家族、って。急に言われて僕は困惑した。……確かに、今の時代もう女の子としては成人だから、家族になれるのかもしれない。
でも、君が家族になるのであるなら、もう少し成長してからの方がいい。でも、僕自身が君を大切に思っていても異性として見ているかなんてこの先はわからない。
かよちゃんは言ったあとに、申し訳無さそうに目をそらす。
「迷惑、だったかな」
「ううん、嬉しいけど。僕もまだ君の気持ちを受け取れるほど、覚悟が足りてないだけ」
家族になってくれる気持ちは嬉しいし、好きになってくれるのも嬉しい。でも、僕が家族というものになれるのかわからない。自信というものがないだけなんだけど、たぶんそのない理由は。
……浮かない顔をしているだろう。かよちゃんは心配そうに僕を見る。
「……三代治のにいさん?」
「……条件がある。四年間。もし君の心が四年間変わってなかったら、君の答えを受け取るよ。でも、受ける前に僕は君に見せたいものがあるんだ。そこを見て、決断をしてほしい」
彼女は不思議そうに頷いた。僕の自信ない理由は僕の故郷にある。僕自身が引く妖怪の血と関係ない場所だけど、これだけ長くいて僕の身の上を話さないのは良くない。
四年間、僕もどう変わるのか。この先気になるところだ。
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