第14話 夕日色

 祝勝会の明くる日。数日休暇を貰ったのだが、俺は工房に来ていた。

 秀人の刀の鞘を作成してもらう為であった。

 鞘職人にお願いがあったのだ。


かんさん、この刀の鞘なんだけど、梨地塗なしじぬりにしてもらえないでしょうか」


「あぁ。いいよ。あれの色か?」


「はい。アイツらしい色なんで」


 秀人の炎の色、夕日の色に近しい色で塗ってもらおうと思ったのだ。


 これは鞘職人にしか頼めない。俺は鍛冶師だから鞘は完璧には作れないからだ。それほど、難しいものだということ。


 塗ってもらったものは本当はちゃんと乾燥させないといけないのだが、急いでいたので魔法の炎で乾かしてしまった。


 その刀を持って早くいきたい所があった。


 基地を出て自宅の方へと向かう。


 着いた家は天地の妻である莉奈の実家だ。今日も実家にいるとのことだったので来た次第だ。


  ────ピンポーン


『はーい』


「刃です」


 出てきてくれたのはおばさんだったが、莉奈と佳奈、みんなで迎えてくれた。


「今日は報告があってきたんだ」


 莉奈は不思議そうな顔をし、佳奈は「なになにー?」とはしゃぐ。


「秀人の仇を討った」


 莉奈は崩れ落ちて涙で床を濡らした。そしてお礼を口にしていた。やはり胸にずっとつかえていたのだろう。


 佳奈はというと満面の笑みでピースをしている。


「やっぱりパパは負けない!」


 その言葉で俺の目からも滴が零れ落ちた。この子のこの笑顔が見られてよかった。


「中に入らない?」


 おばさんにそう促されて中へと入っていく。

 そこには仏壇があり、おじさんと秀人の遺影があった。


 仏壇に線香をあげて拝む。


(秀人。お前の仇は取った。これから俺も魔人として日本の人々を守って行こうと思う)


 瞑っていた目を開けると秀人が微笑んでくれていた。いい遺影だなと思って見いってしまった。


「いい写真でしょ?」


「あぁ。これって最近の物だよな?」


 そう聞くとニヤリと意味深な笑みを浮かべたかと思うと俺の横に腰かけた。


「ここ最近の笑顔で一番いい笑顔だったわ。この写真は、刃から新しい刀を作ってもらったって言ってた、出発の前日の写真よ?」


 ダメだった。俺の視界はぼやけて何も見えなくなり。胸から込み上げてくるものを堪えきれず嗚咽した。


「きっとひでちゃんは刃の刀に力を貰っていたと思う」


 あの時より前、なぜ魔力に目覚めなかったのかとずっと後悔していた。封印していた意味があったのか? そのせいで秀人は死んだんじゃないか?


 自分を責める言葉がとめどなく自分の中に流れてきた。元から知識があったら秀人は死ななくて済んだんじゃないのか? 他の犠牲になった隊員も無事に済んだんじゃないのか? 俺が刀剣部隊の隊長になっていれば。


 そんなこと今言っても仕方がないのに。


「じん? なんで泣いてるのぉ?」


「すまんな。うっ。嬉しくてな。くっ!」


 佳奈に問われて慌てて涙を拭うが中々おさまってくれない。


「それって?」


 莉奈が指をさしたのは俺が抱えていた長い布に巻かれたものだった。今日は報告とこれを渡しにしたんだ。


「実はな……」


 長い布をとると露わになった綺麗な夕日色の鞘に入った刀。


「これって……もしかしてあの時の?」


「そうだ。俺が打った刀。現場で見つかってな。鞘はなかったんだが、新しく作ってもらった」


 魔物に使われていたことまでは言わなくていいだろう。俺に向かって振るってきたものだ。知らない方がいい。


「これ、貰っていいの?」


「あぁ。武岩総長には許可を取った。お守り代わりにでも持っていて欲しい。この刀の銘は『神明しんめい』というんだ」


 その方を莉奈は受け取ると大事に胸に抱き。帰ってきたことを喜んでいるようだった。


「もしかして天地神明?」


「そうだ。天地一家が持っていて初めて完成する刀だ」


「刃のわりには、しゃれたことするじゃない?」


「わりには余計だ!」


 そういって笑い合う。俺達はこれで前に進むことができるんじゃないだろうか。


 莉奈は実家で住むことにしたそうだ。おばさんも今は一人だし丁度いいという。


 おじさんも魔物に殺されているのだから、俺は何と声を掛けていいかわからなかった。


 元気になってもらう為には、仇を討つしかないと思っていた。


「じんはかたなをつくれるんだよね?」


 佳奈は何故そんなことを聞いたんだろうか。


「あぁ。そうだぞ。なんでだ?」


「かなにもかたなつくってー!」


 小刀か。それはいいかもな。お揃いの鞘に入れてここにお守りとして置ける。武岩総長の許可が必要だが、佳奈の為だと言えば許可を出して貰えるだろう。


「わかった。今度つくってくるな?」


「うん! おなまえもつけてねぇ?」


「はははっ! 一丁前だな! 俺の打った物で銘付きの刀なんてなかなかないんだぞ? 俺の場合は、傑作だと思ったものにつけるからな」


「ふーん。けっさくつくって! ぜったいだよ!」


 無邪気な子供のお願いだが、佳奈のお願いとあっては断る事はできないな。『神明』を上回る物を作ってあげよう。もちろん『天涯比隣』は俺の中で最強だがな。


「わかったよ。今度持ってくるな?」


「わーい!」


 佳奈が喜んでくれれば俺はなんだっていい。そう思ったのだった。


(秀人。俺達は絶対に異世界化の謎を解き、世界を救うよ)

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