第18話 別れと親睦会

 準備日としていたこの日は、午前中に挨拶回りをして午後から集まる事にしたのであった。


 俺の挨拶回りは親もだが近くに行かないといけない人たちがいる。


 いつも通りチャイムを鳴らすと返事があり玄関ドアが開いた。


「刃? どうしたの?」


「あぁ。この前言ってた佳奈の小刀なんだけどな」


 後ろに隠していた包みを出して渡す。


「えっ? もしかしてもう作ってくれたの?」


「あぁ。実はなこの前言ってた調査の件なんだか、行くことになった。だから先に渡して置こうと思って」


「そっか。有難う。かーなー?」


 家の中に向かって呼び掛けるとトタトタと走ってきた。笑顔で顔を見せてくれた。


「じん! かたなつくってくれたの!?」


「あぁ。名前も付けた。『麟子鳳雛りんしほうすう』ってんだ」


「えぇ? りんち……?」


 眉間にしわを寄せて口を尖らせている。


「はははっ。ごめんな。佳奈には難しかったよな。将来立派になる子供を現す言葉なんだ」


「かなが、りっぱ?」


「あぁ。そうだ。佳奈は将来絶対凄い人になる! そういう意味を込めてこの刀を作った。この刀は佳奈を、そしてママを守ってくれるはずだ」


「うん。じん、どっかいっちゃうの?」


 こういう時の子供ってのは鋭くて困るな。


「ちょっと遠くに行かなくちゃならない。もしかしたらニ週間……いや、一カ月くらいかかるかもしれない。魔物を退けながらの進行になるからな」


「そうなんだ」


 下を向いて今にも泣きだしそうな佳奈を見ると胸が締め付けられる。

 

「佳奈。そんな顔するな。必ず帰って来る」


「パパもそういってた」


 それを言われると弱いんだよなぁ。こんな大人の言葉なんて信用できないよな。


「ごめん。ちゃんと言うな。じんはな、死ぬかもしれないお仕事に行ってくる。けどな、誰かがやらないとみんな死んじゃうかもしれないんだ。そしてそれが一番できそうなのは、じんなんだ」


「ほかのひとじゃダメなの?」


 首を傾げながら上目づかいに見上げてくる。

 この目には弱いが負けないように心を強くもつ。


「あぁ。じんじゃないとできない。じんはな、一度、別の世界を救ってるんだぞ?」


「そうなの? ゆうしゃさま?」


「はははっ! そうだ! 良く知ってるな!」


「ごほんでよんだんだよ?」


「そうか。その勇者様なんだ。だから大丈夫だ。この世界も、きっと救ってみせる」


「わかった! がんばってね! じん!」


 満面の笑みで応援されるのは力が身体に漲ってくるな。秀人もこういう気持ちで行ったんだろうな。


「あぁ。じゃあ、また帰ってきたら顔出すから!」


「うん。気を付けてね! 絶対帰って来るんだぞ! 刃!」


 振り返るのが恥ずかしくて背中を見せたまま手を振った。

 俺の帰りを待っていてくれる人がいるんだから生きて帰ってこないとな。


 両親にも話はしたが、ウチの両親はたんぱくだから「気を付けてね」それだけだった。


 昼食を軽く食べて集合場所へと行く。


 集合場所と言っても大衆居酒屋なんだが。


 「あっ! 武藤隊長! ここでーす!」


 手を振って呼んでくれたのは知友だった。

 みんな私服で来ていて新鮮だな。


 知友はTシャツにジーパンでカジュアル。

 地雷も同じような物だった。

 円鬼だけなぜかドレッシーなワンピースを着ている。


 パーティか何かと勘違いして来たのかと思うほどに。


「ワ、ワタクシの私服はこんな感じなんですわ」


 ジィっとみてしまったため、恥ずかしそうに円鬼が弁明する。話し方だけじゃなくて服もお嬢様風だったのかということに衝撃をうけた。


「あぁ、いや。すまん。ちょっと戦闘服とギャップがありすぎて驚いただけなんだ」


「い、いいですわ。それより注文してしまいましょう」


 円鬼に促されて注文する品定めをする。


(ホッケ焼きとか頼んだらおっさん過ぎるよなぁ。うわっ。この串揚げうまそう。でもなぁ。みんなが頼んでから様子を)


「隊長? なんかすんごい考えてません? 大丈夫ですか?」


 知友に心配されてしまった。


「みんなは何を頼むんだ?」


「私は、おしんこともつ煮とぉ、カプレーゼで」


「自分は、イカ焼きと串焼き盛り合わせで」


「ワタクシはシーザーサラダともろきゅうにしますわ」


(意外とみんなおっさんくさいの頼むんだな。ちょっと嬉しいわ。いや、合わせてくれてる?)


 黙って注文を聞いてウンウンと頷いていたら怪訝な顔で見られた。


「隊長は頼まないんですかぁ?」


「あっ! じゃあ、ホッケ焼きと串揚げ盛り合わせにしようかな。あれ? 飲み物は?」


「「「ビールで」」」


 この一致で俺はこのパーティメンバーとはうまくいくと確信した。


「はははっ。じゃあ頼むか」


 飲み物が来たところで乾杯した。

 話題に上がったのが異世界化の話。

 なぜ、今まで今回のようなことに気付かなかったのか。それは魔物がいるところにばかり意識がいってしまっていたからだと思われた。


 次に俺が本当に異世界に行ってきたのかという事。


 俺の記憶にある異世界の事を話したのであった。


 高校一年生で勇者として異世界に呼ばれて鍛え上げ、四天王と呼ばれる魔物と魔王と呼ばれる魔物の王を倒したこと。


 そして、もしかしたらその者達が関係あるかもしれないこと。


 皆話に聞き入ってくれて、最後には身の上話をして親睦を深めた。


 結局話ばかりしていてあまり酒は入らなかった。

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